ADHD亜型における内向化症状の類似性について

　注意欠陥多動性障害（ADHD）の亜型に応じて起きる不安とうつの差異についての研究は、専門家によって意見の分かれるところであった。しかし最近発表された研究において、研究者らはADHD児のなかで不注意優勢型（ADHD/I）がADHD混合型（ADHD/COM）と比較して不安とうつ状態（内向化症状）の程度に関して違いがあるか否かを体系的に評価し、これらの症状が両群でほぼ同じであることを見出した。
　ラッセル・バークレーは、1998年に出版された著書「注意欠陥他動性障害：診断と治療の手引Attention-deficit/hyperactivity disorder: A handbook for diagnosis and treatment」の中で、ADHD/�T型を集中が出来ない基本的欠陥として定義し、その結果、選択的注意欠陥障害、精神的受動性、社会的引きこもりを引き起こすとした。ADHD/COMとは、脱抑制関連の基本的欠陥を有し、注意持続の困難、破壊的行動、社会への拒絶反応などの問題を持つ者を指す。
　本研究の参加者は、北東部の小児病院にあるADHD治療センターに紹介された729名の中から逐次選んだ。被験者は8歳から14歳とし、729名の参加候補者のうち、451名がこの年齢範囲内にあった。そのうち、329名のみに本研究で用いた各基準についてのデータがあり、最終的に119名の子どもたちが研究に参加した。これらの子どもたちを三つの診断群に分けた。ADHD/COMの子ども42名、ADHD/Iの子ども45名、非ADHDの比較群の子ども32名である。
　これらの三群では、年齢、社会経済的背景、性別に有意差はなかったが、ADHD/COMの子どもたちはADHD/Iや非ADHDの比較群と比べて、アフリカ系アメリカ人が多い傾向にあった。
　用いた診断基準は、「改訂思春期診断のための面談-親用DICA-R-P」、「ADHD評価スケール�W-教師用」、「子どもと親の評価スケール用行動評価システムBASC-PRS」、「子どもの顕性不安スケール2004年8月改訂版RCMAS - 不安についての子どもの自己報告」（心配／過感受性サブスケールを本研究では不安を示す指標として用いた）の四つである。
　研究者らの結論によれば、ADHD/Iの子どもたちの不安やうつのレベルは、ADHD/COMの子どもたちと比較して高くなかった。親と子どもの両方で評価した内向化症状を四つの基準を用いて亜型を比較するため、約0.5まで有意差を検出できる解析を用いたが、結果に有意差は認められなかった。
　事後解析では、親と子どもの評価に関わるADHD/COMとADHD/I群間で行った前述の４つの診断基準による比較のうち3つ診断基準による違いは、無視して問題ないほど小さいものであった（0.30未満）。残りの診断基準である「不安についての子どもの自己報告」においては、ADHD/COMの子どもの評価が、ADHD/Iの子どものそれよりも高いものであったが、ここでの違いも明白と言えるほどのものではなかった。
　更に、内向化症状を類型化して評価するDICAを用いて亜型の比較を行ってみたが、差異は見られなかった。総合的内向化症状のレベルを予測するためADHDの症状を多面的に分析した結果もこれらを裏付けるものであった。
　研究者らは、「子どもと親の評価スケール用行動評価システムBASC-PRS」において現れた、親の報告した「うつ」に関するADHD/COMとADHD/Iとの差異は、問題が外面化されている程度の違いによる親の認識の違いからきていると述べている。内向化症状を類型化し多面的に評価した結果得られた結論である。これにより、DSM-IV（米国精神医学会による診断基準）によって診断されたADHDの亜型と内向化症状には何かしらの関連性があるとした専門家の考えは支持できないことが明らかになったと研究者らは報告している。