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小林登文庫


乳幼児保育に関するNICHDの研究

米国・国立小児保健・人間発達研究所(NICHD)

NICHDの研究における保育の詳細な報告

1. 生後1年間の保育経験歴

 子どもが保育を受けた時間の長さは、いろいろであった。平均的な保育時間は週に33時間であったが、これも子どもとその家族の民族性によって異なる。非ヒスパニック系白人は、保育時間がもっとも短く、非ヒスパニック系黒人は、もっとも長かった。ヒスパニック系白人とその他の民族はその中間に位置している。
 一般的に、ほとんどの乳児が、生後1年間に2種類以上の育児・保育環境を経験していた。乳児の半数近くは、父親/パートナー、あるいは、祖父母による育児が最初の育児経験で、20%強が家庭保育、保育園に預けられたのはわずか8%だった。ほとんどの乳児は、4ヵ月になる前に保育を経験している。
 全体的にみて、研究結果は、乳児保育への高い依存度ときわめて早い時期の保育の開始を示している。ほとんどの乳児は、生後1年間を、保育所ではなく、公的ではない保育環境で過ごしている。

2. 貧困は保育経験と関連性があるか
 本研究に参加した家族・子どもの35%近くが、貧困状態あるいはそれに近い状態で生活している。貧困は、家庭の経済状況を測る標準的な方法である所得対必要生活費率によって定義された(米国商務省)。これは、連邦政府からの補助金を除いた家計所得を、その世帯に当てはまる貧困水準所得で割って計算する(1991年現在の4人家族の貧困水準所得は、1万3,924ドル)。本研究に参加した家族のうち、所得対必要生活費率が1.0を下回る家族は16.7%、1.0〜1.99の家族は18.4%であった。
 研究チームは、生後1年間の貧困が、保育開始年齢や保育の種類、質・量と関連性があるか質問した。貧困が、利用する保育の特徴を決定する要因になるかを判断するため、貧困家庭およびその子どもたちを(所得対必要生活費率1.0未満)、貧困に近い家庭と子どもたち(所得対必要生活費率1.0〜1.99)、あるいは、より裕福な家庭と比較した。
 保育開始年齢については、貧困状態に陥り、抜け出した家庭(一時的貧困といわれる)が、生後3ヵ月前という非常に早い時期に保育を始める傾向がもっとも高かった。そこで研究チームは、この保育の早期開始は、家族を貧困から抜け出させるために、母親が長時間の雇用に就く必要があるためではないか、と仮説を立てた。一貫して貧しく、国からの援助を15ヵ月以上受けていた家庭では、早期保育や、生後15ヵ月の時点でなんらかの保育を受ける可能性はより低かった。
 貧困家庭は、ほかの家庭に比べて、どのような保育であれ利用する可能性が低いが、利用している場合は、他の所得グループの家庭と同じぐらいの時間を保育にあてていた。15ヵ月時点で保育未経験の子どもの母親は、教育レベルがもっとも低く、大家族の出身であった。こうした大家族も、継続的に貧困状態におかれる傾向にある。
 一般的に、家庭環境で(家庭保育者あるいは家族によって)保育を受けた貧困家庭の子どもたちは、比較的、質の低い保育を受けていた。一方、貧困家庭の子どもで保育園に預けられた場合、裕福な子どもが受ける保育園での保育と匹敵する、より質の高い保育を受けていた。貧困に近い家庭の子どもたち(所得対必要生活費率1.0〜1.99)は、貧困家庭の子どもたちよりも、質の低い施設での保育を受けていた。これは、おそらく、貧困に近い家庭の子どもたちは、貧困家庭の子どもたちが受ける資格のある、補助金つきの保育を受ける資格がないからであろう。
 まとめると、貧困家庭また貧困に近い家庭の乳児は、比較的質の低い保育を受ける可能性が高い。これは、生後1年間、ほとんどの乳児が保育園に預けられないのが一因である。

3.質の高い保育を構成する保育の特徴
 研究チームは、積極的な保育、つまり質の高い保育に寄与する特徴とは何かを見極めるために、さまざまな保育環境を研究した。積極的な保育は、相互作用の頻度を観察・記録し、その質を格付けをすることで測定される。また保育環境も、グループの大きさ、大人対子どもの比率、物理的な環境などの「管理可能な」特徴あるいは政府のすすめるガイドラインの観点、さらには、正式な教育や専門訓練、保育経験、育児に対する信念など、保育者の特徴という観点から測定された。
 調査の結果、つぎのことがわかった。すなわち、ほかと比べて、安全で清潔、刺激的な生活環境を有し、小規模グループで、大人1人に対する子どもの比率が低く、子どもに感情を表現させ、その意見を取り入れる保育者のいる割合の高い保育環境においては、より子どもの心をよみとる力が強く、敏感で、知的な刺激を与える保育者がいた。つまり、よりよい子供の発達に結びつくであろう保育の質である。

4. 人口統計学的特徴と家族の特徴:利用される保育の種類と関連性があるか
 本研究の目的の一つは、人口統計学上の変数そして家族についての変数が、各家庭の利用する保育の種類にどの程度関係するか調べることであった。研究チームは、人口統計学的特徴(民族、母親の学歴、家族構成)、経済的特徴(母親や家族の所得)、家族の質の特徴(母親の姿勢と信念、家庭環境の質)などの3組の変数を検証し、保育開始年齢、保育の種類、質・量との関係を調べた。
 家計は、おもに保育の量、開始年齢、種類、質に影響を及ぼしている。母親の所得への依存度が高い家庭では、依存度が低い家庭に比べて、早期に保育を開始し、保育にかける時間も長かった。母親が被雇用者で最高所得額を得ている場合、生後3〜5ヵ月で乳児保育を開始する可能性が高く、生後15ヵ月間に在宅保育を利用する可能性がもっとも高かった。最低所得層と最高所得層の家庭の子どもは、中間所得層の子どもよりも、質の高い保育を受けていた。
 経済的な要素(母親および家族の所得)とは別に、母親の就業が子どもの成長によい影響を与えると信じる母親は、乳児のときに保育を開始し、多く利用する選択をしていた。一方、就業が子どもにリスクを与えると思う母親は、形式によらない、家族中心のあるいは在宅での保育を選ぶ傾向にあった。就業が子どもに与えるリスクは低いと考える母親は、保育所あるいは家庭での正式な保育を利用する可能性が高かった。

5.長時間保育を受けている子どもと母親がほとんど全面的に世話をしている子どもへの家族の影響
 本研究のもう一つの目的は、母親がほとんど全面的に世話をしている子ども(保育時間が週10時間未満)と長時間保育を受けている子ども(保育時間が週30時間超)の発育における、家族の影響を比較することである。
 家計や母親の学歴などの家族の特徴は、子どもの発育を予測するうえで、効果的な指標となる。これは、母親の世話をほとんど全面的に受けている子どもの場合も、長時間保育を受けている子どもの場合も同様である。ここでの結果は、子どもの発育への家族の影響は、両親以外が長時間保育しても、大きく減ったり、かわったりすることがないことを示した。

6.保育と母子の愛着の関係
 研究チームは、保育の量、保育開始年齢、保育の種類など保育についての変数をいくつか検証し、こうした要素が乳幼児の母親への愛着にどれだけ関係するか調べた。愛着とは、母親への信頼感のことである。
 研究チームは、生後15ヵ月の時点では、保育自体が、乳幼児の母親への愛着の安定性に悪影響を与えることもなければ、促進することもないことを発見した。愛着は、30分間に母親と子どもを離れさせてから、また一緒にするという標準的なやり方で測定した。
 確かに、ある特定の保育条件と特定の家庭環境との組み合わせは、乳幼児の母親への愛着が不安定になる可能性を高めた。質の低い保育を週に10時間以上受けた場合、あるいは、生後15ヵ月間に2ヵ所以上の保育環境におかれた場合は、母親がやや思いやりに欠ける場合に限るものの、母親への愛着が不安定になる可能性が高い。たとえば、子どもの心をよみとる力が強く細やかな子育てという点で、母親と保育者の両方が調査対象人口の下位25%に入る場合、子どもが母親に安定した愛着を持つ可能性は、ほんの45%だった。対照的に、より思いやりの深い母親と保育者の場合は、62%が安定した愛着を持っていた。

7.保育と母子間の相互作用の質
 子どもの母親への愛着の分析に加えて、保育と、母子間の相互作用、または母子間の交流との関係についても研究した。研究対象となった母親の行動は、子どもの心をよみとる力の強い細やかさ、積極的な関与と否定的態度である。子どもの行動は、その関与を評価するために観察された。研究者は、保育の質、量、家族の特徴(母親の学歴と所得)を分析し、子どもが6ヵ月、15ヵ月、24ヵ月、36ヵ月時点での母子間の相互作用との関係を調べた。
 母子間の相互作用は、遊びの時間や家庭で母子が一緒にいるところをビデオに撮影し、母親の子どもに対する態度を観察した。具体的には、複数の相対する作業に直面したときに(例:子どもを見守りながら、インタビュアーと話をする)、母親がどれだけ注意深く、敏感で、積極的な愛情を見せ、あるいは抑制的な態度を見せるか観察した。
 研究者は、保育の質・量と母子間の相互作用の質とには、わずかではあるものの、統計的に重要な関係があることを発見した。保育の量が増えるにつれて、母子間の相互作用の細やかさや親密さが薄れるという関連性が、ささやかながら現われた。生後3年間を通じて、母親以外のケアを受ける時間が長いほど、子どもに対する母親の積極的な行動がいくらか減少した。保育を受ける時間が長かった乳幼児は、母親との関与がやや薄かった。
 これまでの調査で明らかになった保育の量と母子相互作用との間に、このような関連性が発見されたことで、研究チームは、乳幼児期の保育の量が、その後の母子相互作用の質に関係するだろうか、という疑問へと導かれていった。研究者は、36ヵ月の時点で、生後6ヵ月間の保育時間が長いほど、母親の子どもの心をよみとる細やかさが減少し、子どもの積極的な関与が低いことを発見した。しかし、子どもの保育経験よりも、所得や母親の学歴、両親がそろっていること、母親の離別の不安、母親の気分的落ち込みなどの家族と家庭の特徴のほうが、母子相互作用の質に深く関係していた。
 質の高い保育(保育者と子どもの積極的な相互作用)は、母親による関与と子どもの心をよみとる細やかさの増加(生後15ヵ月と36ヵ月の時点)、子どもと母親の積極的な関与(生後36ヵ月の時点)の増加とささやかながら関係があった。質の高いフルタイムの保育を利用している低所得の母親は、保育を利用していない低所得の母親あるいは質の低いフルタイムの保育を利用している低所得の母親に比べて、6ヵ月の時点で、積極的な関与の度合いが高かった。

8.保育と素直さ、自制、問題行動
 保育の特徴(質、量、保育開始年齢、種類、安定性)と家族の特徴を検証し、それがどのように子どもの自制、素直さ、問題行動と関係しているか調べた。その結果、子どもの保育経験よりも、家族の特徴(とくに母親の子どもの心をよみとる細やかさ)のほうが、子どもの行動に強い関係があることがわかった。
 研究者は、保育の特徴は、子どもの問題行動や素直さ、自制と、ささやかな関係がある程度だと判断した。このなかで、保育の質は、子どもの行動ともっとも一貫した関連性をもっていた。より細やかで繊細な配慮が受けられる保育に預けられている子どもは、2〜3歳時点で、保育者が報告した問題行動の数が少なかった。
 生後2年間に保育に預けられる時間が長いと、2歳の時点で、保育者が報告する問題行動は多かったが、こうした影響は3歳までには消滅していた。3人以上の子どもとグループで時間を過ごすことの多かった子どもは、行動に関する問題(保育者による報告)がより少なく、保育におけるより強い協調性が見られた。

9.生後3年間の保育と子どもの認知・言語発達
 本研究のもう一つの主な目標は、保育の特徴(質、保育時間、種類、安定性)が、子どもの認知・言語発達や就学レディネスに関係するかどうか判断することであった。子どもの認知発達と就学レディネスは、標準テストを利用して測定した。言語発達は、標準テストと母親からの報告書を用いて評価した。質の高い保育は、積極的な保育の提供と言語的な刺激、と定義された。つまり、保育者がどれだけ頻繁に子どもに話しかけたり、質問をしたり、子どもの問いに答えたりしたか、である。
 生後3年間の保育の質は、子どもの認知・言語発達に、わずかながら一貫した関係をもっている。保育の質が高い(積極的な言語的刺激と子どもと保育者との相互作用が多い)ほど、15ヵ月、24ヵ月、36ヵ月時点での子どもの言語能力、2歳時点での認知発達が優れており、3歳時点での就学レディネスも高いことが示された。
 しかし、ここでも、家計や母親の語彙、家庭環境、母親による認知的な刺激などの要素を合せると、これらのほうが、15ヵ月、24ヵ月、36ヵ月時点での認知発達、および36ヵ月時点での言語発達と強い関係があった。
 認知発達に関しては、母親による長時間の育児は、子どもにとって、なんらプラスにならないことがわかった。長時間、母親が世話をしている子どもの認知・言語測定での点数は、保育されている子どもと同じぐらいの事例が多かった。実際、長時間母親が世話をしている子どもと、保育を受けている子どもとを比べたときに、認知・言語結果において現われた数少ない差異は、長時間の母親による育児に比べて、質の高い保育は有利で、質の低い保育は不利だということであった。保育者と子どもの相互作用の質を考慮した場合、週10時間以上保育されている子どものなかでは、保育所に預けられている子ども、そして、やや少ない度合ではあるが、家庭保育を受けている子どもは、それ以外の保育を受けている子どもに比べて、認知・言語測定での成績がよかった。保育経験と子どもの認知・言語・就学レディネスとの関係では、さまざまな所得グループあるいは民族的な背景による違いはなかった。

10.規制可能な保育の特徴と子どもの発育
 本研究のさらなる目的は、保育園の「管理可能」な面と子どもの発達との関係を調べることであった。教育者、小児科医、公衆衛生の専門家からなる専門機関の助言に従い、子ども対スタッフ比率、グループの大きさ、教師の訓練、教師の教育の4項目を分析に利用した。
 研究チームは、子ども対スタッフ比率、グループの大きさ、教師の訓練、教師の教育について、助言された四つのガイドラインすべてを満たしている保育園はほとんどないことがわかった。ガイドラインの遵守度が高い保育園に預けられている子どもは、36ヵ月の時点で、言語能力と就学レディネスがより高かった。また、24ヵ月と36ヵ月の時点では、問題行動も少なかった。ガイドラインを一つも満たしていない保育施設に預けられた子どもは、こうしたテストの成績が平均よりも低かった。

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