子どもと若者の自殺を予防する |
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子どもと若者の自殺と自殺未遂とは、合衆国で公衆衛生上の大きな問題となっている。自殺は、事故、殺人に次いで思春期の死因の第三位を占める。十代半ばは、一生のうちで自殺未遂発生数が最も多くなる年代である。1960年代以来、思春期男子の自殺率が劇的に増加した(女子はそうではない)。このような憂慮すべき傾向をみて、若者の自殺に対する国民の関心がたかまり、米国公衆衛生局サッチャー局長は最近、自殺予防を通じて犠牲者数を減らそうと公衆衛生関係者の協力を呼びかけた。 新しい自殺予防計画を考えるにあたり、現在までどんな努力がなされてきたかを示す科学的証拠を知ることが重要である。アメリカ児童・思春期精神医学会(American Academy of Child and Adolescent Psychiatry)が最近発表した“自殺行動のある児童と若者の評価・治療のための手引Practice Parameter for the Assessment and Treatment of Children and Adolescents with Suicidal Behavior”は、どんな研究があるか、どの研究が期待できるか、できないかについて優れた検討を行っている。 自殺予防ホットラインは、数十年前から存在しており、ほとんどの地域社会でなんらかの形で利用できる。体系的研究によれば、クライシス・ホットライン(命の電話)は、数は多いが、自殺する人の数には影響を与えていないという。 これまでに行われた研究が方法論的には非の打ちどころがないと言うわけではなく(したがって最終的な答えはない)、矯正可能な問題がホットライン・アプロ−チで明らかになっている。それらの中には、a)女性はホットラインをよく利用するが、男性のほうが自殺リスクが高い、b)本当に自殺する人はホットラインに電話をかけない、c)電話をかけてもつながらないことが多い、d)電話で与えられる助言は,電話をかけた人の個人的ニーズに答えていないことがある。クライシス・ホットラインは、精神衛生サービスとして役立つことはあるだろうが、自殺予防がメインという訳ではないだろう。ホットラインの普及につれて自殺率が高まったという事実は、その自殺予防能力がかなり限られていることを示唆する。 自殺に銃砲が使われることが多いので、銃砲入手の機会を減らせば自殺数が減るという推定は、説得力がある。しかし銃砲の安全に関する法律はこれまで発砲事故による死亡を減らす効果があったが、銃を用いた自殺には同じように影響を与えていない。特定の自殺方法を利用できなくしても、自殺率が減るのは一時的であって、永続しない証拠がある。 若者の自殺をターゲットにした広範囲の教育プログラムが、多くの高校で行われている。このプログラムは自殺願望を自覚することやそういった願望がはずかしいことではないことを教えることを通して彼らの自殺願望を明らかにし、生徒が助けを求めてくる可能性を高めることを模索している。自殺教育プログラムを細心に評価した三つの研究も、そのような所望の効果があったとは実証できなかった。ハイリスク学生の中には、このアプローチによって実際に混乱を生じた者もいて、これらのプログラムは害を与えるリスクも含むことを示唆した。 これまでに用いられた自殺予防の方法で最も効果が高かったのは、直接事例認定(*direct case finding)であり、これは若者たちに自殺思考や自己破壊行動について問い掛けるものである。ティーンエージャーたちが過去に自殺をしようとしたことや、自殺についての考え、鬱状態、薬物濫用など、すべていずれは自殺に繋がるような重要なリスク要因について本当のことを話してくれるという強力な証拠がある。 プライマリケア医、学校カウンセラー、未成年犯罪関係者、その他思春期の若者についての専門家は、面接あるいは自記式アンケートを通じて若者に対して直接スクリーニング・アプローチを用いることができる。リスクがあるとされた若者に精神衛生サービスを利用させると、自殺を減らすことができる。 ティーンエージャーが仲間集団にのめりこむことは、彼らをして同世代の自殺の影響を特に受けやすくしている。同じ地域社会で実際には知り合いでなかったが、神経症の既往があったり傷つきやすい若者たちが多数自殺を図るという事実は、模倣傾向を反映している。 地域で起こった自殺や有名人の自殺のメディアの扱い方が、数週間にわたって自殺率に影響を与えることがある。疾病管理予防センターが良識ある報道編集用ガイドラインを開発したが、これをメディアが注意深く用いると、若者の自殺予防に繋がると期待される。 |