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小林登文庫


21世紀の子育てを考えよう―NICHD乳幼児保育研究から学ぶ―


 最近のわが国の子どもたちの心の問題をみると、小児科医として考えさせられることがあまりにも多い。登校拒否から始まって、いじめ、ムカつきキレる、暴力、そして援助交際まで枚挙にいとまがない。そのうえ親による虐待まで増加してきている。その原因はどこにあるのだろうか。育児が教育か、家庭か学校か、はたまた社会か、あるいはその組み合わせか、いろいろと論じられている。
 そして世では3歳児神話はないという話さえ聞かれるが、脳の発達のミクロのレベルでみると、少なくともミエリネション、シナップスの変化などを明らかにしている脳科学の成果との関係はどう考えるのだろうか。さらには、脳の可塑性、そしてWisel-Hubelの光刺激や接触刺激を遮断した新生仔動物のノーベル賞研究の成果も、どのように考えたらよいのだろうか。
 多くの小児科医は子育てのありかたと、現在の子どもたちの心の問題は関係しているのではないか、と疑っている。しかし、人間なるがゆえに、子育てのありかた子どもの心の発達に対する影響について、その答えを出すには多くの研究が必要であり、少なくともprospectiveな研究が必須であることは、多くの医学関係者は知っている。そのうえ、その実施となるときわめて困難であり、膨大なる研究費も必要である。
 著者が退官後、育児・保育・教育を中心に、子供の問題をひろく研究することを目的として設立したサイバー子ども学研究所Child Research Net(http://www.crn.or.jp)では、この5年間にアメリカから2人の心理学者L.P.Lipssit教授(Brown大学)とJ.Belsky教授(Pennsylvania州立大学)をお招きして、講演会および勉強会を開く機会があった。その折、アメリカのNational Institute of Health(NIH)のNational Institute of Child Health and Human Development(NICHD)が10年程前から子育てのありかたが、子どもの体の成長や心の発達にどのように影響するか、とくに早期教育がどのように関係するかを明らかにするための"prospective study"を行っていることを知った。これは、いまだかつてどこの国でも行われなかった研究である。もちろん、Lipssit教授もBelsky教授も、この重要なメンバーである。
 筆者は旧友であるNICHDのCenter for Research for Mother and ChildrenのDirector、Dr. Sumner Yaffeにお願いして、資料をいただいた。そのなかにNICHDが一般向けに公表したRobin Peth-Pierceによる"The NICHD Study of Early Child Care"というパンフレットがあり、有益な資料と考えたのでNICHDの許可を得てここに全訳を発表することにした。
翻訳にあたっては、2〜3の問題が出た。わが国では、保育は施設などにおける集団的な子育てをさし、家庭での親なりによる育児とは区別されている。英語ではそれがなく"child care"のひとつである。その点翻訳にあたっての区別が困難であった。また、"interactin"は相互作用と訳したが、母子間の行動のやりとりであって、平たい言葉で言えば「ふれあい」である。"sensitive"は、子どもの心を読み取る感受性の強いことを意味すると考えられるが、平たく言えば「細やかな心」「優しい心」「デリケートな心」であろう。"early child care"をどう訳すか考えたが、一応「乳幼児保育」とした。また"in-home care giver"は子どもの家庭に来て子育てする者によると考え「在宅保育」、"child care home provider"は自分の家に子どもをおいて世話する人によると考え「家庭保育」とした。"center-based care"は、制度的にみとめられた施設での保育と考え、保育園による保育とした。
 アメリカの人口構成また育児・保育のタイプに関する円形図は表に変え、また労働力における女性の占める割合の年代変化は、文中にふれているので、その図は割愛した。さらに文中内容の重複する部分も削除した。21世紀は、母親による子育ては少なくなり、母親・父親、そして保育者がチームを組んで行う子育てが中心となろう。
 以下、ここに全文を紹介し、そのような問題を考えるのに参考にしていただくとともに、それぞれの立場からよりよい子育てのありかたを確立する運動をしようではないか。

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