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中国幼児教育レポート
エリート幼稚園の一日

劉 愛萍 (日中教育研究交流会議 会員)

画像1.週間食事メニュー 画像2.月間教学カリキュラム

 これはわが子が通っていた北京のとある幼稚園で実際に使われていた月間教学カリキュラムと週間食事メニューです。
 前回、中国幼児教育レポートとして、わが子の北京での幼児エリート教育の実体験とその思いを書かせていただきました。掲載後多くの反響と数々のご関心を寄せていただきましたので、その続きとして、今回は同じくわが子が通っていた北方之星芸術幼稚園での一日を通じて、「エリート」と称される北京の幼稚園現場へご案内します。


■「大人顔負け」、規律正しく多忙な園生活

 北京の幼稚園の登園時間はとにかく早い。しかもどうもどの幼稚園も同じようです。一日を通して、お勉強の時間はかなりの割合でセッティングされていて、まだ幼い子どもにしてはちょっと「過酷」なのではと感じざるを得ません。
 しかし、とは言っても、周りの親達は誰一人文句を言う人はなく、それどころか、退園後も、自主的にわが子を別のお稽古場に連れて行く保護者も数多くいます。その余りの教育熱心さには全く「脱帽」します。

表1.標準的な一日の園スケジュール
7:30 登園
8:00 朝食
8:30〜12:00 歌や数のお勉強(途中おやつの時間やちょっとの遊びタイムあり)
12:00 昼食
12:40〜15:00 昼寝
15:00〜16:30 お勉強(モンテソリー教室、音楽教室など)
16:30〜17:00 夕食
17:00 お迎え

 表1.に示しているように、殆どの幼稚園では早朝7:30から8:00までの登園となっています。それは夫婦共働きが一般的な中国では、どうしても親達が出社する前に子どもを幼稚園に入れる必要があるからです。そのために、朝早くまだ寝ているように見える子どもを自転車の後ろ席に座らせ、一生懸命幼稚園を目指す親子の姿をよく見かけます。頼もしいやら悲しいやら、複雑な思いに胸が詰まります。
 ともあれ、そうして朝早く幼稚園に連れて来られた子どもたちはまず園庭で、音楽に合わせて体操や踊りをするのが一日の園生活の始まりとなります。そして体を動かした後、皆揃って朝食をとります。メニューはまた北京らしいお粥と饅頭系が多いようです(画像1をご参照)。そして、はや朝食は終わり、8:30頃から早速お勉強タイムに突入。
 それはまた日本とは大違い。幼稚園とはいえ、決して小学校に負けないぐらいちゃんとした教学カリキュラムが組まれています。その実例として手元にある一ヶ月間(2003年8月)の月間教学カリキュラムを画像2.に挙げています(その内容については後ほど詳しく解説します)。
 子どもたちは大きな声で先生の後についで、詩の朗読や算数のやり取りをします。みんなは真剣な眼差しで、こっそりお話をしたり、玩具で遊んだりする子はほとんどいません。よほど幼稚園のほうがちゃんと子どものしつけをしているなあ、と深く感心するほどです。
 約3時間半の猛勉強をした後は、リラックスタイムの昼食に入ります。食事のメニューはもちろん専ら中華となりますが、おかわりは自由、また味のほうも問題はなさそうです。
 昼食の後は、一日の園生活を通して恐らく唯一「幼児らしい」扱いを受けられる時間。そう、約2時間あまりのお昼寝時間です。しかし、それは日本のように畳の上でみんな並んで寝るのではなく、子ども達はそれぞれ指定された自分専用の子どもベッドに入ります。かわいい絵柄で、シーツ替えなどもすべて園側でやってくれます。
 昼寝の後は、園庭で遊んだり、おやつを食べたり、モンテソリー教室、音楽教室などの活動が入っています。実はこの時間帯が各幼稚園の見せ場ともなっています。いわゆるエリート幼稚園ともなれば、なおさら互いにしのぎを削って、あれこれと特色と称して、様々なお稽古教室を用意周到に出しています。実際、親達の幼稚園選びに際して、ただ面倒を見てもらうのではなく、あくまでも我が子にどんなことを教えてくれるかを最も大事な基準としているからです。
 16:30、色々と充実した一日の園生活もようやく終わりに近づきました。これから約30分は夕食の時間となりますが、これはまた大体は中華です。
 一方、およそ17:00ちょっと前位から、保護者たち、中には親の代わりにおじいさんやおばあさん達は徐々に園の外に集まりはじめて、我が子を迎えに安全のため、一日中硬く閉ざされていた園門が開くのを待ちます。そして、17:00の開門と同時に、保護者たちは一斉園内に突入、またわが子の待つ教室へと散らばっていきます。
 間もなくして、園庭には子どもやその保護者たちに埋め尽くされ、日中勉強をしていたせいか、子どもたちは開放された園庭で滑り台やブランコなどを思う存分遊び、同じクラスのお友達とかけっこをしたりして、ようやく子どもがもつ本来の姿をみせます。


■これが3歳児の幼稚園「教学カリキュラム」?!

 ここで画像2.の月間教学カリキュラムについて、詳しくみることにしましょう。
 正直に言って、これには驚きつつも、周りは皆やっているのだから、是非我が子にも頑張ってほしいと願っていました。世間一般で言うこどもの将来を思う親心でしょうか。
 このカリキュラムには重点テーマとして「言語」「科学」「芸術」「英語」の4つが挙げられています。
 まず、「言語」では、詩の朗読と暗記や識字がメインとなっています。また「英語」の学習時間も共通のカリキュラムに組まれていますが。他に別月謝の英会話レッスンもあります。言語部門は親の関心が最も高い分野です。うちの子は何百字を覚えた、何タイトルの詩が言える、英語も話せる、といった自慢話で、親同士の会話が盛り上がります。
 ちなみに、このカリキュラムに挙げられている詩は宋の時代の有名な詩人である蘇軾が書いた「水調歌頭」(*)というものでした。詩はとっても長いうえ、内容的にもとっても3歳の子どもが理解できるものではないように思えましたが、一週間後、子どもたちは見事に、すらすらと「歌」っていました。「わが子はまたひとつ詩が覚えるようになった」と鼻が高くなった親たちでした。
 「科学」では、数学的な領域と自然科学の領域が含まれます。抽象的な数の概念、計算、図形などの学習が主になっています。また自然科学の分野では、例えばゲームを通じて、鏡の仕組みを学習したり、実験を通じて、水の中に沈んでいく物質と浮く物質の見分けなどを学んだりします。
 「芸術」はこの幼稚園の特徴とも称されている分野です。数々のコンサートで子どもたちが賞や証書を取り、テレビなどに出演するほどの実績を持っています。具体的には以下の取り組みがあります。
<美術>では、夏らしい題材を選んで絵を描きます。「美しい夏のイメージ」、「夏の果物」、「熱帯魚をきれいに色ぬりする」など、水彩画や国画の授業も行います。
<手芸>はさみを使って作業をしたり、折り紙で魚を造ったりといったこと。
<音楽>は歌を歌いながら、リズム感覚を培う狙い。また、曜日によって、ピアノ、ドラム教室が開かれます。
 因みに、その頃、子どもたちが教室で描いた絵は廊下一杯に貼り出され、「蓮の花」「スイカ」「メロン」「かぼちゃ」「熱帯魚」等の水墨絵は週代わりで壁一面に飾っていました。中には実に見事に描いたものも少なくありません。それを見ると、「もっと早く中国で幼児教育を受けさせてればよかったな」と教育ママになる瞬間でもありました。


■最後に

 前回にも述べましたが、中国では、子どもの早期教育に親は非常に熱心です。子どもにすべてをかけていますので、自分の子が人に負けないように、親たちは一生懸命です。長男が通う幼稚園は芸術的なエリートを育つことで有名な私立幼稚園ですが、親の中には、ほかの園と比べて、数学や識字のスピードをもっとあげてほしいという要望もあったようです。
 しかし、常識的に考えれば、子どもには発達段階というものがあり、彼らの発達に応じた教育を施さなければ、「拔苗助長」(生長を早めようと思って苗を手で引っ張る、つまり功をあせって方法を誤るという例え)ということになります。現に中国の社会世論もそういう危険な傾向を危惧する声が絶えず取り上げられていますが、前回のレポートに触れていたように、良かれ悪かれ、このような状況は今しばらく続くでしょう。

(*) 「水調歌頭」について詳細の内容は下記のところにあります。ご参考までに。
 http://www.china.org.cn/japanese/29606.htm




劉 愛萍(リュウ アイピン)
中国上海生まれ、東京在住。
教育学修士、「日中教育研究交流会議」会員。
1988年来日。日本の大学、大学院で教育学を学び、日中間教育を比較研究。1996年より教育出版社に勤務し、語学事業の立ち上げ、教材編集、マーケティング等を歴任。
2002年次男出産のため中国に一時帰国。その間、長男が北京の幼稚園に通園、中国の幼児教育の実情を身をもって体験した。


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