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小林登文庫


乳幼児保育に関するNICHDの研究

米国・国立小児保健・人間発達研究所(NICHD)

米国における保育
 保育は、米国の多くの家庭にとって、まさに人生の現実になりつつある。妊娠後、労働力に参入あるいは留まったりする女性の数が増え(註:子どもが生まれるため収入を増やす必要上か)、また片親も増えるにつれて、乳幼児や子どもの保育を母親以外に任せる家族が増えつつある。1975年には、6才未満の子どもをもつ母親の39%が家庭の外で働いていたが、現在、その割合は62%である(労働統計局)。こうした母親のほとんどが、出産後3〜5ヵ月で仕事に復帰するため、子どもたちは乳幼児期のほとんどをさまざまな保育状況で過ごすことになる。

「乳幼児保育に関するNICHDの研究」について
 「乳幼児保育に関するNICHDの研究」は、保育における多様性が子どもの発育にどのように関係するか調べる、今日もっとも包括的な保育についての研究である。1991年、国立小児保健・人間発達研究所(NICHD)の支援を受けた研究者チームは、1,364人の子どもに研究に参加してもらい、その後7年間にわたり、ほとんどの子どもについて追跡調査を行った。過去2年間、生後3年間の保育と子どもの発育との関係について研究結果を発表してきたが、今後も、全米10ヵ所にある保育研究拠点から集めた情報の分析を続ける予定である。

乳幼児保育に関するNICHDの研究は、どのような問いに答えるのか
 この研究は、保育は子どもにとってよいこと、あるいは悪いことかという普遍的な問いかけを越えて、保育のありかたの違いについての側面―たとえば質と量―が、子どもの発達のさまざまな側面にいかに関係するかに焦点を当てることで、われわれが子どもの発達と保育との関係を理解するのを助けることが目的である。より具体的に言うと、認知・言語発達、母子関係、自制、従順さ・問題行動、同年代の子どもたちとの関係、身体的な健康と、保育との関係を評価している。

研究に参加した子どもと家族:どんな人たちか
 1991年に始まった研究には、米国中からさまざまな経済・人種的背景の子どもたち合計1,364人とその家族が参加した。対象家族は全米10ヵ所で採用され、その社会経済的背景、人種、家族構成もいろいろであった。76%の家族が非ヒスパニック系白人、13%近くが黒人、6%がヒスパニック系、1%がアジア系/太平洋諸島系/アメリカ・インディアンで、4%がその他の少数民族である。これは米国全体の人々の人種構成を反映している。こうした多様性によって、異なる民族出身の子どもたちが、保育の異なる特徴に、違う形で影響を受ける可能性が調査できる。
 人種の多様性を反映させただけでなく、いろいろな学歴の母親とそのパートナーを参加者に含めた。母親の約10%の学歴は12年生未満で、20%強が高校を卒業している。3分の1がなんらかのカレッジを卒業しており、20%が学士号を取得、15%が大学院あるいは専門的な学位の保持者である(米国人口全体では、それぞれ、24%、30%、27%、12%、6%である)。
 社会経済的な地位については、研究に参加した家族の平均所得は3万7,781ドル(約400万円)であった(米国家庭の平均所得は3万6,875ドル)。そして、研究参加者のおよそ20%が、国の生活補助を受けている。

この研究に参加した子どもたちは、どのような種類の保育を利用したか
 この研究では、研究者ではなく親が、子どもが受ける保育の種類と時期を決定した。事実、家族は、保育を利用するかどうかの計画に関係なくこの研究に参加した。子どもたちは、いろいろな育児・保育環境におかれた。父親、他の親戚、在宅保育者(訳注:in-home care givers保育を必要とする子どもの家庭を訪問し、そこで保育する保育者)、家庭保育者(訳注:child care home providers自宅で子どもを預かり保育する保育者)、保育園での保育などである。保育の状況は、正式な訓練を受けた保育者が一人の子どもを預かるのから、何人かの子どもを預かる保育所のプログラムまで、さまざまであった。乳児の半数近くが最初に受けた育児・保育は、親戚によるものだった。しかし生後1年、またその後にかけて、保育所と家庭でのデイケアの利用への移行が見られた。
 本研究では、保育の種類を管理したり、選択したりせず、同時に保育の質も管理したり、選択したりしようとはしなかった。保育の質は、数種類の方法で測定され、非常にばらつきがあった。しかし、全国規模で保育の質を測定した研究はないので、本研究における育児・保育が、全国的な子育てのありかたの代表としてどれだけ適切か判断する方法はなかった。

育児・保育・家族、子どもに関するどのような情報を考慮したのか
 研究チームは、子どもとその環境にかかわる数多くの特徴について、さまざまな種類の情報を集め、研究した。子ども対大人の比率やグループの大きさなどの保育の特徴とともに、保育の質や保育を受ける時間、保育開始年齢、ある子どもが同時に、また長期間に経験した異なる保育環境の数など、子ども一人ひとりの保育経験を評価した。家族の経済状況や家族構成(片親またはパートナーのいる親)、母親の語彙(知性に代るもの)など、家族の特徴も評価した。その他家族に関しては、母親の学歴、心理的な適応性(アンケートによる測定)、育児姿勢、母子間の相互作用の質、そして、子どもの最適な発育のために家庭環境がどの程度貢献しているか、などの項目を分析に含めた。性別や性格など、子ども一人ひとりのさまざまな特徴も考慮した。
 この研究では、家族や子どもの性格による影響に加え、育児・保育の特徴と経験がどのように子どもの発達に独特な貢献をしているか明らかにしようとしている。これまでの研究で、一般的に、家族内で子どもが受ける育児の質は、保育における質と非常に似通っていることが立証されている。そこで、当研究チームは、保育が子どもの発達に貢献しているこの他の点について重点的に調べることとした。
 データは子どもの発育についてのさまざまな研究問題に答えるべく、いろいろと異なった方法で分析されたため、必ずしもすべての項目が分析に含まれるわけではない。以下に報告する研究結果の要約には、関連項目のリストが記されている。

乳幼児保育に関するNICHDの研究:私たちは何を学んだか
 多様な情報源(親、保育者、訓練を受けた観察者、試験者)を使い、生後7年間にわたり、家族環境、育児・保育環境、子どもの発達、身体的な成長と健康状況に関する細かい情報を集めた。
 参考文献(添付)に記載されるように、今日までに、本研究に関する論文はいくつか科学関係の学術誌に発表されている。また、他の研究結果については、学会で発表されたり、出版準備が進められている。「NICHD乳幼児保育研究」チームが共同執筆した論文では、研究問題が幅広く取り上げられている。
 研究結果は、おもな4分野に分類できる。最初の記述的な成果では、NICHDの研究に参加した子どもたちが受けた保育のイメージを描写している。これには、大人対子どもの比率、生後1年間に受けた保育の形、貧しい子どもの保育など、「管理可能」な特徴についての調査が含まれる。ほかの分野は、保育を受ける子どもにとっての家族の役割、子どもの発達と保育との関係、母子関係と保育との関係だ。こうした分野のなかで、より裕福な家庭と低所得家庭の子ども、また、非ヒスパニック系白人と少数民族の子どもにとって、保育経験がどの程度彼らの発達に関連しているか比較し、その結果が示されている。また、子どもの行動あるいは母子間の相互作用の度合いを予測するものとして、現在と過去との保育経験の比較もなされている。

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