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小林 登文庫
小 論 ・ 講 演 選 集


医療・医学に関する小論・講演(1999年以前に発表)

脳死は子どもの死か
1992 小児科診療 第55巻第7号

「臨時脳死及び臓器移植調査会」いわゆる「脳死臨調」が、「脳死は人の死」とし脳死移植を是認し、法的整備を推進するように答申して3ヶ月になる。医療関係者にインパクトを与えたが、小児科医の反応は意外に少ない。この問題は、社会文化の背景なしには考えられないものであり、脳死が人の死と法律的に制度化され臓器移植が一般化されるまでには、なお時間が必要であろう。本調査会の答申には、事例も少なく、親の立場などを考えると、問題が複雑であるためか、小児は対象から除外されている。しかし、小児医療の現場には、臓器移植以外に生命は救えない子どもたちも少なくないし、外国で移植を受けて来て生活している子どもたちもいる。また、一方、人工呼吸器などの助けによって、かろうじて生命を維持している子ども達も少なくないのである。小児科医としても、今後はこの問題はさけて通れないし、今や考えるべき時にあるのではなかろうか。
欧米の小児医療のセンター的施設の実情をみると、腎不全に対する腎移植は日常茶飯事のことであり、先天性胆道閉鎖症の子どもの肝移植、複雑な心奇形や特殊な心肥大の子どもへの心移植も、決して少なくなく、準スタンダードの治療法になっている。我が国では、こういった病気の子ども達の親の願いは、まことに切なるものがあり、それに対して何とかしなければならないと思うのは、小児科医として当然であろう。
しかし、小児科医は、小児科学の歴史の中で、いかなるかたちであろうと、子どもの生命は維持すべきであるという立場から、生まれながらにして心身に障害ある子ども達への医療を進めて来たし、最近は周産期にはじまる救命・救急の医療技術を高め多くの生命を救っている。病棟をみれば、次のような脳死とか植物状態をみるに違いない。第1は、先天代謝異常や特殊な持続感染による脳の変性疾患であり、第2は健康な子どもに起こった事故(交通事故など)による障害、第3は周産期合併症などである。
脳死臨調では、植物状態と脳死とは区別しているが、考えようによっては紙一重かもしれないし、生命のとらえ方によっては区別は困難であるかもしれない。したがって脳死による臓器移植が制度化され、生命維持の経済的側面が問題になったり、ドナーとレシピエントの量的なアンバランスが大きくなったりすると、事態は決して単純ではなくなるであろう。また、親が子どもの命をどのように考えても、またわが子の臓器で他の子どもの命を救いたいという善意があっても、親権と子どもの人権という法律的な検討も残ろう。とくに、心移植の場合、必要なのはレシピエントの体の大きさに適合した心臓であり、他の移植のようなわけにはいかない問題がある。
こう考えて来ると、子どもの生命、Quality of Lifeをどのように捉えるかが大きな問題となり、脳死臨調の報告はある意味で小児科学のRaison d’Etreと全く関係なくはないと思えるのである。


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キーワード: 脳死 臓器移植 掲載: 2004/11/29