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小林登文庫


乳幼児保育に関するNICHDの研究

米国・国立小児保健・人間発達研究所(NICHD)

まとめ
 「乳幼児保育に関するNICHDの研究」は、1,300人以上の子どもを対象とし、そのほとんどを7歳まで追跡調査し、異なる保育の形態が子どもの発達にいかに関係するか調べた。これまでの科学論文は、生後3年間を中心に書かれてきた。子どもの育児・保育環境は、そのコミュニティで提供される保育の種類、費用の手頃さなどを考慮し、家族が選んだものであり、無作為にさまざまな種類、質、量の保育に振り分けたわけではない。研究に参加した家族は、多くの人口統計学的な特徴において、米国全体を代表するものであった。
 NICHDの研究では、全米の家族にとって、家族の状況と家庭環境の質が、保育の選択と強い関係を持つ。そこで研究チームは、すでに十分に認識されている、家族の特徴・状況と子どもの発達との関係という重要な点に加えて、子供の発育に保育がどのように独自に貢献しているか見出すことに焦点を当てた。
 本研究の分析結果は、育児・保育に関する多くの質問になんらかの答えを与えるものとなるだろう。今、多くの米国家庭がもつ育児・保育像を捉えることができるようになった。どのくらいの頻度で、どのくらい早期に保育が始まるか、また、今日の家庭の多くがどういった種類の保育環境を選ぶかなどを垣間見ることができる。研究ではまた、長時間保育を受けた子どもと母親がほとんど全面的に世話をしている子どもとを比較し、家族の特徴と子どもの発育との関係も検証した。そして、家族の特徴が、乳幼児が受ける保育経験と関係があるかどうか評価した。最後には、保育の特徴と、子どもの知的発達、言語発達、就学レディネスとの関係、および、保育の特徴と母子関係との関連性を検証した。
 研究チームは、家族や子ども一人ひとりの性格に加え、保育が子どもの発育に与える新たなあるいはマイナスの価値を探した。一般的に、保育の要素よりも、家族の特徴と母子関係の質のほうが、子どもの発達に強い関連性をもっていた。これは、子どもが長時間保育を受けている場合でも、おもに母親が世話をしている場合でも当てはまる。
 研究では、保育のある特徴や経験が、ほんのわずかではあるが、子どもの発達に影響を与えることがわかった。これは「乳幼児保育に関するNICHDの研究」の研究結果の要約表(表3)に記されている。研究の結果認められた保育の影響は概してわずかだが、取るに足らないとはいえないものである。

*質の高い保育は、つぎの点に結びつくことが発見された。
  • 母子関係がよりよくなる。
  • 細やかさに欠ける母親の場合でも、乳幼児が不安定な愛着を持つ可能性が低い。
  • 子どもの問題行動の報告が少ない。
  • 保育を受ける子どもの認知能力が高い。
  • 子どもの言語能力が高い。
  • 就学レディネスが高い。
*逆もまた真なりである。質の低い保育は、以下に結び付く。
  • 母子関係の調和度が低い。
  • すでに赤ちゃんの心をよみとる細やかさに欠ける母親の場合に、母子の愛着がさらに不安定になる可能性が高い。
  • 問題行動が多く、認知・言語能力、就学レディネスがともに低い。
*より長時間の保育、あるいはより長時間の保育歴は、以下に結びつく。
  • 母子間の相互作用が弱い。
  • 2歳時点で問題行動に関する報告が多い。
  • 細やかさに欠ける母親の場合に、乳幼児が不安定な愛着をもつ可能性が高い。
*より短時間の保育は、以下に結び付く。
  • 母子間の相互作用がよりよくなる。
  • 赤ちゃんの心をよみとる細やかさに欠ける母親の場合でも、乳幼児が不安定な愛着をもつ可能性が低い。
  • 24ヵ月における問題行動が少ない。

 保育園での保育は、ほかの環境での同様の質の保育に比べ、認知・言語能力、就学レディネスともにより高い。グループ保育は、3歳の時点で、問題行動の報告の少なさにつながっている。したがって、乳幼児保育の経験は、子どもにとって意味があるといえる。
 新しい保育環境に入る回数で測られる保育の不安定さは、母親が細やかさに欠け、敏感でない場合に、乳幼児が不安定な愛着をもつ可能性の高さにつながることがわかった。
 本研究に参加した子どものほとんどは、現在、7歳で1年生である。研究チームでは、今後数年も、今回の調査では解明されなかった保育と子どもの発達との関係についての疑問を明らかにするために、データの分析を続け、専門家会議や科学関係の学術誌を通じて、新たな研究成果を発表していくつもりである。

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