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Vol. 18, No. 8, August 2002
1. 若者を援助するには
2. ヘッドスタート「就学前教育プログラム」−準備はできたか

若者を援助するには

 若者に関する問題を防ぐには、危険因子に焦点を絞って対処するよりは、教育、雇用、大人との交わりを通じて、都市に住む若者に実行可能な解決策を提供することが重要であると最近の調査は伝えている。ノース・フィラデルフィア市の市街地に住むティーンエィジャーたちは、明るい未来を切り開くためには教育と就職の機会が最も重要な因子だと考えている。レクリェーション・プログラム、コミュニティー・センター、放課後の活動が街の誘惑に代わるものだとして挙げられた。調査結果は、正しく援助の手を差し伸べた方が、逆境にある若者達がその境遇を乗り越える可能性を高くするものとする「打たれ強い若者のモデル」の有効性を確認したものである。共著者サリバンによれば、危険因子に注意を払いすぎると、社会は若者が危険な行動に走ることを期待しているというようなメッセージを伝えかねないという。

[Pediatrics 2002;109(6):1136-1142]

ヘッドスタート「就学前教育プログラム」
  −準備はできたか

スーザン・ディックスタイン博士


 ヘッドスタートは、恵まれない未就学児童に早期学習環境を用意するとして、政府支援のもとに創設されたプログラムである。このプログラムは、子ども達に貧困という壁を越えて育つ機会を与えてやることが目的である。またヘッドスタートの使命は、子ども達に、「学ぶ用意をする」幼稚園の入園の準備をすることである。ヘッドスタートが効果的であるかを見極めるために、政府は最近「Good Start, Grow Smart−良いスタートが賢い子どもを育てる」というプログラムを始めた。このプログラムは、未就学児童の読み書き、数的感覚、言語といった能力を高めること、そしてヘッドスタートを評価する全国児童結果報告システムによい影響を与えること、その結果アカウンタビリティーを果たすという目的がある。

 この政策の思いがけない結果は、学習の焦点が子どもに向かず、「学力テスト」の制度が生み出されたこと、テストの成績が悪いとプログラムを改善するのではなく終了する結果になりかねないこと、そしてテストの結果は、勉強をする適切な環境が整っていないなどの理由で最も年少で最も恵まれない子どもたちに不適切で不正確なレッテルを貼る可能性を含むことなどを明らかにした。したがって、これらの子どもたちの達成した事柄やその潜在的能力を育むことに喜びを見出すのではなく、子どもたちの役割を「プログラムのアカウンタビリティーのための情報源」としか考えなくなるといった事態を招いている。

 テスト項目はヘッドスタートの効果を確かめるという目的に関しては、適切に意図されている。ヘッドスタートは30年以上前から政府が資金を提供しており、プログラムのアカウンタビリティー基準を確立するための正当な試みであるのは間違いない。しかし、子どもの知識を数字や文字のテストによってのみ測るという限定的なアプローチは、ヘッドスタートの効果を確かめるのに十分ではない。ヘッドスタートの主たる目標は、「勉強そのものを教える」のではなく、「勉強の環境を整えるためのきっかけを与える」ということである。著者はヘッドスタートで長年にわたってメンタルヘルスのコンサルタントを務めてきたが、ヘッドスタート教室で数字や文字を教えること以上に、家族に手をさし伸べることや、子どもに感情を通じて社会とうまくやっていけるように奨励すること、家族とコミュニティーの関係を確立することなどが、子どもが幼稚園でうまくやっていく助けになることを明らかにした。ヘッドスタートのサービスを受ける子どもたちはほぼ全員が、経済的破綻、母親のうつ、家庭内暴力、薬物乱用などの、幼児期の学習がうまくいかない主たる原因だと知られている複数の慢性的ストレスを経験している家庭の子どもたちであることを考えても、これらの要素は非常に重要である。ヘッドスタートは子どもたちにとって安全ネットであり、ここから彼らは勉強するということ自体を学び始めることができる。しかし学力テストの結果、子どもが算数の勉強をしていないと決め付けてしまうなら、細事にこだわり、大事を逸する危険がある。

 ヘッドスタートの効果を確かめるために、プログラムを評価し、参加した子どもや家族の進歩を見極める必要がある。子どもの発達がうまくいくのは、幼児期の学習環境の質によることがわかっている。これがパトリック・ケネディー上院議員(民主党・ロードアイランド州選出)の提唱するFoundations for Early Learning Actの前提条件である。我々は子どもたちに提供するサービスの基準を確立し、評価しなければならない。クラス構成(例えば学生とスタッフの割合)、教師の能力、効果的な授業ができているかどうか、またカリキュラムの中身、プログラムが個々の子どもの学習や発達の違いを考慮しているものかなど、教室の構成要素を測らねばならない。ヘッドスタートが提供するサービスの質が高く、教師はよく訓練され、適切な指導の下にあり、カリキュラムが発達や文化の面からみて適正なものであることを確かめる必要がある。又これらのサービスが子どもたちや家族の生活を変えているか否かを、細切れの情報を断片的に評価するのではなく、時間をかけ、いろいろな状況にわたって進歩を評価することによって確認しなければならない。経験に基づいた研究計画を用い、ヘッドスタートの子どもたちが複雑な状況下でも自分の感情をコントロールしながら仲間と上手くやっていけるか、またヘッドスタートの恩恵を受けなかった同様の被験対照群のグループと比べてより積極的な学習戦略を示せるかなど、進歩のしるしを評価しなければならない。

 教室という場面で、子どもたちがどのようにして感情を押さえ、いかに他の子どもと交わることを学ぶかが、10まで数を数えられることと比べて、幼稚園(とそれ以上に)にうまく進めることと同じ位大切だということが分かっている。サム・メイゼルスが最近のヘッドスタート研究会議で、学力テストは幼時の学習を促進するものではないと言ったが、彼の言うとおりである。高い達成度よりも、高い水準が大切なのである。

スーザン・ディックスタイン氏はブラッドレイ病院の乳幼児臨床研究センター理事であり、ブラウン大学心理学・人間行動学助教授である。



The Brown University Child and Adolescent Behavior Letter, August 2002
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Source: The Brown University Child and Adolescent Behavior Letter
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