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| イギリス 多様な教育と子どもたち 第11回 |
| 宗教と教育 |
| 「宗教教育（Religious Education）は、イングランドの全ての公立校で取り上げられるカリキュラムの1つである。政教分離を唱えているアメリカ、その教育政策の影響を受けている日本では、学校で生徒が宗教について学ぶことは、宗教校以外ではほとんど見られないことであるが、イギリスにおいては宗教と教育の繋がりは深い。今回は、イギリス、特にイングランド地方における宗教と教育の関係とその変化について見ていく。 |
| 1. 宗教と教育の繋がり イングランド地方においては、歴史的に学校とキリスト教会の繋がりが強くあった。全ての子どもへの義務教育が始まった1870年以前に設立された学校のほとんどは宗教団体により設立されたものであり、そこではキリスト教の教えが実践されていた。1870年の教育法後に設立された学校も宗教教育の実践をし、1944年の教育法では、それまでの実践を続けていくということで、宗教教育の提供が義務となった（Hobson &Edwards, 1999）。親には子どもを宗教教育の授業に出させないようにする権利はあるが、1988年に教育改革法により国定カリキュラムが決められた際も、宗教教育は国定カリキュラムには入らずとも、基礎カリキュラムとして入り、各学校が実施することとなっている。 |
| 2. 宗教教育の変化 宗教教育は、精神的な発展、道徳的な発展、社会的な発展、文化的な発展を手助けする機会を提供するとされている（DFES, 2002）。しかしその教授内容は人々の宗教への関心の移り変わりにより変化していった。イングランドでは1960年代、キリスト教会に行く人が急減し、教員も宗教教育を今までの形で実践していくこと抵抗を覚えるようになった。「私が神を信じていないのに、どうやって宗教教育ができるの？偽善者になるだけよ。」（Bastide, 1992:7）。また同じく1950年〜60年代にかけて、カリブ海、アフリカ､キプロス、そしてインド大陸からの多くの移民がイングランドへ移住するようになった。特にインドやパキスタンからの人々はキリスト教以外の宗教を信仰しており、各都市にモスクやシークの寺院が建設された。 以上のような点から、キリスト教のみではなく多様な宗教を扱う宗教教育、そして教師の主観をあまり交えず、事実を伝え、その宗教の実践の意味を共に考え理解に導くという側面を強く持つようになった｡例えば授業では、なぜある宗教の信者は特別な服装をしているのか、どのような意味がこめられているか、などを学習することによって自分の宗教のみでなく他や友人の宗教についてもよりよく理解をする機会を提供することが求められている。「自分の宗教だけのことじゃなくて、他の宗教のことを勉強することはいいことだと思う。共通点などについてもいろいろなことを知ることができるから。」（ジョナサン、ロンドンの小学生）（John,2000）。ここではそれぞれの授業内容などについて詳しくは述べていかないが､どのように宗教を捉え、教えていくかについての議論も時代と共に変化し興味深い。 |
| 3. 各宗教による学校と子どもの隔離？ 宗教と教育の関係において、近年大きな議論となっているのは、国がキリスト教以外の宗教が母体となっている私立の学校を公立の学校として認め、国から助成金を出すようにする(子どもの授業料が免除となる)ことの是非である。政府は、親の強い希望に押され、質の高い教育を実践している私立の宗教校を公立と認めることに賛成した。現在、イングランド全体で約25,000ある公立校の内、7,000が宗教校であり、40校がキリスト教以外の宗教が母体となっている（2001年9月現在。40校の内、32校がユダヤ教校、他イスラム教校、シーク教校、ギリシャ正教校など）。 しかし、このようにそれぞれの宗教の学校ができてしまうことで、その地域にすむ子ども達が宗教ごとに別れ別れになりお互いを理解する機会が減るのではないかという懸念が増してきている。2001年の政府の調査によると、調査に応じた6000人の約80％が、隔離（Segregation）を推進するものとして、宗教校の公立認定の反対をしている。 宗教の違いによって学校に行く子どもが分かれた場合、人種的な分かれ方になるとは限らないが、そのようになってしまう確率が高いのも事実である。キリスト公立校もキリスト教徒以外の生徒の入学を許可することが望まれているが､中には、親が教会へ行っていることの証明がいる学校もあり、自動的にイスラム教徒等の子どもは排除される。実際に、昨年人種間の暴動が起きたオルダムという町の学校では、一つの学校生徒の約97％がアジア人、もう一つの学校のほとんど100％の生徒が白人となっている。この町の約9割の学校では、一つの人種がその学校の生徒の多くを占める形となっており、暴動が起きたのも、学校で違う宗教について学び、違う人種の友達と出会う機会が少ないからだとも指摘されている。 政府は、「キリスト教の公立校がすでにあるのに、他の宗教の学校を公立にしてはいけないといい難い」、としているが、特に2001年９月11日のニューヨークでの出来事の後、この「隔離」を助長するとされる政策への反対は高まっている。また現在あるキリスト教校においても、少なくとも20％をキリスト教徒以外の生徒に門戸を開くべきだという意見も提出されている（Ward, 2001）。 一つの宗教の教えに基づき、自己を育てていく環境がよいのか、様々な宗教があることを友人を通し理解しながら自己を育てていく環境がよいのか。学校と宗教の関係は、社会の構成や差別の構造にも大きな影響を与えている。 |
| より深く知りたい方へ |
| ウェブサイト |
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国定カリキュラム・宗教教育サイト （National Curriculum Religious Education Site） http://www.nc.uk.net/servlets/Subjects?Subject=Re 宗教教育オン・ザ・ウェブ （Religious Education on the Web） http://www.theresite.org.uk/ カリキュラム・リソースが多く掲載されている。他の資料や団体へのリンクがある。 BBCニュース、宗教校について http://news6.thdo.bbc.co.uk/hi/english/education/uk_systems/newsid_93000/93513.stm イングランドの宗教校について2ページ弱で簡単にまとめた記事が掲載されている。 ガーディアン・教育版 （The Guardian education） http://education.guardian.co.uk 新聞の教育版を集めたサイト。サーチエンジンにReligious Educationなどと入れれば､今までのニュースを検索してくれる。 ガーディアンの記事より（クラスから神を追い出せ、2001年11月9日） （Keep God out of class） http://education.guardian.co.uk/schools/story/0,5500,590352,00.html オブザーバー(新聞)の記事より（新しい宗教校に80％が反対、2001年11月11日） （80pc are against new faith schools） http://education.guardian.co.uk/schools/story/0,5500,592109,00.html オブザーバー(新聞)の記事より（宗教校、「人種隔離政策」の恐れに火をつける、2001年9月30日） （Faith schools spark fears of 'apartheid'） http://www.observer.co.uk/uk_news/story/0,6903,560608,00.html |
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参考文献 Ahmed, K. (2001) 80pc are against new faith schools, The Observer, November 11, 2001. http://education.guardian.co.uk/schools/story/0,5500,592109,00.html Bastide, D. (ed)(1992) Good practice in primary religious education 4〜11. London: The Falmer Press. ISBN: 1-85000-639-3 Hobson, P. R. and Edwards, J. S. (1999) Religious Education in a Pluralist Society: The Key Philosophical Issues. London: Woburn Press. ISBN: 0-7130-4039-4 Hull, J. (1996) Freedom and Authority in Religious Education. in Gates, B. (1996)(ed) Freedom and Authority in Religious and Religious Education. London: Cassell. ISBN: 0-304-32419-1 John, C. (2000) Embracing the faiths. December 27, 2000. BBC News. http://www.bbc.co.uk/hi/english/education/newsid_1081000/1081170.stm Toynbee, P. (2001) Keep God out of class, The Guardian, November 9, 2001. http://education.guardian.co.uk/schools/story/0,5500,590352,00.html Ward, D. (2001) Ignorance, misunderstanding, and fear: Council blamed for failing to act on segregation. Guardian, Wednesday December 12, 2001 http://www.guardian.co.uk/racism/Story/0,2763,617394,00.html Watson, B. (1993) The effective teaching of religious education. London & New York: Longman. ISBN: 0-582-08707-4 Wright, A. (1998) Spiritual Pedagogy: A survey, critique and reconstruction of contemporary spiritual education in England and Wales. Oxton: Culham College Institute. ISBN: 0-907957-536 |