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第一章 教職志望大学生の自己像

 この章では,第一に教職志望の大学生の向学校文化的なこれまでの学校生活を考察する。第二に,一般的な教師特性と重なるパーソナリティの保有を,主に調査票から得られた結果をもとに検証していく。


1. 向学校文化的な学校生活

(1) 学校文化とは
 ここで言う文化とは,ある「場」において人々の行動に作用する規則や決まりをさしている。普段は意識されることの少ない規則が,人々の行動をある型に向かわせていると言ってもよい。学校も,「場」のひとつであり,独特の規則・ルールを持って,「学校文化」といわれるものを創っている。学校文化の概念は多岐にわたっており,組織・制度面,学校生活の日常的活動面などに分類できる。
 学校の組織・制度も,人々の行動をある特定の型に向かわせている規則・ルールであるから,学校文化と呼ぶことができる。学校組織とは基本的に強制的性格を持った官僚組織であり,次のような特徴をもっている。意図された行動目標としての体系的な教科・カリキュラムがあり,資格を持った教師が統制している。学年,クラスの編成,決められた時間内での行動などがそうである。
 日常生活面においても,学校は独特な文化をもっている。これは,上記の組織・制度面を反映したものであり,例えば,次のような特徴が先行研究によって明らかにされている。標準化された集団に同調する限りにおける個人の評価(同調性,忠誠性)。同一課題=同一集団志向の授業により,あらかじめ設定された課題への早く上手な到達が良しとされる(同時性)。学級委員長,班長などのクラス内での序列づけ(権威性)1)。その他,勤勉イデオロギーや,生徒指導という名におけるしつけなど。
 このような学校文化にうまく適応している生徒の持つ文化を,向学校文化的な生徒文化として捉えることができよう。

(2) 教職志望学生の持つ向学校的生徒文化
 教職志望学生がどのような学校生活を送っていたかを考える際に生徒文化は重要なキー概念になる。生徒文化は学校文化の中のサブカルチャーであり,いくつかに分類することができる。主な先行研究で,「勉強型」「遊び型」「逸脱型」「孤立型」の4種類(武内,1978),「勉学志向」「遊び志向」「社会性志向」の3種類(白石,1976),「勉学志向」「娯楽交友志向」「社会活動志向」「脱集団志向」の4種類(米川,1978)などが報告されている。また,このような生徒文化を分化させる要因は,学校格差のほかに,親の階層,学歴,本人の成績,進路などがあり,向学校の生徒文化を生む要因としては,高学歴の親,成績上位,大学進学志望,教師の期待大などがあげられている2)
 教職志望学生の親には教員の比率が高いという研究もあり3),親の学歴が比較的高いことを窺わせる。学生自身の成績はどうであったかと言うと,今回の調査では図1-1のような結果が出ている。特に,小・中学校時代には「上」「中の上」の成績だったものが80%以上おり,教職志望学生の成績が上位であったことがわかる。成績の自己評価と学校生活とのかかわりは深いと考えられる。成績の良い子は勉強が好きで,教師との関係は良好で学校生活を楽しんでいるという報告もあり4),成績の良さが,向学校的な傾向を生む一因になっていることがわかる。

 教師と教職志望学生の関係はどのようなものだったのだろうか。今回の調査からは,「先生が,すごく親身になってくれて,1時間くらい進路相談とかしてくれて,がんばれとはげましてくれた」(座談会,教職志望・男子2年)という声や,「あなたならこのくらいの本を読めるだろうから読んでごらんなさいと言われた」(教師観調査自由記述,教職志望・女子2年)など教師から期待されていたであろう姿が浮かんでくる。教師との関係は,おおむね良好であったといえるであろう。
 学校生活は楽しかったかという問いに対しては,90%ほどの学生が肯定的に答えている。(図1-2)また,高校までに学級委員や生徒会役員を経験したことがあるかという問いに対しては,84.2%の学生が,「経験あり」と答えている。これらから,彼らが積極的に学校生活に関わっていた姿が想像できよう。
 以上のことより,教職志望学生が向学校文化的な学校生活を送っていたことが明らかとなった。


2. 教職志望学生のパーソナリティ

(1) 教師のパーソナリティ
 一般的に,教師のパーソナリティはどのように捉えられているのだろうか。言葉を変えれば,どのような人物が教師に向いているのか,ということであるが,先行研究(小学校教員に対して行われた,どのような因子が同僚教員に低く評価されたり高く評価されたりするのか調査したもの)によれば,次のようなことが明らかになっている。これによって,教師に必要なパーソナリティをつかむことができよう5)
 第一に,「教授能力」のある人物であること。勉強しない教師や,授業に熱心さの足りない教師は同僚からも低く評価される。つまり,勉強熱心であることが求められる。第二に,学年全体の調和を考えた行動をとること。言い換えれば,「協調的」であること。第三に,生徒に好かれること,生徒の要望要望に耳を傾けることができる,「生徒との人間関係能力」も求められている。
 つまり,教師のパーソナリティとして,勉強熱心であり,同僚と協力して仕事ができる協調性をもっており,生徒のことを気にかけ,よく面倒を見るといったものをあげることができよう。他にも考えられる教師特性はあるだろうが,ここでは,これらの点に基づいて教職志望学生のパーソナリティを検討してみたい。

(2) 教師特性と重なる教職志望学生のパーソナリティ
 先述のような教師特性が明らかになったところで,今回の調査結果から見られた教職志望学生のパーソナリティと教師特性との重なりを見てみよう。
 まず,勉強熱心であるということ。これは,先ほどの図1-1からも見て取れるように,教職志望学生には,上位の成績を取っていた者が多いことからも説明できるだろう。また,座談会において発せられた,教職を志望する動機のひとつとしての「教員って勉強できるじゃないですか,やっぱ死ぬまで勉強したいじゃないですか,それを考えると教員って夢のような職業だと思う」(座談会,教職志望・男子2年)という意見にも表れている。その他にも,「教師になるまでに,たくさんの知識を学んでおきたい」(座談会,教職志望・女子1年)などの意見もあり,学習意欲の高さをうかがわせる。
 次に,協調性に関してはどうであろうか。今回の調査では,協調性を高い人間関係能力として捉え,「自分は友人が多いほうだと思うか」,「困ったときは友人に相談することができるか」などの質問をしている。それによれば,「友人が多いほうだ」と思っている教職志望学生は61.6%(「とてもそう」+「わりとそう」の割合)おり,非教職志望学生の46.2%という数字より明らかに高い値を示している。また,困ったときに友人に相談できるかという問いに対しても,教職志望学生は69.6%が肯定的に答えており(「とてもそう」+「わりとそう」の割合),非教職志望学生の57.0%を上回る。教職志望学生が協調性に富むこと,その高い人間関係能力が推察されよう。
 最後に,生徒との人間関係能力についてはどうであろうか。教職志望学生には,生徒と良い信頼関係をつくっていける教師になりたいという思いが強い。「生徒とコミュニケートできる教師でないといけない」(個別アンケート,教職志望・女子2年)という意見や,「子どもの心理を理解することのできる教師になりたい」(個別アンケート,教職志望・男子2年)などの声からも,推し量ることができる。調査票のデータからは,教職志望学生の9割以上が「子ども好きである」と答えている(「とてもそう」+「わりとそう」の割合)こと(非教職志望学生では67.0%),「自分は面倒見が良いほうである」と捉えているものが,教職志望学生には78.1%(非教職志望学生では59.9%)いることなどから,生徒との良い人間関係をつくろうとする姿勢がうかがえる。また,教職志望学生は,教師になった時に「子どもの気持ちを理解する自信がある」と答えているものが68.6%(「とても自信がある」+「まあまあ自信がある」の割合)で,非教職志望学生の47.2%よりも多いことからも,教職志望学生が,高い生徒とのコミュニケート能力を自らに求めていることがわかる。
 これらのことから,教職志望学生が,一般的な教師特性に重なる性向を持つということができよう。



1) 片岡徳雄編『現代学校教育の社会学』60頁,福村出版,1994
2) 生徒文化の分類はこれまでにも様々に行われてきているが,例えば上記の先行研究がある。武内清・清水義弘・松原治郎・潮木守一・新井郁夫・小野浩・菊地城司「地域別に見た高等学校の適正規模に関する総合的研究」『東大教育紀要』17巻,1978,白石義郎「高等学校における生徒文化の形態と機能に関する調査研究(1)」『九州大学紀要』24集,1978,米川英樹「高校における生徒下位文化の諸類型」『阪大人間科学紀要』4巻,1978
3) 池田秀雄「教員養成大学におけるプロフェッショナル・ソーシャライゼーションに関する調査研究(T)」『広島大学教育学部紀要』第23巻第1部,125頁〜135頁
4) 麻生誠・小林文人・松本良夫編著『学校の社会学』61頁,学文社,1986
5) 永井聖二「日本の教員文化」『教育社会学研究第32集』1977,93〜103頁


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