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ネットいじめ
ロバート D.ストローム アリゾナ州立大学教授
パリス S.ストローム アーバン大学助教授

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ネットいじめ(Cyber Bullying)の特異性

 ネットを介したいじめは、最近、急速に青少年の間に広がっている問題である。このタイプのいじめは、電子メール、携帯電話、PHS、ウェブサイトやオンラインなどの電子媒体を用いて、標的の相手に、屈辱感、恐怖感、無力感を与える。このようなネットいじめは、今までのいじめと多くの点で異なる。
 第1に、昔のいじめのように、いじめる者がいじめられる者よりも体が大きく、力が強い必要は無く、肉体的に弱者であってもいじめることは可能であるという点である。ネットいじめは、偽名のハンドルネームを用いることにより、匿名性の下で行われる。直接的な対面でなされないため、いじめた者はいじめられた者の苦しみの大きさが分からず後悔や同情の気持ちを持てないのである(Schneier, 2003)。
 第2に、ネットを介して相手をおとしめようとする悪意あるメッセージは短時間で多くの人の目にさらされる。
 第3に、対面によるいじめでは、いじめた相手が誰だか分かるが、ネットいじめでは、いじめた相手が分かりづらい点である。このことから、いじめる者にとっては、物理的な暴力を目撃されて通報されることが無く、相手を傷つける責任から逃れることが容易なため、捕まったり、罰せられる心配が少ないのである。
 第4に、コンピューター空間でのいじめは、学校側にとっては、どこまでが管轄下であるかを曖昧にする。校長先生や教頭先生は、いじめのメッセージが家庭のコンピューターや携帯電話によって学校外から送信された場合、大抵は管轄外となり、その事に対処することはできない。
 第5に、子どものなかには、親が過剰に反応することを心配して、親にいじめについて話すことをためらう子がいる。10代の子どもにとって、親からコンピューターやインターネットのアクセスや携帯電話を取り上げられることは、社会的に孤立して、友人達と連絡を取れないことを意味するからである(Cottle, 2001)。
 第6に、ネットいじめは、特異なために対処の方法がないと思われるのが一般的だが、起訴の対象となる他の不法行為とよく似た犯罪である。オハイオ州のデイトン大学の法学部はインターネットによるストーカー行為や脅迫行為に関するウェブサイトを立ち上げ、加害者への対処のサポートを得る方法や、告発する手引き、法的なプロセスや刑罰について説明された条項を掲載している。このウェブサイトは、コンピューターによる犯罪を広範囲に扱っていて、コンピューターウィルスやポルノグラフィーの配信のような重罪行為も含まれている。ウェブサイトのアドレスは、http://www.cybercrimes.net である。



ネットいじめの例

 昔は、いじめは家にまでは及ばなかった。家は、安全な場所であり、いじめからの避難所であった。インスタント・メッセージ時代の現在ではもはやそうではない。一般的に学生の多くは学校から家に帰るや否やインターネットを接続する。その時、自分が脅しや噂や嘘の対象になっていることもあり得る訳だが、誰がそのようなことをしているかも分からず、どのように止めさせればいいかも分からないのである。この問題の複雑さは、文化背景の異なったいじめの事例からも理解できるであろう。日本の大阪に住む高校1年生のシノブは、体育の授業の着替えをしている時に、彼が太っていることをからかおうとしたクラスメートに携帯電話で写真を撮られ、すぐさま、多くの生徒の携帯電話に送信されてしまった。シノブが着替えを終わって教室に戻ったときには、すでに彼はクラスの笑い者になっていたのだ。
 カリフォルニア州ロサンゼルスに住む16歳の高校生のデニスは、ボーイフレンドと喧嘩をして別れた。別れた相手はデニスへの復讐を思い立ち、いくつかのセックス関連のウェブサイトにデニスのメールアドレスや携帯電話や住所を公表した。それ以来、数ヶ月、デニスはいたずらメールを受け取ったり、デニスを一目見ようと家を探し当ててクラクションを鳴らす車に付きまとわれたりした。この事例では、いじめの犯人はすぐ突き止められたが、デニスが感じた無力感やきまりの悪さは取り除かれるものではなかった。
 カナダのモントレーに住む中学2年生のドナは、がんの手術を受けた祖母のお見舞いのために、母親と一緒にトロントへ1週間行った。ドナが学校に戻ると、彼女がトロントでSARSにかかったという噂がネット上で流されていた。友達は、ドナを怖れたり、一緒にいるのを嫌がったり、電話で話すのさえ避けた。クラスメートは、彼女が近づくと逃げた。このようないじめの事例は、次のホームページで見ることができる。http://www.cbc.ca/national/news/cyberbullying
 いじめは、1対1とは限らず複数対複数でも起こり得る。例えば、増え続けているオンラインの投票サイトにアクセスする生徒達の状況が挙げられる。なかでも、「アメリカン・アイドル」という無名の歌手が国内の競争を勝ち抜いていく人気テレビ番組に似せた奇妙なウェブサイトがあるが、そこでは生徒が学校で一番太っている子、ゲイっぽい男の子、性体験が多そうな女の子を投票する。このようなひどい仕打ちを受けた者は、落ちこんだり、希望を失ったり、不登校になったりするだろう。以下のホームページでは、ネットいじめに関する被害、種類、防止策などが、生徒、親、公的機関に対しての情報が提供されている。http://www.cyberbullying.ca
 学校でのネットいじめは生徒だけでなく先生もその標的となってきている。生徒が先生に対して失礼な発言をしたり、学校にに対して校内で反抗的な態度を取ったりすると、その生徒は校長室に送られ、状況を検討され、適切な懲罰が下される。しかし教職員への反抗的態度の防止対策にも限界がある。アリゾナ州フェニックスの高校教師デービッドの事例を見てみよう。デービッドは、高校1年生、2年生を対象にコンピューターの授業をしているが、生徒からの授業評価は常に高く、卒業後の就職先も良いため、卓越した授業をする教師として評判が高かった。しかし、彼は、ウェブサイトに「○○先生の大嫌いな点は…」と名指しで書き込みをされて、落胆しショックを受けた。ウェブサイトへの書き込みの言い回しにより、デービッドは生徒の特定ができた。「私はこの若い男子生徒に対して、前向きな目的のためのコンピューターの利用法を教えたが、彼はそれを私に対して用いたのです。」と、デービッドはインタビューで語った。



ネットいじめの解決法

 ネットいじめを減らすためには、どのような方法を取ればよいのだろうか。アメリカ全州の教育省では、中学校と高校の教育委員会に対して、先生や生徒へのネットいじめ問題に対処するためのトレーニングを始めているが、他の方法も検討されなければならない。重要なことは、青少年のコンピューターへのかかわり方がその上の世代とは異なることをより多くの大人に対して理解を促すことである。ほとんどの大人は、コンピューターは情報を得たり、切手代無しで手紙を送れたりする実用的な道具だと思っている。それに対して、10代の青少年は、社会生活、すなわち仲間とのつながりに必要不可欠なものと思っているのであり、実際、彼らの間では、オンラインの一番の用途はチャットである(Roberts & Foehr, 2004)。
 このようなコンピューターに対する見解の違いから、大人はネットいじめの知識が不充分であり、子どもに対して良い助言がしばしばできないのである。その結果、大人が提案する解決策は単純で、意図していたよりもいじめの防御になってない。例えば、コンピューターのフィルターを買ったり、セットしたりすることは、いやな相手からのメッセージを拒否できるので、簡単な解決策ではある。しかし、いじめる側が名前を変えることは容易である。逆に言えば、いじめられる側もいじめる側に知られずに名前を変えることもできるのである。また、いじめを止めて失礼な態度を改めるよう説得するためいじめる側のオンラインに応答するという解決策は、一見、合理的な方法のように感じる。しかしながら、多くの生徒はこの方法ではますますいじめる側を刺激して、より深刻ないじめを受けることになり得ると懸念している。
 以下にネットいじめを極力抑えうる実践的な方法を挙げる。第1のステップとしては、大人は子どもと親密なコミュニケーションのつながりを築くべきであり、そうすることで、青少年はコンピューターいじめを含めた出来事を進んで大人に知らせるであろう。第2に、生徒はパスワードなどの個人的な情報を親戚以外には知らせてはいけないということを教えられるべきである。第3に、コンピューターいじめには絶対応答してはならず、また、書かれていることが全て真実であると信じてはならない。チャットルームを利用する人々が、想像通りの人とは限らないし、本人が言っている通りの人とも限らない。実際は50歳の男が14歳の女の子だと主張して、若い子を食い物にしようと探しているかもしれない。第4に、未成年者はチャットで知り合った人と、公共の場で親が立ち会わない限り、会う約束をしてはいけない。第5に、怒っている時に衝動的なメッセージを送るのは避けるべきである。自制心が戻り、冷静になってからメッセージを書くことで、敵意は排除され、分別ある文章となる。怒りにまかせて書いたメッセージは、送ってから後悔するものである。そのようなメッセージは、相手に復讐心を抱かせ、新たなネットいじめを生むのである(Joinson, 2003)。
 もし、青少年が先生や親に対してネットいじめについて話をした場合、協力しようと思う大人は直ちに警察と「インターネット・インスタント・メッセージング(IM)」会社か携帯電話のサービス・プロバイダーに連絡すべきである。ただし、表現の自由の保障により、ウェブサイトを強制的に閉鎖することが法的にも難しいことを認識していなければならない。したがって、ネットいじめに対処することには、忍耐力と根気が必要である。会社が、ネットいじめを行った者に対して、サービス開始時の契約のルールに違反したとして対処する対応が遅いとただ不平を言っているだけではいけない。公正な判断にかかわる調査過程は時間がかかるものなので、予想よりも長引いたとしても諦めてはいけないのだ。政府機関は「インターネット・サービス・プロバイダー(ISPs)」が脅しやいじめのサイトをより早く閉鎖することができるよう企業責任を促している、またはISPだけでなく少なくとも、「モバイル・テレコミュニケーション・サービス・プロバイダー(携帯電話やポケットベルを販売する会社)」もネットいじめに反対する方針を明らかにして、いじめの届け出のための情報源を特定できるよう働きかけている。最近では、相応な時間内に企業責任を果たさない会社を摘発するという圧力が増している(Schneier, 2003)。
 ネットいじめの犠牲者は、証拠として、いじめのメッセージを原文そのものと、多くの人に転送されたであろうメールの送信元のアドレスが詳述された情報源として、常に保存しておくべきである。メッセージを読もうが読むまいが、消去してはならない。警察とISPか電話会社が、これらのメッセージを追跡目的で使用できる。犠牲者はメッセージの中の言葉から、知っている人の言い回しであることに気づくかもしれない。実際のところ、いじめる側が思っているほど匿名のメッセージは匿名ではないのである。もし法執行当局が脅しと判断すれば、ウェブサイトの利用者の全記録を召喚することができ、そこから個人が追跡されるのである。
 フィクションの世界では、ハリー・ポッターはいじめっ子のダドリー・ダスリーを黙らせるために魔法の力を使うが、現実の世界では、青少年や先生はそのように自由に使える魔法はない。ネットいじめにあった時に身を守る方法を見付けるためには、創造力と粘り強さが必要である。



References
Cottle, T. (2001). Mind fields: Adolescent consciousness in a culture of distraction. New York: Peter Lang.
Joinson, A. (2003). Understanding the psychology of Internet behavior. New York: Palgrave Macmillan.
Roberts, D. & Foehr, U. (2004). Kids and media in America. New York: Cambridge University Press.
Schneier, B. (2003). Beyond fear: Thinking sensibly about security in an uncertain world. New York: Springer Verlag.


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