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「ブロードバンドとユビキタス社会の次にくるものを予兆する
 〜デジタルからキュービタルへ〜」
石井威望(東京大学名誉教授・CRN顧問)
協力:河村智洋(慶應義塾大学研究員・CRN外部研究員)

 過分のご紹介を頂きまして恐縮しております。CRNの小林先生と医学部の同級というお話がありましたが、年齢が上でいらっしゃる他に、同級生でもいろいろ格がありまして、先生は大分格が上なのです。本来なら直立不動で先生の前にいないといけないのですが、幸いにして小林先生には大変寛容に接して戴きまして、それに甘えて研究も一緒にさせて戴いております。私の出身の大学院でも、赤ちゃんの研究をベースにヒューマンインタフェイスをやっている子達がたくさんおります。


  ウェアラブルからインティメイトへ

 今日は、抽象的なことを申し上げるよりも、実物でいろいろ見て戴いたほうがいいかと思われます。先ほどご紹介がありました、河村智洋くんを改めて紹介いたします。
 彼は1990年に入学した慶應義塾大学の湘南藤沢の一期生です。湘南藤沢とは、俗にSFCと言われるユニークなキャンパスです。本格的なネットワークの中で、フルに教育するタイプの大学教育を行っております。ですから、彼は文字通り90年代に出てきた、見るからに新しいタイプのウェアラブルという研究をしています。「コンピュータを着る」という発想ですね。
 今まではコンピュータを、パーソナルコンピュータ、パソコン、PCなんて言っていますけれど、彼の場合はそこを通り越しまして、「インティメイト」と言いますが、いつでも体にくっつけています。事実彼はその姿のままで電車に乗ったりしていますので、周りの方々からは奇異の目で見られますが、それでも構わず、数年間研究を続けています。数年前はもっともっと凄かったんですね。鎧かぶとほどじゃありませんけど、顔に鉄仮面みたいの付けたりもしていました。総重量も数キロあったんですが、今は幸いにして1キロ位になっています。それでも大分重そうでありますが。
 コンピュータや機材も随分壊しましたね。満員電車でバチッと壊れたりして。そういう意味では、彼はウェアラブルの先端を走っていることになります。北欧のノキアやエリクソンなどは、日本に来ると必ず彼をマークします。隠れた日本の顔じゃないですが、未来の顔といえるでしょう。今日は、その彼に活躍して戴こうと思って一緒に参りました。
 メガネに何かをつけていますね。あそこには、コンピュータの画面がそのまま表示されています。外から見ていても何をやっているのか分からないので、実際にご覧いただきましょう。ご覧にならない方には一体何のことを言っているのか分からないですから、講演も非常にしにくいですね。こういうことは本当に百聞は一見にしかずですから。


 今、河村くんの背中にはコンピュータの本体が入っています。もちろん電池じゃないと動きません。それで、ディスプレイがここに来ていて、声はここで取っています。ちょっと仰々しいですが、これでも以前よりは随分小さくなりました。初めて見られる方は「え?」と思うかもしれませんね。(古い装置を見せながら)これは前のものです。これはもっと前のものです。次々にテストを重ねて全部の機種を試用しますが、今日のものが最新の軽いものです。これでようやく実用段階に入ったといえるでしょう。以前のものは、やはり試験段階というか、値段もちょっと高いんですけれど、量産に入れば数千円くらいでつくれるでしょう。そうすると、どれだけニーズがあるかという問題もありますし、コンテンツとしてどんなものを見ているのか、などいろいろ手探りでやっております。
 (胸元の機器を見て)これがどんなものか、河村くんに説明してもらいましょう。
 …これはUSBのメモリ-です。ラジオと録音機能が付いています。今は無線で音を聞くためにやっているのですが、音はパソコンからFM波で飛ばしています。それが、このラジオに入ります。…


  EQUALITYからUNIVERSALへ 〜電動車椅子から考える〜

 今週の火曜日にジョンソン&ジョンソン社の新しい車椅子を見る機会があり、今日はそれをお借りしてきました。もちろんこれは車椅子ですから、足が不自由な方がお使いになります。その日に僕は生まれて初めて車椅子に乗りました。絨毯の上で乗ったのですが、絨毯上は摩擦で車椅子は乗りにくいのが一般的です。車椅子利用の二次障害として、肩や肘を痛める人が大変多いそうです。ところが、この車椅子だと、先ほど説明がありましたように指2本で操作できるので、絨毯の上でも芝生の上でも大丈夫です。普通は汗だくになるくらい大変なのですが、この車椅子なら、ほとんど汗をかかないでいられます。
 河村くんに乗ってもらいましょう。たいていは、車椅子に乗るのはハンディキャップがある人ですが、彼が乗りますと、ある意味ではスーパーマンが乗ったわけです。先ほどお話しましたように情報機器を持って歩くのは非常にしんどいので、車椅子に乗ることは彼にとっては大変プラスになります。歩くよりもこっちの方がよくなりますね。
 そんなのは、従来の電動車椅子でもそうだろうと思われるかもしれませんが、私の感じでは電動よりも手でやっているところがなかなか味のあるところでして、インターフェイスとしてこっちのほうが上手いのではないかと思います。一回、電源を切ってみましょう。すると、動かすことが非常に大変になります。(電源の入ってない車椅子を河村さんが大変そうに操作するのを指して)こうやらないと動かない訳です。

 UNIVERSALとよく言われますバリアフリーが、介護や高齢化社会を想定した器具の一つのポイントですが、もう一つのポイントは一般の健常者も使うということです。つまり、両方のために作る機械ですから、マーケットの面でも断然大きいわけです。これで大成功した代表的な例は、エレベーターです。ある年齢になった人、心臓が悪い人、あるいは足の悪い人などは階段を上がること自体が大変なことですね。でもエレベーターに乗れば誰が乗っても同じです。そういう意味では、EQUALITY、つまり全体が同じです。逆に言うと、30階なんて健常者だって登れませんね。でも、エレベーターは全部同じ。縦方向についてのEQUALITYを、まずはエレベーターが完全に成功したわけです。
 このような例がどんどんどんどん増えていくと、メリットを受けているのは、初めはハンディキャップの人だったかもしれないけど、後になってみたら社会全体の人がメリットを受けている。そのような形で健常者とハンディキャップの人が含まれるというのは、「EQUALITYから始まってUNIVERSALになって大きく広がっていく」ということです。

 移動を例にしてお話しましたが、移動と一体になったウェアラブルについても、原理は全部同じではないでしょうか。はじめ、コンピュータというのはインスティチューショナル――非常に大きな大学や大企業でスタートしました。東京大学で一番はじめのコンピュータは大きな真空管で動いていました。私もそのコンピュータで研究していた大学院時代がありますが、今はこんなに小さなパソコンになって、そしてパソコンの次にウェアラブルがあります。
 UNIVERSALな高齢社会が来た時に、元気な高齢者がおおいに使うだけでなく、河村くんのような若い人もおおいに使う可能性が出てくる、という発想を今まであまりしていないわけです。あのような機具は分業専業で、「こういう人たちが使うものだ」と考えていて、作る方も使う方も割り切っている傾向があります。実際に使ってみるとむしろ――河村くんはこれ、絶対気に入っているよね?――彼がそういう反応をしたので、僕は「これはいい」と思い、今日お持ちすることにしました。


  パラレルな世界 〜FOMAを使ったデモンストレーションより〜

 「携帯」と「ウェアラブル」が非常に違うところは何かわかりますか? ちょっと河村くん両手出してくれる? そうです、両手が使えるということなのです。彼は何気なく操作していましたが、片手での操作は無理です。携帯で片手を使っていて、その前のディスクトップにしろノートブックにしろ、パソコンで片手を使っているので、両手を使っていることになります。確かに携帯はすごいです。親指でやっているので、片手はあいている。電車の中ならつり革につかまれる。
 ところが、このように両手が空くと、先ほどの車椅子はもちろんのこと、他の仕事もパラレルに全部できるようになります。つまりマルチタスクが可能となります。そういう意味では通信回線としてはインターネットももちろん先ほどのウェアラブルの中に入っていますが、もう一つFOMAの回線も入ってきます。…だんだん頭の中が混乱してくるかもしれませんが…。

 実演してみましょう。いま、丸の内にある東京海上研究所とつながっています。秘書の直井さんを紹介しましょうか。
 (参加者)もしもし、もしもし。
 (直井さん)秘書の直井でございます。いつも大変お世話になっております。
 (参加者)いえいえ、こちらこそ。今、石井先生から大変興味あるプレゼンテーションを受けておりまして全員楽しんでおります。ありがとうございます。
 (直井さん)本日はどうぞ宜しくお願い致します。


 ベネッセのビル、ビルの外、丸の内、ウェアラブルと4つの地点がここに全て表示されています。いま、あっけなくご覧いただけましたけど、今日はここがポイントなので、強調したいと思います。
 要するにパラレルにいろいろな世界がある。それが一つになって、このように動くのです。これはチラッと見ただけでは実感が湧かないかもしれませんが、例えば、秘書の直井さんは私がここで講演している様子を秘書業務をしながら見ることができます。それから、実験的な取り組みをする際にも、こちらから向こうへ教えたり、状況を確認したりしている訳ですね。音を切っているから皆さんには聞こえていませんけれど、実は4人はしゃべりあって、連携している形です。
 通信費用は決して高くありません。少々使いましても1000円程度です。何人かが離れた場所で仕事をするとき、例えば北海道とつないだり名古屋とつないだりするときは、このようにFOMAを使っています。作業部隊は全部作業用に裏で動いていまして、みなさんがご覧になる表では違う物をお見せできるようにしているわけです。
 携帯によるテレビ会議ともいえますね。しかし、会議にはあまり使わず、むしろワークに使っています。例えば講演会のセッティングなど。セッティングするときには、いまやなくてはならないものですね。トラブルが起きたときに、ここを直してくれ、あそこを直してくれ、といわれても電話ではわからないことがありますが、FOMAで該当箇所を見せればすぐでわかりますから。いまもそうですね、河村くんはビルの外に停めた車にいる運転手さんに使い方を教えているのかな。運転手さんは今日初めて講演の裏方をしていますが、そういう人もFOMAで指示を出されれば可能なわけです。


  「未来心理」を味わうシミュレーション

 今、まだ私たちは本格的なパラレルに動いている世界を常に見ている訳ではありませんが、このような機器が携帯として普及していますし、通信料は決して高くはありません。高校生・中学生がこういうものを使う時代がもう来るんじゃないかと思います。そういう未来の感覚を、私たちは自分の肌でどう感じるのかを先にシミュレーションしてみて、どんどんどんどん先取りしていこうという試みを我々はしているわけです。
 これは未来のシミュレーションなのです。ですから、言葉だけで説明することは非常に難しい。今あることであれば、「あれですよ」といえば理解できますが、今、ないんです。これから来る未来ですから。ですから、シミュレーションあるいはデモストレーションをやりながら話します。会議というよりも、作業などで一つの協同の連携プレイが出来ます。ONE to ONE の時には起こらないんですね。
 FOMAが市場に出まして、大抵の人は、河村くんもそうだったようですが、FOMAは1週間くらいで飽きてしまったと言っていました。それはどうしてかというと、ONE to ONE だからです。それは、奥さんと顔を見て、初めは仲良くするだろうけど、そのうちに声だけでいいよとなる。ONE to ONEだからです。マーケットもビジネスもそうですね。市場で物々交換なんてやっている時はマーケットが成立する。3人とか4人になって初めて相場や市場ができる。

 パラレルリアリティという言葉が出てきました。パラレルにたくさんのリアリティがあって、それが同時に動いていて相互干渉を始める。それを積極的にやろうというのが今回の取り組みです。
 正面スクリーンをご覧ください。これは4元と4元が2つ並んでいます。これは1回目の予備実験で上手くいかなくて、改良しました。この欠点は、4元でもすでに多少分かっていたのですが、8元にもなると人を集めるのが大変なんです。ある時刻に8人全員そろえて待たせておくのは大変です。即時というのは非常に大きな拘束条件であると発見しました。

 「未来心理」というのはやってみなくては分からない訳ですね。さっきの車椅子も乗ってみないと分からない。乗ってみれば、なるほど全く違う、電動で動かすのと全く違うと。ここが未来心理の非常に大事な所であります。例えば、人類は今まで経験していなかった未来心理を、予め重視しなかったが故に、大失敗した例がいくつかあります。1つは飛行機ですね。
 飛行機は、ライト兄弟以外の人たちは全部失敗してしまった。少なくとも1903年の時点においてはですが。なぜでしょうか? それは、ライト兄弟だけが人間が飛び上がった時にどんな心理になるのかを考えて実験を繰り返していました。彼らはグライダーで何回も飛び、実際に落ちて壊れたりしてるんですけどね。飛び上がったときに大変な恐怖が起こります。空中に浮きますから。特に風が吹いた時は揺れますよね。ですから、横安定性をどうしても何とかしないと俺らは死んでしまうと気づき、彼らはそこを必死になって考えて実験をして、ちゃんとパテントを取っているわけです。翼をねじるっていう事でね。それからもう一つ、飛び上がったらすぐ気になるのが着陸です。ずっと飛び続けることはできませんから。当たり前のことのようですが、飛び上がった瞬間に大変切実な未来心理としてこのようなことが出てくるわけです。ライト兄弟はまず空中に飛んでみることで未来心理を獲得したといえるでしょう。


 いま、ここ(多摩)の回線と丸の内(東京海上研究所)の回線を繋ごうとしています。この回線は、FOMAとは別系統で、かなり精密な絵(画像)が送れるものです。監視カメラによく使っていますけれど、価格が安くなっているので急速に普及が始まっています。普及が始まるということは皆さんが「未来心理」を民衆レベルでどんどん普及させていることだといえます。実物の感じを皆さんに見て頂いて、未来心理を体験できればと思いますので。

 窓側に設置しているアンテナをご覧ください。あそこから電波が出ていまして、ビルの外に停めてある車の電源を使って繋がっています。そこに先ほど申し上げた監視カメラがおいてあります。同じように丸の内にも一つカメラが置いてあります。これまでも回線によっては随分精密に見えていましたが、実際にどの程度精密に見えるのかをお見せしたいと思います。

 (会場からの質問に応えて)電波は3キロ飛びます。遮るものがあると遮断されますが、逆にビルなどにあてて反射させて電波を飛ばす方法があるんです。電波空間というのは公共でありますから自由に使えるわけです。そういうことを、実は民衆レベルで、特に若い世代はですね、実際に使うことによって、ライト兄弟的心理をキャッチしている訳です。僕たちくらいの世代は、電波というと、戦争中の憲兵に叱られるぞっていうことがあったりして、自由に使えるという感じはしませんが、こういう様な軽い機械になってきますと、どんどん使いやすくなってきます。さっきのFOMAにしろですね、こういう自前の回線ですね。特に災害の時はこれしか頼れないでしょう。仮に普通の公共的な回線があっても、みんな、ワーッと集中しちゃいますから、オーバーフローして使えなくなるでしょう。(アンテナを指しながら)これは全然関係ありませんから。そのときにポンとやればとポンと繋がります。先ほど電波は3キロ飛ぶと申し上げましたが、中継ができますので、数キロくらいは可能です。自前で私も2セット持っていますから、それくらいはいつでもできるという事です。簡単にできるという点がポイントであります。

 先ほど話題にあげましたカメラですが、残念ながら丸の内とはうまく繋がらないようですね。誤解を避けたいのですが、実験段階のものだから繋がらないのではありません。これまでの講演では大抵繋がりましたので何らかのトラブルによるものでしょう。どうもインターネット回線がこの会場ではうまく繋がらないのが原因のようですね。電波がダメな場合、インターネット経由で、という方法があるのですが、どちらも使えないというトラブルが原因です。


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  2台のカメラを使って気づいたこと

 同じ場所をカメラ2つ使って写すということは、今まで馬鹿げているように思っていました。
 前方スクリーンをご覧ください。2、3日前に岐阜へ私の秘書が研修で行っておりました。その研修先からインターネットに繋いで、部屋の全体を映しています。ズームができるものも置いてありまして、全体を映すカメラが1台とズームができるカメラが1台の計2台です。少々ぼやけているように感じるかもしれませんが、実際はきちんと文章がズームの画像で見えます。

 なぜ2台ないとダメなのか? ズームアップしちゃうとこれがどこにあったのかが分からないんですね。両方一緒に見ているというのは、2つのピントを持った人間がいるということで、これは今までやったことのない、見たことないことですね。今日は実演ができなくて大変残念なのですが。丸の内の僕の部屋に置かれた書類を写して、書類が置いてある所と、それをズームアップして書類の内容を同時に見れることをお見せする予定でした。遠くの森には木が1本1本実在するはずだけど見えませんが、望遠鏡でズームアップすれば1本1本必ず見える。全体を見ているときはこっちが見えないし、こっちを見ているときは全体が見えない。要するに「木を見て森を見ない」か「森を見て木を見ないか」のどっちかなんです。

 この仕組みを使うと、例えばこんなことができます。郵便物の仕分けを普段は秘書がやりますが、秘書が研修や出張などで出かけているときには、パートタイムの方にお願いします。その方に郵便物を写してもらい、出先から「これはすぐに開封してAさんへ」「これはBさんの机に」などと指示が出せますね。


  パラレルで見ていると何が起こったか

 FOMAをフルに使いつつ、インターネットも併用しますが、なぜ併用するのかわかりますか? どっちか1つでいいじゃないかと思いますよね。今日のようにインターネットが使えないとき、あるいはFOMAが使えないとき、どちらかが使えれば何とかなります。今日の場合は、FOMAでかろうじて通信が確保されているので、音声はみなさんには聞こえませんが裏方のスタッフがFOMAでどうしようかああしようかと実は相談したり指示を出し合ったりしているんですね。

 前方スクリーンでご覧いただいているものは、慶應義塾大学と東京大学と六本木と東京海上研究所の4つが同時に4台のFOMAを動かしながら作業しているという例です。次のスライドは、FOMAの4元中継を利用したものです。これはある所で私が講演しているのですが、それをWebカメラで映して、先ほどのように別の地点に送っています。それをパラレルで見ている訳です。

 「パラレルで見ている」ということは、この4つのパラレルリアリティが実在として世の中に存在して、こういう風に動いているということを、いっぺんに見る状況がそれぞれの所で起こっているということです。人々が全部同時に見ているのです。ここが1つのポイントだと思います。もちろん、同時にWebが動いてるんです。これも、Webの中のこういう全体を見せるということが、チャットをしたり、バックアップでも、ということで今進んでいるのが、1つの特色であります。

 次にビデオをお見せしましょう。なぜビデオを作ったかといいますと、先ほどの4元や多地点の様子を口頭で説明することは難しいので、簡単に数分で要点が分かるようにビデオをつくることにしました。街の中、自宅、オフィス、公園、と4人がそれぞれいろいろなところにいます。画面から声が聞こえてきますね。この4人は、当たり前ですが、それぞれの時間を過ごしています。そして、実際に東京の中に実在しています。これらの様子を1つの画面で同時に見ることができます。この状態が続くと、だんだん融合していきます。

 こんなハプニングが起こりました。自宅にいるスタッフの2歳の娘さんが突然膝の上に乗っかってきました。するとどうなったと思いますか? その子が「なんとかちゃん、なんとかちゃん」とか言い出して画面に向かって手を振りました。おじさーん、と言っていますね。2歳の子が出てくるなんて誰も予測できません。思わぬことが起こるっていうのが1つ非常に大事な点です。これが1つの吸引力というか、それで動き出すんですね。ライブの魅力がパラレルリアリティの実感をどんどん強めて行きますから、長く続くんですね。

 2歳の子がFOMAを、4元の画面を見て、すぐにああいう反応をしました。画面を見て、「あのおばさんはどこ?」と。なかなか自分が知っているおばさんが出てこないものだから。要するに、この2歳の子が4元のパラレルリアリティを実感した直後に、もうそういう思考に入っちゃっている。これは私自身大変ショックでした。まず、子どもには当然理解できない世界だろう、あるいは拒絶するだろうと思っていましたけれど、このようにそういうことは一切ない。見た途端に皆からこんにちはなんて言われることもあるんでしょうが、そういうことが起こってしまいました。実は、わたしはこのとき講演をしておりまして、スタッフ全員がFOMAでこれを見ていました。僕自身は講演しているから見ていません。河村くんが今みたいに講演をサポートしてくれてたんですが、彼は他のスタッフと同じようにFOMAでこれを見ている訳です。僕がわからないところで予期していないこと、ある意味ハプニングが起き、その出来事に全員が吸い込まれてしまいました。河村くんも吸い込まれちゃいまして、講演のスライドを替えるのを忘れてしまうくらいでした。彼の心がその子の所に入っちゃったようで、そのうちにハッと気が付いて、やっと替えてくれましたけどね。そのとき、僕は事情がわからず、回線かなにかがトラぶってるんだろうと思っていたんですけど。生まれて初めて見る4元画面に、2歳児があれだけ反応をしたことに驚きました。2歳の子が持っているパラレルリアリティの様な状況に対するポテンシャルっていうのはすごく備わっているであろうことが実証されたと思います。

 実は、このときに別のトラブルも起きました。秋葉原をFOMAを持って歩いていたスタッフが、たまたま知り合いの出版社の方に会ったんです。その方に、手持ちのFOMAで、「いまこんなことしてるんですよ」などとお見せしたら、それを見ている他の場所にいるスタッフがその方の顔を見て、「ああ、…さん、久し振りですね」なんて会話に入っちゃったんですよ。先ほどの2歳児のときと同じように、この出版社の方が全部吸い取っちゃったんですね。僕はまた再び哀れなことになりまして…。講演してるんですけど、そんなことが起きているなんて知らないわけです。先ほどと同じように河村くんはあちらとばかり話し始めまして…スライドを替えることを忘れられてしまいました。1つの講演の中で2回も同じようなことがありましたから、やはりパラレルリアリティの中での1つのシナジーが起こって、未来心理のようなものが出てくるんだなということを実感した訳です。

 2元の1対1のときには起こらないことが、4元くらいになると初めて起こることがあります。もっと大きくしたらもっと何かが起こるだろう、と8元をやりました。予定では16元もやろうと話していますが、なかなか技術的には難しい点があります。8元でもかなり複雑になりますね。人を集めるのも大変になってきます。


  全てのアーカイブをとるということ

 Dスナップという機器があります。これを使って、全てのアーカイブをとっています。手にのるこのくらいの大きさで、11時間記録がとれます。音も映像も両方です。3、4万円で手に入るものですが、ハードウェアとしてはほとんど問題のないものです。それをどういう風に使いこなすかが問題です。

 毎日毎日記録をとっていると、メモリーが猛烈に溜まってきます。この機器の中に入っているSDカードが500メガバイトくらい、11時間くらい記録できます。全部アーカイブしておくためには、メモリーがものすごく必要になることは想像できますね。私の秘書は500ギガバイトのメモリーを持っています。1年前は160ギガバイトでした。もうすぐテラバイトの規模になります。どんどん撮っていきますからすぐにメモリーが一杯になっちゃうんですね。河村くんは、1.2テラバイトは持っているでしょう。彼はもうすぐ2テラバイト位持つことになるんじゃないかな。みんながテラバイト位のメモリーを持って、無制限にフルアーカイブしていくことがいまの技術では可能になっています。メモリーのコストが猛烈に安くなっていますから。ギガバイトが80円とか50円くらいになっていて、少し前の10分の1くらいの価格になっています。コスト的には全く問題はありません。

 この撮ったもの、アーカイブを後で見なくちゃいけない。貯めれば貯めるほど見る時間が長くかかる訳ですね、当然。それをいかに効率化するかについてさかんにやっております。例えば、河村くんがやっているのは「タイムスタンプ」をつけること。ここが大事だから後でアーカイブを見るときにはこれを手がかりにしよう、という時間の印・目次をつけているわけです。音声入力も使っています。河村くんからもう少し詳しく説明してもらうことにしましょう。

 ・・・すでに過去6ヶ月分、ほぼ毎日5時間から10時間くらいとっています。そのアーカイブがずっと溜まっていますので、それを見ることは結構大変なことです。それを見るためにどうするかを考えまして、先ほど紹介のあった「タイムスタンプ」を取ったりもしています。タイムスタンプというのは、その位置だけがわかるものです。例えば会議のときは、このようなカードを使っています。カードに内容の簡単なメモと、キーワード・日付け・時間を入れてあります。それらを整理して、重要度に分けて並び替えたりします。必要に応じて、カードの情報をもとに、実際のデータに戻ってそれを見ます。それが重要だなと思ったら、それを見ている時にデータとして切り出すんですね。切り出したものをこのザウルス(機器)に入れてあり、例えば電車の中や待ち時間など細切れの時間があるときに見たりしています。このように、なるべく良い情報を搾り出して、それをうまく活用してく方法を現状はとるようにしています。アーカイブの中から見るものは大体1%くらいでしょう。・・・

 いま「見るものは大体1%くらい」という話でしたが、じゃあ1%だけ、つまり100分の1に効率化したらいいじゃないかと思われるかもしれませんね。しかしそれは出来ないんです。99%があって初めて1%が取れるのであって。そこがよく勘違いされるところです。

 メモリーの価格が高いときは必要なところだけとるようにせざるを得なかったんですが、安くなりましたので、全部撮って全部記録してしまって、必要なところがどこかは別の方法でマークするという形がいまのところ一番よい方法だと考えています。


  ペーパーメディア・Webの活用

 デジタルだけでなく、プリントメディアつまり紙も結構使っています。従来のWebがあって、こうようにITが進んでくると、従来の出版ではなく、いろいろ工夫しています。Webとリンクできるようなプリントメディアはまだ出ていませんけれど、バーコードがあって、そこに携帯をかざすと内容がでてくるようなことも可能になるでしょう。

 結局、Webがアーカイブとリンクできないと、Webだけではダメなんですね。この点が今までできないと言いながら全部捨てちゃっているわけです。研究なんて絶対こちらがないとダメですね。だから、さっきの2歳児のパプニングでも、あのとき画像を撮れていたから、このように皆さんに発表ができるのですが、撮れていなかったらどうしようもないです。ただ、そんなこともありましたというだけで終わってしまいます。

 Webについてもう少しお話しましょう。スタッフが情報を共有するために、ワークごとにWebを使っています。携帯版もです。


  キュービタル・量子コンピュータ

 「キュービタル」というキーワードをご説明しましょう。
 パラレルリアリティでいろいろな状況、しかも一つに融合していくというのは、従来の0か1かというデジタルな世界ではありません。それをキュービタルと言っています。デジタルの前に、実はアナログの世界があったんです。私が若い頃はアナログの世界。アナログからデジタルになったわけです。それで、デジタルの限界っていうのは、このような試みを何回もやっていますとだんだん分かってきます。恐らく理論的にもデジタルの時代は確実に終わります。いつ終わるかは、長い人で80年、短い人で10年と言っています。ですから、恐らくここに居る若い方は、デジタルで一生いけることはまず無いですね。もちろん残りますよ、デジタルも。今だってアナログは残っています。時計なんてアナログですね。デジタルの限界が来て、その次を担っていくものにはまだ名前がないんです。ですから今、キュービタルと言っています、

 量子ビットを、カンタムビット、略してキュービットと呼んでいます。普通、デジタルの1ビットというのは0か1ですね。いわゆる二律背反になっている訳です。これはデカルト以来ですね、主体と客体を分離し、分けてやって行くと。ところが、アナログの時代はデジタルとそう言う意味では違いますね。ここで一つのジャンプがあったんですけど、デジタルのそういうやり方の限界にきております。

 普通言われているのが2つあります。一つは、例えばどうしても超えられないスピード、光のスピードがあります。だから、相対的に距離を短くしようというので、どんどんどんどん、微小化をやるわけです。現にやっています。ナノテクノロジーもそうです。ナノメータになった時に何が起こるか。これはそこで不確定原理の量子力学的世界に入っちゃいますから、そこでぼやけてくるんですね。もうそこでお手上げだっていうのはちょっと前までの、非常に悲観的見通しだったんです。ところが、キュービットというのは、それを逆手に取り、ぼやけている所を、不確定性をもっと本格的に使おうと、それが情報資源だという風に。これはファインマンというノーベル賞もらった人が初めて指摘しました。それを確実に理論的にきちんとやったのはドイツという人で、1985年にカンタムコンピュータの論文を書きました。1985年という点は非常に意味があり、それから約50年前の1936年に、チューリングがデジタルコンピュータベースのチューリングマシーンを数学理論として出しています。50年経ち、ユニバーサルカンタムコンピュータという数学モデルを出しました。これで、今申し上げた2つの壁を乗り越えられたわけです、理論的にですね。だから、決してキュービットというは言葉の遊びで言っているわけではなく、ハッキリしたベースを持っています。

 普通のデジタルコンピュータのことをだんだんと古典的なコンピュータと言い出しています。これは僕もショックでした。僕は、アナログからデジタルへ行くときに大変感激した世代ですから。デジタルの世界で僕が一生を終われればハッピーだったかもしれないですけど、ダメですね、やっぱりキュービタルに行かないと。古典的コンピュータと教科書的に書かれるようになったときには、若い人にとっては今やデジタルコンピュータはクラシックの世界なんですね。確かにそれはあっていいわけで、別に否定するわけではないですけれど、クラシックだけではダメだということを言外に言っていますね。

 そこで、つぎのメインになるのが量子コンピュータなんです。理論もちゃんとある。前はハードウェアだけでしたが、すでに出て来まして、7キュービットのマシンが動いていますね。通信にいたってはキュービットの量子暗号通信はちゃんとやっています、もう。

 河村くんのような大体30歳くらいのですね、この10年間、90年代を、初めからデジタルのネットワークの中で徹底的にやってきた連中、僕の教え子といえるでしょう、彼らは皆インターネット人間だからすぐ連絡しあって、すぐに集ってきて、キュービタルの話を聞かせて下さいなんて言ってきます。この世代は何のためらいもなくこういう考え方に入ってきますね。この世代はデジタルの先行きをなんとなく予感して、ポストデジタルのキュービタルへの関心を求めているようです。


  iモードを使った試み

 これは、iモードを使った俳句会の様子です。1999年に行ったもので、俳人の黛まどかさんの全国の女性ばかり500人くらいいるグループが参加しました。この俳句会のネットワークを全部サポートしていたのが河村くんです。iモードという、テキストベース、文字ベースでのものは、もう既にあるわけです。

 これは、小泉総理大臣にも見せた画面です。仙台で行ったものです。あるお嬢さんが「春うららおじいちゃんとiモード」と一句詠みました。この詠んだ俳句をインターネットに上げ、それを見た人たちが投票します。投票の結果、この句が1番に当選しました。このおじいちゃんはお孫さんみたいな子、たしか東北大の学生さんだったと思いますが、初めてiモードにさわり、学生さんに教わりながら一句詠んでいる。わが国の伝統文化がこのようなところで、モバイルで歩きながら行われているのです。一つの実績といえますよね。総理もご覧になった方がいいかと思いましてお見せしたわけです。

 これは、もう2年ほど、僕が毎日使っているものです。秘書とつながっており、いまもONになっていますが、テキストベースで情報のやりとりをさかんにしています。例えば、「おはよう」でもなんでもいいんですが、「先生何時にお帰りですか」とか「お昼食事は何にしますか」とか、そんなやりとりです。例えば「了解しました」といったよく使われる文章は、定形文として登録してありますので、そこをクリックすればそのまま返信できます。会議中でも黙って下を向いていればできるんですね。メッセージを見たら、YESかNoかでやればいいだけですから。こちらの携帯は、動画静止画付きです。例えば、出張中には「今、東京駅出発します」と東京駅を映して送るとか、「こんなホテルでこんな部屋に泊まります」とか何でもいいのです。

 これは、授業にiモードを使っている例です。今の学生さんはほとんど全員が持っていますから。例えば、講義の最中に「話についていっていますか?」などと生徒にメールを送ります。生徒たちは、YES/NOで答えればよいだけです。生徒からの回答はスクリーンに表示されるので、例えば自分はわかっていないと答えた5%の一人だ、あるいはほとんどの人がわかっていないんだ、ということがわかります。もちろん先生方もこれを見ているので、自分の話は難しすぎて行き過ぎたかな、もう一度説明しておこう、などと講義の進行を変えていくことができるわけです。こんなことは今までは出来なかったですよね。講義のあとで「どうだった?」と聞いても、もう遅いのです。わからないと答えても、もう講義は終わっているのですから。部屋の温度設定を思い浮かべると分かりやすいかもしれません。暑い、ちょっと暑い、ちょうどいい、寒い、などはそこにいる人たちによって異なり、日本人の平均がこのくらいだから、などと統計をもとに設定するのはナンセンスです。そこにいる人たちの総意で決めればよい話です。そういうときに、この仕組みは役立つと思います。


  おわりに

 まさにキュービタルの世界をこれから生きるであろう子どもたちについて、チャイルド・リサーチ・ネット(CRN)で研究している河村くんから話をしてもらいましょうか。

 ・・・このウェアラブルコンピュータや新しいFOMAの多地点などを実際に体験して反応が強いのは、子どもなんですね。大人の場合、FOMAを渡しても、画面に相手の顔が表示されて、話をして、ふ〜ん、結局それでなんなの?、という感想が一番多いですね。ところが子どもに使わせてみると、それを持ってすぐ外に出ていって、ひどい子になると自分のパンツの中を撮ったり、口の中を映したり、考えもしないことをします。大人とは全然ちがう形で使うんですね。本来的な人間のメディアに対する欲望みたいなものは、子どもに体験してもらうと1番分かりやすいと考えています。1995年から「マルチメディアキャンプ」という子どもたちにいろんなメディアを何日も体験してもらう試みをしていました。いまはそのキャンプはありませんが、チャイルド・リサーチ・ネットさんのところで、実際の子どもを集めてメディアを使ったワークショップを続けています。・・・

 まあ、こういう人間的なふれあいとか、表情がいいですよね、子どもっていうのは全部表情にでますから。アンケートなんか取るよりこっちの方がよっぽど分かりますね。特に、偉い人が訓辞なんかする時に子どもなんか撮っておくと面白いですね。全く嫌な顔していますね。大人はどうしてもタテマエがありますから。

 今日一つの結論的な話かもしれませんが、デジタル・チルドレンはキュービタル・チルドレンになるでしょうね。キュービタル・チルドレン、これから我々がまさに一番研究したい部分でもあります。また、4元に突然登場した2歳児の話がでましたが、キュービタル・ベイビーを相当真剣になって研究すべきかと考えています。つまり、そこがフロンティアなのではと。デジタル自身が古典になるという時代です。やっぱりここがないと、あるいはここに相当力を入れないと未来のフロンティアにはならないんじゃないかということを最後に申し上げまして、この辺で終りにしたいと思います。



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