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8月
8月

〜わが子に願いを持たないなんて!(4/5)〜

<今月の本>ミヒャエル・エンデ作 『オフェリアと影の一座』



◆短所を長所に変える逆転の発想◆

 そのころ、長野県黒姫高原にある矢川澄子先生のお宅をお尋ねした時のこと、
 「この絵本、どう思います?」
 と言われて、見せていただいた絵本がありました。ミヒャエル・エンデの『オフェリアと影の一座』という不思議な絵のついた一冊でした。名作ファンタジー『モモ』(いずれも岩波書店刊)を書いたエンデの、『モモ』の他の作品、ことに絵本は、私はあまり好きになれなかったのですが、この一冊には、ひきつけられました。

 まず、絵に魅せられました。およそ、いままでに、絵本の絵として描かれた絵とは異なっていました。恐ろしいほどに。物語は巧みな日本語訳に支えられて、エンデ一流のエスプリと風刺の効いたファンタジーが展開されます。芝居好きの両親が、娘を立派な大女優にしたいと、「オフェリア」(シェークスピア『ハムレット』のヒロイン)という名前をつけたのです。ところが、

―― 小さなオフェリアさんは両親から、芝居のこころこそ受けついだものの、そのほかはゼロでした。大女優にもなれませんでした。なにしろ、声が小さすぎたのです。けれども、なにか目だたぬことでもいいから、やっぱりお芝居にかかわる仕事をしてゆきたい、とオフェリアさんは思ったのでした。――(矢川澄子訳)

 つまり、オフェリアさんは役者が台詞を間違えないように、舞台の下で教えるプロンプターの仕事を一生続けるのです。大女優としては声が小さすぎるという欠点を、そのまま活かして、プロンプターの仕事を選んだのです。短所を長所に変える見事な逆転の発想ではありませんか。

 この絵本を何度も読み返すうちに、私は、やっと、前述のM先生のことばを、少し、理解できたような気がしてきました。
 人は、そして子どもというものは、より良き協力者を得て、自分で自分の人生を切り開いていくものだということが、見えてきました。その場合、必ずしも、親の願いや思惑とは合致しないということも。

 息子はすでに社会人です。小さな男の子だった者がいつのまにか毎日髭をそって出掛けて行きます。子どもの成長も、私たちの人生も、ほんとうにあっという間ですね。


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