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小林 登文庫
小 論 ・ 講 演 選 集


医療・医学に関する小論・講演(2000〜2004年発表)

21世紀医療の進むべき方向
アレルギー・免疫 vol.9, No.5, 2002

 20世紀は『もの』の時代であったと言えよう。それは、明らかに科学・技術の進歩のお蔭であり、我々が現在享受している物資的に豊かな社会を築き上げたのである。しかし20世紀も終わりに近くなって、その科学・技術が色々と問題を起こしていることを、我々は今学んでいるのである。まず、科学・技術が20世紀の戦争の様相を大きく変え、多くの非戦闘員を巻き込む悲劇になった。20世紀前半の2つの世界大戦、さらにそこで使用された原子爆弾から地雷まで見れば明らかである。幸い後半になってやっと平和になり、その科学・技術は、豊かな社会を築くのに役立った。しかし、引き続き局地戦・紛争を巻き起こした発展途上国では、いまだ恩恵を受ける事少なく、その上、豊かさの恩恵を受けた多くの先進国でも、産業廃棄物・生活廃棄物の山、環境汚染・温暖化など多様な問題が噴出しているのが実情である。
 多くの人は、21世紀こそ、その反省に立って、パラダイムを転換し、『こころ』の時代にしなければならないと言う。それには西洋で科学・技術を育ててきたカルテアンの哲学、要素還元論を捉え直さなければならないこともある。現在、ものを見れば元素、そして分子を、生き物を見れば細胞、そして遺伝子を考えるようになってしまった我々の頭を、変える必要があるのである。勿論、その科学・技術が、我々の周りにある新幹線・飛行機から始まって、ブロイラーチキン・養殖した魚まで、物資的な豊かさを作ったことを忘れてはならない。
 そのカルテアンの哲学は17世紀の始め、デカルトの"Cogito ergo sum",『自他分離』から始まる。全てを客観的に捉えなければならないという立場の考え方である。この400年程の欧米の歴史の中で、それが科学・技術を育てると共に、人間の諸活動のあり方にも影響したのが問題の始まりでないかと言う。悪い意味での、利己主義・個人主義・物質万能主義などが、その代表であろう。
 わが国は、明治維新の結果、西洋文化の柱として、それを取り込み、科学・技術を進歩させ、物質的な豊かさを得た。その反面、東洋的・日本的なものを失って、現在のあらゆる局面に、いろいろな問題を抱える結果にもなったと言えよう。従って、今求められているのは、豊かさを維持するためカルテアンの哲学を否定する事なく、取り込み乗り越えて、東洋的・日本的な考え方とも融合させ新しいパラダイムを確立する事である。医学も例外ではない。わが国ばかりでなく、カルテアンの本流の国々でも、その動きが見られている。その代表がアメリカで起こっているのである。東洋医学などを"alternative medicine"(代替医療)あるいは"complementary medicine"(補完医療)として西洋医学に組み合わせている。この為、NHIは、大きな研究費さえ出したのである。アメリカでこの動きに火をつけたのはジャーナリストのNorman Cousis氏の様である。彼は1976年12月のNew England Journal of Medicine に自らの体験を発表したところ、医学界に大反響を起こした。それを一般書にまとめたのが"Anatomy of an Illness as perceived by the Patient" W.W. Norton K-Co. Inc. 1979で、わが国では訳されて、岩波・現代文庫・社会30『笑いと治癒力』(松田眞訳)として出版されている。岩波書店からその解説の依頼を受け、本書を読み、強い共感を覚えると共に、アメリカでも起こりつつある時代の大きな流れを感じた。氏のかかった病気は、感染症、アレルギー疾患、あるいは急性リュウマチのような免疫病と、私は判断した。その体験の中で検査漬けの病院生活、質の悪い病院食、そんなことで苦しみ、病院の隣りのホテルで自己流の治療を受けた。大量のビタミンCを点滴投与し、そしてお笑いのテレビ番組やビデオを見て、快癒したという物語である。それは、現代の西洋医学そのものに対する痛烈な批判でもある。
 本誌の読者の方々は、免疫・アレルギー専門の医師の方々で、患者が人間である以上、要素還元論のみでない医療出来ないことは充分理解しておられよう。それでも、現場にあっては、意識せずにそれに引っ張られていた事も否定できない。アメリカの医療現場で起こっている発想の転換には、神経心理免疫学・内分泌学などの体系づけが、強い力になっていることは間違いないが、今全世界に流れている新しい考え方にも無縁ではないのである。


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キーワード: 西洋医学・東洋医学 掲載: 2003/11/21