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若き学習者の生活のある一日:2020年のビジョン
ミルトン・チェン、ジョージ・ルーカス教育財団専務理事(Executive Director)
スティーブン・D・アーノルド、ジョージ・ルーカス教育財団副理事長(Vice Chair)
イラスト−グレッグ・ナイト

「学習における孤立と抽象化という2つの弊害は、
テクノロジーによって克服することができる」
ジョージ・ルーカス、ジョージ・ルーカス教育財団理事長(Chairman)


2020年7月15日:
サンフランシスコの霧のかかったある夏の日、11歳のマリアは熱心に勉強中だ−学校内である。2007年、彼女の学区では9ヶ月制の学年制度が変更された。教育・学習は通年の活動であり、長い夏休みは子どもたちが収穫物を刈り取るために必要とされていたころの時代錯誤的な遺物にすぎないという認識によるものだ。学校の概観や雰囲気は企業の職場と公共図書館、映画のセットを織り交ぜたようだ。生徒一人一人の個性や興味を表現するように飾られた仕切りスペースと、大型のマルチメディア製作・研究センターが10箇所あり、クラス全員の作業には十分である。備品はほとんどすべてに車輪がついており、作業スペースは生徒たちの特別な活動の必要性に応じて、レイアウトを容易に変更することができる。同校は1995年設立の、当時としては学校デザインのパイオニアであったミネソタ環境学高等学校の影響を受けて設計された。

この日の始業時、教室ではあちらこちらで、生徒たちのグループが昨夜のオンラインでのやりとりについておしゃべりしたり、地学の課題をどう続けていくかを整理したりしている。マリアと二人の同級生、サハルとオズワルドはマルチメディア製作・コミュニケーション・ステーションの快適な作業用の椅子にすわり、高解像度の有機ディスプレイ画面を眺めている。画面は前後から見ることができ、音声コマンドで画像、テキスト、デジタルビデオを組み合わせて呼び出すことができる。

オズワルドは生まれつき視覚障害を持っているが、デジタルの「人工視覚システム」の支援技術を使ってものを見ることができる。このシステムは、眼鏡にミニカメラを装備したもので、プロセッサ信号と電極が視覚野を刺激するようになっている。2002年に第一号が開発されたものだ。前世代の視覚障害の生徒とは異なり、オズワルドは健常者とともに、すべての活動に完全な形で参加することができる。

「ぼくたちの火山に関するチーム・プロジェクトを出してください」とオズワルドがサーバーに語りかける。チームで先週の進捗状況を見直すためだ。総合的学習ネットワーク(Global Learning Network)を利用した研究で、チームはハワイ火山国立公園(the Hawaii Volcanoes National Park)のウェブサイトにアクセスすることができる。火山の噴火を撮影した数時間にわたるビデオフィルムを自分たちの目で確かめ、火山学者が溶岩流を追跡、測定する作業を観察し、彼らへのインタビューも見た。サイトにはハワイ島における1983年のキラウェア火山噴火を3次元で時系列的にとらえたホログラムも含まれていた。時系列写真の時間短縮技術を通じて、生徒たちは過去40年にわたる溶岩流を目の当たりにすることができた。チームではホログラムのコピーをとり、他の生徒たちが利用できるよう、教室内に置くことにした。


(c) The George Lucas Educational Foundation

昨日は特殊なバーチャル・リアリティー(仮想現実)用ヘッドギアをつけ、溶岩原に出かけるシミュレーションを体験した。何エーカーにもわたって古くから形成された溶岩を歩いて渡り、海に向かって流れ出す明るいオレンジ色の溶岩の現場に到着するという、臨場感を味わうことができた。マリアがにっこり笑いながら言う。「とってもすてきだったわよ。溶岩がパチパチと音を立てているのが聞こえたわ。」昨夜は生徒たちがそれぞれ自宅から、今日に予定されている火山専門家のインタビューに備えた質問を出し合うブレーンストーミングを行った。「昨夜のインタビューの質問を出してください。」サハルが要求する。システムが起動して、ただちにスクリーン上に生徒たちの作業結果が表示される。

担任のキャヴェリー・ドゥッタ先生が立ち止まって、生徒たちがビデオ会議に備えて議論するのを見ている。「何世紀も前に、火山がハワイの原住民にとってどういう意味を持っていたのかも調べてみると面白いと思いますよ。彼らは火の女神、ペレを信じていたのです。」と助言を与える。そして、ハワイ大学のデジタル図書館から検索、アクセスできる文献を紹介する。また、マサチューセッツ工科大学(MIT)の地質学者、トーマス・ジャガー氏の先駆的研究を見ることも提案する。ジャガー氏は1912年にハワイ火山観測所を設立、議会に同地域を国立公園として保護すべく説得した功績を持つ。

ドゥッタ先生は別のグループの様子も見てまわる。生徒の一人が火山岩の標本を手にし、もう一人がこれを携帯式のデジタル顕微鏡で観察している。拡大された映像は背後の大型スクリーンに映し出すことができる。三人目の生徒はマリアのグループが置いた火山のホログラムを調べている。


(c) The George Lucas Educational Foundation

「ハワイ火山国立公園の火山学者の方へのインタビューの準備が整いました。」とマリアが知らせる。国立公園サービス監視官のおなじみの緑の制服を着た公園の主任説明員、ハロルド・レヴィット氏の顔が現れた。生徒たちの質問に答えながら、レヴィット監視官は、さらにいくつかの映像画面を紹介してくれる。キラウェア火山噴火当時のビデオニュース・クリップやデータ文献、硫黄噴煙が出た際の危険など火山の科学と特性について、家屋の破壊から観光産業の発展まで、地域コミュニティへの人的な影響などである。マリアとクラスメイトはサイトに向けたカメラを通じて、今日の溶岩流をリアルタイムで観察することもできる。熱い溶岩が冷たい海水と接して黒色の砂を生成する状況を見るチャンスに恵まれる。

マリアが尋ねる。「2、3週間前にこちらで小さな地震がありました。揺れは感じたのですが、被害はありませんでした。地震と火山はどういう関係にあるのでしょうか。」別の画面で、レヴィット監視官は地殻変動のシミュレーションを呼び出し、生徒たちに地球の断面図とさまざまな高度から撮影した衛星空中写真、またそれに重なる形で湾岸地域とサンフランシスコの地震帯を見せる。さらにその他の専門機関として、湾岸地域の米国地質学調査事務所(USGS)を紹介する。マリアとクラスメイトは、現地調査とUSGSのウェブサイトの閲覧を申し出ようと、進行中のプロジェクトの記録にボイスノートをとっておいた。

レヴィット監視官との20分間にわたるインタビューをプロジェクト・アーカイブの一部として学校のサーバーに記録してから、生徒たちはさっとビデオ原稿を見直し、マルチメディア報告書の最終版に使えそうなコメントに目印をつけておく。2時間のセッションを終え、マルチメディアの作業をまとめて、次回ミーティングの日程を決め、それまでの宿題を割り当てる。今日のワークファイルのコピーはデジタル・バックパックに入れておく。コミュニケーション端末となる簡易携帯パソコンは、以前教科書が配布されたのと同様に、生徒一人一人が新学年の最初に借し出されるようになっている。

マリアはこの「デジパック」のおかげで、午後は徒歩で数ブロック先にある父親の事務所へ行き、火山プロジェクトにさらにいくらか時間を費やすことができる。父親が仕事を終えるのを待ちながら、マリアはデジパックを使って学校の図書館情報システム、また今は広く使えるようになった無線ネットワークに接続する。ハワイの神話についてのリンクを検索し、参考文献を拾い読みしながら、ビュースクリーンで女神ペレについての短いビデオクリップを見て、明日学校でプロジェクトのパートナーに見せられるよう、いくつかのボイスノートを記録しておく。

その夜、帰宅したマリアは居間で中国語を練習している。いつか中国を訪れたいと考えており、そのために基本的な中国語会話、読み書き勉強を、オンライン言語学習システムを用いて行っている。妹のソニアはマリアのそばにすわって、学校にあるのと同じようなマルチメディアの画面を一緒に楽しく眺めている。二人とも携帯式のデジタル中英辞書を持っており、両言語の単語や言い回しを文字や音声で調べることができる。自分たちの話したフレーズを保存しておくこともできる。

マリアが「サッカーの授業をお願いします」とリクエストすると、中国のサッカースター、チェン・ミンデがまず、画面に現れる。ブラジルのディフェンダーをかわしながらドリブルして、ゴール角に正確なシュートを決める。プレーごとのコメントが、中国語で聞こえ、画面下にローマ字表記の発音と漢字が示される。また、音声が流されると同時に、単語や文字一つ一つがライトアップされる。

マリアが画面で発音を練習していると、システムからフィードバックが帰ってくる。自分の発音がまず再生され、続いてデジタルで矯正された発音が聞こえる。英語の話し手にとって難しいとされる四声の発音能力を上達させることができるわけだ。


(c) The George Lucas Educational Foundation

このオンラインシステムを通じて、他国で同様の関心を持っている生徒たちと会話し、お互いに語学レッスンをすることもできる。「シアオヤンに話がしたいのだけど」とマリアはシステムに話しかけ、オンライン上の友達、シアオヤン・ザオを呼び出してもらう。上海に住んでいる11歳の女の子で、ニックネームは「XYZ」だ。学校の食堂でお昼を食べているXYZが画面に現れ、英語で話している。マリアは中国語を練習して、お互いの語彙や発音を手助けする。それぞれの家族を紹介する短いビデオを作る約束をして、来週送ることにした。

マリアが学校で火山についてのプロジェクトに取り組んでいることを話すと、XYZは地理のクラスで富士山の勉強をした事を思い出す。古代日本の、火の女神にちなんで名づけられた山だ。マリアはXYZのコメントをボイスノートとしてとっておき、同級生に調査をふくらませる提案としてメールで送る。マリアが会話を終えてログオフしていると、父親が部屋に入ってきて、親たちが何世代にもわたって昔から聞いてきた質問を投げかける。「それで今日は学校で何をしたのかな?」マリアが一生懸命にその日のことを思い出し、明日学校へ戻るのにわくわくしていると、父親は驚きながら首を振る。「考えてみれば、20年前はインターネットしかなかったのになぁ。」


参考文献:

www.isd196.k12.mn.us/Schools/ses(ミネソタ環境学高等学校)
www.glef.org/redesigning (ジョージ・ルーカス教育財団ウェブサイト)

「ビジョン・クエスト:半世紀にわたる人工視覚研究の成功物語」2002年放送

ミルトン・チェン博士より、米国商務省刊行の「2020年のビジョン−先端技術を通じた教育・訓練の転換」中の論文、「若き学習者の生活のある一日:2020年のビジョン」の複製許可をいただいた。ここに厚くCRNより謝辞を申し上げる。イラストの著作権はジョージ・ルーカス教育財団に帰属することを留意されたし。
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