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小林 登文庫
小 論 ・ 講 演 選 集


医療・医学に関する小論・講演(1999年以前に発表)

戦後50年、小児感染免疫学も大きな転機をむかえている
1995 小児感染免疫Vol.7 No.3

 日本小児感染症学会が目指す小児感染免疫学にはふたつの立場があろう。それは、ここの学会がひとつになって、本学会が設立された歴史の流れからも言える。すなわち、子ども達の疾病の原因となった病原微生物を明らかにする立場と、それに侵入された子ども達の体の中におこる、免疫反応を中心とする生体反応のメカニズムを明らかにする立場である。そのいずれの立場も、子ども達の感染症に対する、より良い予防法、さらには治療法の開発にとって必須のものである。
 第二次世界大戦後、多くの子ども達は感染症で命を失った。赤痢・疫痢・肺炎・そして結核・ポリオなど、考えてみれば感染症の種類には枚挙にいとまがなかった。しかし、戦後の経済復興と共に医学が進歩し、医療技術が向上し、その上抗生物質の普及によって感染症は少なくなった。特に細菌感染症は激減してしまった。
 しかし、戦後50年たった今、子ども達にとって感染症の問題は決して解決していないことは周知の通り、残された問題と共に新しい問題も出てきているのである。いずれの立場にあっても、われわれの解決すべき問題は少なくないと言える。
 第1の立場で大きいのは残された問題で、感染症としての川崎病の病原微生物があげられる。多くの研究者は、その臨床像からも原因は感染因子と考えている。そして、溶連菌、ダニなどいろいろ取り上げられて来たが、未だ決定的でないのである。あれだけ騒がれたダニも、今それが原因と考える研究者は殆どいない。川崎病の病因が細菌感染にあるとすれば、現在の方法論ではなかなか網にかからないという特性を持った細菌ということになろうか。
 第2の立場で大きい問題はAIDSであろう。生体の反応に関心を持ってきた研究者の多くは、この20年間免疫不全症候群を中心に研究を進めてきた。特に、先天性免疫不全症候群の研究は小児科医の独壇場であったと言えよう。小児期に発病し、しかも免疫反応の分子レベルの根幹に関係する疾患であるからである。当然のことながらこれに平行して、後天性免疫不全症候群Acquired Immunodeficiency Syndrome、すなわちAIDSにも関心を持ってきたが、それは一般的なウィルス感染などに続発する免疫不全のことであった。
 しかし、今やAIDSといえば、HIV(human immunodeficiency virus)という特殊なウィルスによる免疫不全をさすようになってしまった。しかも、このウィルスが免疫不全を起こすメカニズムには、明らかにすべき点も多く、治療法になるとまだまだ不充分なのである。われわれのやるべきことは多いのである。
 こういった残された問題、新しい問題を研究するとなると、いずれの立場にあっても、分子生物的な知識と技術がますます重要な役割を演ずることは間違いない。最近話題になっている、遺伝子からその機能を明らかにするreverse genetics(逆方向遺伝学)、従来の遺伝形質からその遺伝子を明らかにし、新しい技術でそれを取り出すforward genetics(前方向遺伝学)の考え方が必要であろう。特に、遺伝子を移したり(gene transfer)、あるいはとばしたり(gene knockout)して、新しい動物をつくる技術の理論と応用は、 われわれの問題解決に、この分野にも新しい道を開いてくれるに違いない。
 遺伝子治療が初めて応用された疾患は、われわれが関心を持っている免疫不全である事実によって象徴されるように、小児感染免疫学も21世紀に向け、今大きな転機をむかえている。


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キーワード: 病原微生物、AIDS、遺伝子治療 掲載: 2005/05/27