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質疑応答
  ・親子関係の危機の連関
  ・相互作用の長短は親子関係を規定するのか?
  ・親の子離れ〜新しい子育てのスタイルとは
  ・乳幼児の時の親子関係は
  ・最後に


・親子関係の危機の連関

牧野カツコ(以下「牧野」)――清永先生には、資料に基づき、たくさんの大事なお話をしていただきました。子どもを家族の視点から見ていくと、子どもの危機が親の危機であったり、親の危機が子どもの危機であったりという相互関係があるというお話でした。ストローム先生からも親と子のコミュニケーションに関するお話を頂きました。お二人の先生のお話をうかがって、「では具体的に親はどうするか」という処遇に関するご質問もあろうかと思います。質問の前に清永先生には、夫婦、親の危機が子どもの危機につながっているという点を、もう少し詳しくお話しいただきたいと思います。

清永賢二(以下「清永」)――では、表1(「思春期段階の少年の理解枠組み」)を見てください。これは、私の友人の家族をモデルにしたものですが、父親、母親の年代を追いながら、父親、母親を理解していくというねらいがあります。これを見ていきますと、子どもが思春期の頃の親は、父親は管理職になってくる年代でありますし、母親は子どもの教育費の増大などから再就労する時期でもあります。家庭内暴力など、子どもがいったん問題を起こすと、父親は母親の育て方が悪かったからだと、母親をせめる。子どもはその様子を見ている。そして、子どもは母親を通して後ろにいる父親をせめ反抗していく。悪循環が家庭に蔓延しているのです。

牧野――そのときは何事もなく過ぎてきた夫婦も、夫婦の色々なステージでの問題が積み重なっていって、子どもが思春期の頃に問題となって現れたりするというわけですね。それでは、若年期の夫婦の関係に関心をもって研究している学生さんから何か質問はありますか。
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・相互作用の長短は親子関係を規定するのか?

――ストローム先生は、週に5時間以上思春期の子どもと相互作用を行う母親は、相互作用の少ない母親に比べて親の役割をうまく果たし、子どもに上手にストレスの発散方法を教えていっているという調査結果を紹介してくださいました。しかし、日本においては、最近とくに顕在化している「引きこもり」などの例についてみますと、母親が子どもとべったりと過ごしているような場合で、思春期の子どもが母親をストレスのはけ口、発散の対象としているといった関係が見られます。必ずしも、相互作用の長短が思春期の子どもと良い関係を結べるとは言えないように思います。そこで、親がどのように上手にストレスの解消法を子どもに教えていったら良いのかを教えて頂きたいです。

ロバート・ストローム(以下「ストローム」)――子どものストレスへの対処のしかたについては、学校と共同で考えていかなくてはいけません。日本では、子どもが問題を起こしたとき、その時の学校のあり方や子どもが小さい頃の家庭環境などを問題にします。しかし、現在子どもが通っている学校が、親と連携を取って一緒に子どものストレスへの対処のしかた、ストレスをどう解消させていくかについて考えていかなくてはいけないのです。
 これまで、子どもが乳幼児期の親への教育は盛んに行われてきました。しかし、子どもが思春期にある親への教育――「ペアレント・エデュケーション」はほとんどないのです。この時期の親への教育は、非常に大切だと思います。
 一般に、親を評価するとき、子どもとどのくらい過ごしている親なのかということよりも、親の学歴や職業、収入といった社会経済的な地位を評価するものです。しかし、子どもの評価はそうではありません。ある調査では、工場や店で働くブルーカラーの親の子どもは、ホワイトカラーの親の子どもよりも、自分の親を良い親であると評価していることが示されました。社会で成功しているホワイトカラーの親は、家庭では成功していません。社会の人々の見方ではなく、子どもがどのように評価している親なのかを重要視していかなくてはいけません。
 親はよく、「忙しすぎて子どもと一緒に過ごせない」と言います。しかし、人生の持ち時間は誰にも平等にあります。家庭で成功するには、それなりの投資をしなくてはいけない。まず、子どもと過ごすことが大切なのです。ホワイトカラーはとかく時間よりも質が大事だと言いますが、それは自分の都合に合わせた言い訳に過ぎません。実際に子どもが親を必要としたとき、そばにいるかどうかが重要なのです。子どもは成長とともに親よりも仲間と過ごす時間が増えていきます。しかし、最近の調査では、普段仲間と多く時間を過ごしている子どもよりも、親と多く過ごしている子どもの方が成功していることがわかりました。親は子どもに、何が良くて何が悪いかを、必要な時に伝えているからです。たとえ地位が高くても、子どもに信頼されていない、子どもに口をきいてもらえない親が、はたして成功していると言えるでしょうか。
 子どもは学校で一日の多くを過ごす訳ですし、仲間から多くの影響を受けています。親が忙しいために子どもに社会人としてのふるまいを教えないと、子どもは学ばないまま成長していきます。こうした事から、家庭と学校との協力関係や連携が必要になってくるのです。
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・親の子離れ〜新しい子育てのスタイルとは
牧野――子どもが成長し思春期になってきますと、子どもは友だちと過ごし、親は親で仕事に費やす時間が増えて、一緒に過ごす時間は減っていってしまうことが多いのですが、子どもと一緒に過ごす時間がいかに大切かというお話を頂きました。ところで、日本では母と子は比較的密着した関係にあるといわれます。母親、とくに中産階級の母親で、子どもの乳幼児期は専業主婦として子どもに全力を注ぐ例が多いのですが、思春期になって、どのようにうまく子どもを離していくかという点が、先ほどの質問者の方の関心にもあると思います。その点について、清永先生はいかがお考えでしょうか。

清永――日本の家族は、3つの層に分かれつつあり、それが固定化していっているのではないかと思っています。一つは、経済的、文化的にもアッパーな階層で、子どもが小さいときから、きちんとした外部の子育て機関に委託しながらそのクラスの再生産をしていこうという層です。もう一つは、父親はお金をかせぎ、母親は子育てに専念しながら子どもをしっかり抱きかかえて育て、将来経済的に自立していける子どもを育てようとするクラスです。もう一つは、「その日一日が暮らせたら幸せ」という層です。
 従って、一概に「日本の母親はどうであるか」とは言えません。それぞれのクラスで、どういう子育てが行われ、どのようなタイミングで親と子の関係が結ばれているのかを明らかにしていかないといけない。もう少し、社会科学的に綿密な家族の研究が行われていく必要があると思います。
 先ほどから問題になっているのは、真ん中のクラスです。この巨大な層に様々な問題が広がっています。しかし、今様々な問題を起こしている16〜17才の子どもたちは、突然この世に生まれてきたわけではないのです。
 この子どもたちの親は、高度経済成長のなかで育ってきました。たとえば、今15才の子どもがいる親を例に取ります。親が2才のときに東京タワーが完成し、4才のときに「家つきカーつきババ抜き」という言葉が流行ります。7才のときに子どもの遊び場が不足していることが明らかになり、8才のときに「カギっ子」という言葉が言われ始めた。13才のときには幼稚園入園率が50%を超え、14才では「三無し主義」という言葉が出てきた。こういう子ども達がずっと育ってきて、今親になっている。ずっとアパートの中で、カギっ子として、テレビを見たり塾に通いながらして育ってきた子どもたちが、今親になってます。豊かであることが人生の最高の幸せである、というのが当時の日本の状況だった。豊かになるためには、皆が業績主義――良い高校、大学を出て良い職業につこうとした。親になるとはどういうことなのかとか、どういう問題があるのかといった、親になることについては何も学ばないまま親になった。自分たちが育ったように子どもを育てようとしている親にたいして、子どもたちから復讐が始まったのだと思います。高度成長時代に育った我々の世代は、かつての「豊かさ」というキーワードを捨てて、新しいキーワード、新しい子育てを見つけていかなくてはいけないということです。
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・乳幼児の時の親子関係は
牧野――ミドルクラスの階層の特徴、そして、親子関係は親自身が育ってきた環境と密接に関係があるというお話を頂きました。子どもと親の関係は急に始まるのでなく、親が子どもだった頃からずっとつながっているということですね。
 実は、会場に小林登先生がお見えです。思春期の子どもと親について考えていく場合に、子どもが乳幼児期のときの親子関係を考えることが非常に重要だと思いますので、小林先生からもお話をうかがいたいと思います。

小林登(チャイルド・リサーチ・ネット所長、日本赤ちゃん学会会長)――子どもが赤ちゃんのときにやさしく育てなくてはいけないというのは、誰も否定しないですよね。しかし、それから先、子どもが思春期に入ったときにどうするかという問題はとても難しい問題です。生物学的に考えますと、思春期の時期は赤ちゃんの時期よりも、個人差が非常に強く現れてきます。両親からもらった遺伝子、遺伝子の組み合わせの特徴が、だんだんと強く現れてくる。従って、親は子どもの考えていることや子どもの能力などを洞察しながら、それぞれの事態に対応しながら育てていくしかないのではないのでしょうか。育児学、赤ちゃんの育て方などの本はたくさんありますが、思春期の子どもに対する「子育て学」はありませんので、そういったものも必要ではないかと思います。
 私どもが「赤ちゃん学会」をどうして作ったかというと、二つのポイントがあります。一つは、思春期の子どもが問題を起こした場合に、その子どもが乳幼児期のときの子育てと関連があるのかどうかという問題がよく議論されます。その点を明らかにしていきたいと思っています。もう一つは、今脳科学の研究が進んでいますが、脳科学者が赤ちゃんの脳の発達を研究すると、重要なヒントがたくさん出てくると思います。つまり、できあがった脳を研究するよりも、できあがりつつある脳を研究した方が重要なヒントがあるだろう。そのために「赤ちゃん学会」が果たしていく役割は大きいと思います。
 もし、赤ちゃんの時の子どもへの関わり方と思春期の問題に関係があるとすれば、どういうことかという点について少し考えてみたいと思いますが、「ムカつく」「キレる」といった問題は、攻撃のプログラムが知性でコントロールする力が弱いからだと考えるのが、生物学的には一番説明しやすいと思います。キレない子どもは、攻撃のプログラムが理性でコントロールできている。そのコントロールする力をつくるプロセスは、赤ちゃんの時期が重要なのではないかという考え方がある。人間は生まれながらに色々なプログラムを持っていますが、そのプログラムを理性や知性でコントロールしていく力をつくる時期が乳幼児期で、その乳幼児期にやさしく育てるというのは、重要な意味をもつと私は考えています。

(会場から)――私は、乳幼児期のお母さん方と子どもと一年間継続してお付き合いしながら、研究所で研究活動をしています。先ほどから親子関係の時間の量と質の問題が話題になっています。親子がいつも一緒にいる場面を一年間観察していますと、子どもの方が求める時間があるように思います。確かに質的に非常に密度の濃い充実した時間というのもありますし、質的なものが大事な場合もあります。しかし、やはり子どもの方から見てみますと、その子ども自身の親を求める力、プラス、どのような質的な親子関係がこれまで蓄積されてきたかということとの総合的なものによって、父親や母親に求める量が、一人一人子どもによって違うという事に気づきます。つまり時間と質を総合したようなものです。そして、その子自身が親に求めたもの、それを十分に返してもらえたか、十分に満足する状況――「げっぷする」という表現を使いますが――かどうかが、重要に思います。思春期の親子関係を考えますと、大変な問題が蓄積され、表面化されていますが、問題が起きてから対処法を考えるのではなく、問題行動の予防という点から考えて、乳幼児期にどのような豊かなものを与えていけばよいかを考えていく必要があると思います。

牧野――子どもが親に求めている親との接触時間の量ですが、乳幼児期だけでなく、思春期にもあるようですね。先生方のお話を伺いながら思い出したのですが、私自身は子どもが3人おります。仕事が忙しくなって子どもとの接触時間が短かくなったのですね。末の子どもが思春期のとき、中学校を終えるときでしたが、子どもがいじめにあっていたことを、私は知らなかったのです。問題がおきて、その後、実際にその子としっかり向かいあうようになってから、その子どもは父親にも母親にもとてもよく話をするのです。そうやって、「げっぷする」まで、取り戻しているのですね。
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・最後に
牧野――さて、何人かの先生のお話を頂き、色々なお話に発展してまいりました。ストローム先生は、とくに親教育に関心をもっておられますので、最後に、いじめている子どもの親、親はどうしたらよいかというお話についても、まとめてお話いただきたいと思うのですが。

ストローム――学校の先生は授業に専念し、親こそが子どもの社会的・情緒的な発達を促していくべきだと考えています。しかし、親は忙しすぎるので、子どもの問題が起きると先生を責めます。今、シカゴ、イリノイ、ボルチモアで行っているのですが、5週間ごとに、子どもが学校できれいな服を着ているか、居眠りはしていないかなど、リポートカードを使った報告がなされています。いじめをしている子どもの行動を見ると、その子どもの親が関連していることが明らかになっています。そのため、我々はいじめている子どもだけでなく、その子の親にも関わったり援助をしたりしています。いじめている子どもやその子どもの親に対するカリキュラムが必要ですし、被害を受けている子どもを守らなければいけません。虐待や犯罪といった問題は、その人の社会性の発達に関連しています。社会性が発達していなければならないのです。モトローラ社との協力でシステム化したものですが、我々は今、学校での子どもの行動について、親に報告するようにしています。先生が、子どもが良い行いをしたり、悪い行いをしたりした場合に、その日のうちに、電話ではなくポケベルのようなもので報告するので、親は子どもとその日のうちに話し合うことができます。このシステムは、親に直接きちんとメッセージが届き、すぐに家庭で子どもと話し合いが持たれるので好評です。

牧野――――親には、子どもの社会的・情緒的な発達を伸ばしていく責任があるということですね。ストローム先生は、子どもの社会性をのばすためのプログラムなど、様々なプログラムを開発されておられますが、それらは先生のホームページに紹介されていますので、関心のある方はホームページをご覧ください。

清永――ストローム先生からは、予防対策について勉強させて頂きました。人と人との関係は、可変性のある関係です。いじめている側が、いじめられる側になったりするのです。ですから、今の現象を捉えて対処するだけではなく、子どもをどうやって育てていくかに、我々はもっと力を注いでいかなくてはいけないと思います。

ストローム――小林先生のお話に関連して、一言付け加えたいと思います。10代の大変頭の良い子どもたちがきちんとした判断ができない。MRI心理実験を10代の子にしたとき、判断ができなかったのです。人間の感情を表した怒りや恐れなどの写真を見た時、10%の子どもしか正解できなかった。しかし、大人は90%正解する。つまり、子どもに対して、大人からのフィードバックはいかに大切であるかということです。

牧野――大人のフィードバックが大切であること、そして、親の責任がきちんと果たせるような仕組みやプログラムを作っていく大切さを教えて頂きました。本日は、テーマが様々な方向に広がってまいりました。参加者の方々が、それぞれのご関心にもとづき、これからの研究テーマを発見していただけたら嬉しく思います。本日はどうもありがとうございました。
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