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 学びとデザイン研究室〜Learning and Design〜

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記憶の中の博物館

友人に「子どものころに行った博物館ってどんなところ? 何か覚えていることある?」とたずねたところ、「科学系博物館」という答えがかえってきた。否、そこが科学系博物館であるという自覚が彼にあったわけではなかった。名前はわからないけどこんな感じで…と、よくよく話を聞いてみると、京都の深草にある京都市青少年科学センターのことらしい。すぐそばに親戚の家があり、その家を訪問するたびに訪れたという。そこへ行くことは「楽しみ」で、ヒヨコの孵化の様子を順に見ることができたことや、プラネタリウムが記憶に残っているとのこと。

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一般的に「博物館のイメージとは?」と、問うと「おカタイ、敷居が高い、暗い、古いものがある」という答えが返ってくることが多い。では、ひとりひとりの心の中で、その人が訪問したひとつひとつの博物館は、どのようなものとして記憶されているのだろうか。本当にそこは、おカタくて暗くて…というところなのだろうか。

* * *

この春から教育系学部の学生を対象に、博物館学の講義を担当することになった。受講生の多くは2年生。「博物館とは何か」という問いに各自がすでに答えを持っているわけではなさそうである。そこで、まずは自己の博物館経験を整理することで、博物館について考える手がかりを持ってもらいたいと思った。今までに行った博物館から5つ選び、憶えていることをあげてもらったところ、大学生の記憶の中の博物館像がうっすらとうかびあがってきた。

全体の3分の2の学生が科学系の博物館における経験について書いていた。それによれば、大学生の思い出の中の科学系博物館とは、「細かいことはあまり記憶にないが、小学生のころに行ったことがあり、プラネタリウムを見た」ところであるようだ。先ほどの友人とほぼ同じような回答である。

引き続き、大学生から得た回答を手がかりに、科学館だけでなく博物館全般についても、博物館体験において何を記憶にとどめているのかということを整理してみる。それによれば、博物館を訪問した際の記憶は、展示物だけのものではないことがわかった。展示場全体の雰囲気や、一緒にいった人のこと、食事の内容やミュージアムショップで購入したものなど、その日に経験した様々な出来事が幾重にも重なって思い出をかたち作っている。展示物については、入って最初に目にしたもの、大きなもの、珍しいもの、あらかじめ見たいと希望していたものについては、個別に記憶しているようである。また、動いているもの、触ることのできるもの、体験することのできるものなど、動的な展示物は記憶に残りやすいと多くの人が記述した。言い換えれば、それ以外のものについては、あまり覚えていないということになる。記憶のされかたの傾向については、自分の意志で博物館に行った場合は記憶に残りやすく、学校行事などで強制的に連れられて行ったものは記憶に残りにくい、と大学生達は考えている。そして、たくさんのものをみすぎると、全体的にどんなものだったかは覚えていても、細かいことは記憶しにくいとの意見が出ていた。

博物館における思い出とは、その日の経験のすべてが相互にかかわりあったものであり、個別の展示物もさることながら、展示空間全体の雰囲気、その一日のできごと全体としてひとまとまりに心の中にあるようだ。そして、みんなのコメントから感じたのは、誰と行ったのかということが記憶とのかかわりにおいて重要な意味をもっているということ。冒頭に紹介した友人も、「いつも、おばちゃんが『さぁ行こか』って言って出かけて…」と、思い出話の中に何度も「おばちゃん」を登場させていたっけ。

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京都市青少年科学センター
http://www.edu.city.kyoto.jp/science/

記憶の中の「ヒヨコの孵化」は、第一展示場にある「ニワトリの発生」という展示のようです。問い合わせてみたところ、ニワトリの卵は孵化するのに3週間かかり、京都市青少年科学センターでは半日ずつ時間をずらしてニワトリの卵を孵卵器に入れて20日間温め、21日目の卵を見ることができるようにしているそうです。というわけで展示されているのは模型ではなく、今まさに孵化しそうな卵と、生きているヒヨコそのもの! 運がよければ、卵からヒヨコがかえるところを目にできるとのこと。電話でお話をきかせてくださった職員の方によると、「その瞬間に立ち会えた方たちは、みなさんとても感激なさいますよ」とのことでした。小学校低学年のころに何度も通い、多くの展示品を見ていた中で、25年経っても記憶にとどめているのはどうしてなのでしょう。なにがそれほどまでに印象的だったのでしょうか。もしかしたら彼は、幸運にも「その瞬間」に居合わせることができたのかもしれませんね。
(2004/10/08)

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