白梅学園短期大学保育科教授 八木紘一郎
八木氏は、コンピュータによる学習(CAI)を始める年齢を幼児期に“すっとばして”早める、いわゆる「準備説」に疑問を抱いている。子どもの心身両面のマイナス効果はもちろん、現在の幼児とコンピュータの関係を見る限り、それは消費的娯楽型活用にすぎず、子どもは依存的で画一化された文化創造しかできなくなることを氏は懸念する。 |
京都大学名誉教授 久保田 競
久保田氏は、脳が単に大きくなる「成長」と、大脳が働くようになり、高度な営みをし始める「発達」を区別する。大きさについては、生まれたばかりの時には約400グラムだった赤ちゃんの脳は、3〜4歳までには1200グラム(大人の脳の約8割)にまで大きくなる。一方、脳の働きについては、遺伝的に数の決まっているニューロン(神経細胞)同士をつなぐシナプスがどれだけできるかによって、神経情報を伝える回路が決まるという。「シナプスの数は、年をとるとだんだん増えるのではなく、胎児期の半ば頃から増え始め、生まれてからは急激に増え、生後8〜10か月に最大の値になり、それ以後は老人になるまで、ゆっくりと直線的に減っていきます」。氏はこのシナプス過剰形成期の意義について、「この時期に立って歩けるようになり、簡単な手の動作ができるので、この頃の赤ちゃんが一人で地上を移動でき、自分で食べ物を食べることができる、個体としての独立が起きる時期」ととらえている。 |
国立教育研究所教育指導研究部長 永野重史
「子どもは教えれば伸びる」「早ければ早いほどいい」という価値観のもと行われている日本の早教育は、そもそも学齢期以降の学校教育の問題と地続きであると、永野氏は言う。子どものあらゆる能力を測定することに腐心する精神測定的哲学の影響を受けている、と。「小学校から上の教育には、精神測定的哲学の徴候は随所に見られる。だいたい早教育に悪いところがあるとすれば、小学校、中学校の悪いところを先取りしているところなのであって、学校教育を改めずに、早教育ばかりを非難してもしょうがない。親は、学校により良く適応できるようにと願って早教育の施設に通わせているのである」。 |
国際基督教大学特任教授 藤永 保
早期教育の効果を本当に確かめるためには、枝分かれしたままの論拠を整合的に体系化することから始めるべきだと藤永氏は主張する。そもそも、「早期とは何を差すか」「教育とは何を差すか」「早期教育と英才教育の関係は?」といった前提についての考察がないまま、一過性のトピックとしてしか論じられていないことを、氏は最初に指摘する。 |
シリーズ4回目のゲストは、ノンフィクション作家の門野晴子氏。氏はわが子のいじ
め体験などから行動を起こし、子どもの権利を守るという立場で、学校を批判する著書
を数多く執筆している。学校バッシングからは何も生まれないとする小浜氏とは、まっ
こうから対立するスタンスである。議論は学校バッシングの是非からスタートした。 |