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Vol. 18, No. 2, February 2002
子どもの不慮の事故によるけがの予防

子どもの不慮の事故によるけがの予防

医師 グレゴリー・K・フリッツ


 1920年から1960年ごろにかけて"小児科の黄金時代"とよばれた時期は、アメリカの子どもたちの健康状態を改善する非常にすばらしい進歩があった。たとえば抗生物質、予防注射などの免疫付与、インシュリン、経静脈輸液補給の開発、栄養についての知識などが乳児死亡率を低下させ、健康な発達を可能にした。ヒトの遺伝学における最近の加速的進歩は、医学における素晴らしい進歩の時代に我々がふたたび突入しようとしていることを示唆している。非常に多くの分野で劇的な進歩が遂げられているにもかかわらず、幼児期の不慮の怪我がいまだに大きな公衆衛生の問題であることに注目すべきである。しかし世論は子どもが直面する他の医療問題ほどには、幼児期の怪我に関心を示していないようにみえる。

 デイビッド・アンド・ルシル・パーカード財団が発表した子どもの不慮の事故による怪我についてのすぐれた評論(1.)は、これらの事実をまとめたものだが、我々が定めている優先順位を調整する必要を示唆している。不慮の事故による怪我は1歳から19歳までの死亡原因の第1位を占めている。毎年米国では13,000人以上の子どもや若者たちが事故による怪我で死亡しているが、これは自殺、殺人、がん、心臓病、先天性欠陥、呼吸器疾患、AIDSによる死亡合計数を上回る。米国の子どもの怪我による死亡率は他の先進国と比べても特に高く、たとえば英国の2倍である。貧困層、少数民族系の子どもたちの不慮事故による怪我はずば抜けて多く、これはかれらが交通の危険が多い地域に住み、日常的にチャイルドシート、バイク用ヘルメット、煙探知器の利用によって保護されることが少ないからだろう。死亡に加えて、事故による怪我は無数の入院、医療措置などにつながり、子どもの生命に影響を与える。怪我による死亡1例に対して、230人以上の子どもが救急医療を必要とする怪我をし、18人が入院を余儀なくされると推定されている。

 子どもの事故による怪我が多いものの、過去20年間に怪我による死亡率が40%以上減少したという事実にはほっとさせられる。この着実な進歩は、いくつかの予防措置が成功し、怪我をした子どもたちの救急医療措置が格段に改善された事実から生じた。子どもが自分であけられないようにしたキャップの導入がもたらした中毒死の減少は特に素晴らしく、子どもの他の病気の多くで見られる進歩をはるかに上回る。しかし良い可能性があるにもかかわらず、研究や介入手段の資金的限界が怪我予防における進歩を遅らせている。怪我、がん、循環器系疾患に対する国の医療費支出は同じ位なのに、怪我に関する研究資金はがん研究費用の4分の1以下であり、循環器系疾患にあてられるものの半分以下である。

 この明らかなパラドックスの理由はわからない。長い間、子どもの怪我は"事故"と呼ばれ、避けられないもの、予測できないものとされてきた。"不慮の事故による怪我"という言葉は、怪我が研究でき、往々にして予防できるということを意味している。この語意の変化が、社会に影響を与えるかもしれない。いずれにしても、不慮の怪我のリスク要因とその発生パターンについて多くの知識が得られているのは明らかである。

 怪我を予防するには、多くの人々の行動を有意に変更しなければならない。うまくいった予防例はすべて、学際的にはじめられ、行動科学者、医師、エンジニア、弁護士、教育者、役人が多様なやり方でかかわってきた。怪我を予防しようという努力は、大きく三つのカテゴリーに分かれる。教育、環境または製品改善、そして法律または規制の実施である。

 これらの分野のそれぞれで成功した例が見られる一方で、―同じように重要なことだが―失敗の記録もある。教育上のアプローチは、動機付けのためのインタビューなどの簡単で、個人に重点をおいた介入から、広範囲のコミュニティー・ベースの予防プログラムなど幅広くある。住宅地での低速促進措置や水泳プールの柵を安全にするなどの措置を通じての環境改善は、一回かぎりの変更をすれば、子どもたちはその後より安全な環境に守られるので効果的だといえる。チャイルド・シートや自転車用ヘルメットの着用厳守義務などの法的措置は、個人の自由を侵害するとして抵抗を受けることがあるかも知れない。社会変化を現実に期待する場合には、費用に対する効果の解析が必須である(にもかかわらず往々にして行なわれない)。

 いま非常に必要なことは、リスク要因と不慮の怪我に関する研究を増やすことではない。その代わりに、クリエイティブな新しい予防戦略を開発し、現在の研究結果を子どもの生命を救えるコミュニティー・プログラムに利用することが必要である。


1.The David and Lucille Parkard Foundation. Unintentional Injuries in Childhood. The Future of Children 2000; 10(1); Spring/Summer.



The Brown University Child and Adolescent Behavior Letter, February 2002
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Source: The Brown University Child and Adolescent Behavior Letter
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