“Gift for Life”という言葉は、「生命への贈物」とでも訳せましょう。ご存知の方も少なくないと思いますが、アメリカで行われている臓器移植のキャンペーンのスローガンだそうです。 腎移植や心移植を受けた成人の患者さんの話によりますと、移植後一番強く感じたのは、体の芯に生命の力を感じ、日々の生活が明るくなった、特に食事がおいしくなった、ということだそうです。 胆道閉鎖症で肝移植を、心筋障害などで不可逆の心不全になり、心移植を受けた子ども達は、目立ってすくすくと育つようになった、と母親は申します。言葉に表すことができなくても、子ども達は生きる喜び一杯になっているに違いありません。ひとつの生命が消え、もうひとつの生命が輝く、正に“Gift for Life”なのです。 しかし、その“Gift”を脳死にたよらざるを得ないところにいろいろな問題があり、小児科医は他の医師とは異なった悩みを持ちます。わが国の小児医療の現場で、不幸にして脳死状態になっている子ども達の実態は、残念ながら不明のようです。アメリカのデータによりますと、子どもの脳死は、脳死全体の数%にすぎません。そして、その約30%は1歳以下、1歳〜5歳が約40%、6歳〜15歳が約30%だそうです。その原因をみると、約40%が無酸素症、約30%が頭部外傷、約10%の感染症と、それに血管障害、代謝異常、先天異常とつづきます。これらのデータは、いくつかのことを考えさせます。第1は、生まれる時、あるいは生まれて間も無い時の医療の中で、子ども達は不幸にも脳死状態になっているのではないかということです。ある意味でpreventableなことかもしれません。第2は、臓器移植が小児医療でスタンダードなものになった時、第2の生命を救うのに、いったい十分なGiftが得られるのだろうかということです。特に、移植される臓器の大きさが問題となるような場合にです。 脳死は時間の問題で、法制化されると言われています。もしそうなれば小児科医は子どもの脳死の規準を作らなければなりません。そして、脳死とはいえ、レスピレーターで"生きている"子ども達の親との話し合いや、意志でそれを止めることを決めなければならないし、“Gift for Life”として、第2の生命への橋渡しの役を果たさなければならなくなるのです。 どんなかたちであろうと、わが子は生きて欲しいと願う親、どんな病気であろうと、子どもの生命を守らなければならないと考えてきた小児科医は、どのようにすればよいのでしょうか。なかなか割り切れないと思います。 まず、原点に立って、親と共に子どもの死、第2の生命を輝かせる意義、移植医療の今後の発展、さらにはもっと本質的に、人間が生きるということは何かを、科学・技術の文化の流れの中で、考えなおさなければならない時にあると思います。
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