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シカゴ・ドゥーラ・プロジェクトの背景
シカゴ・ドゥーラ・プロジェクト:コミュニティーベースモデルの応用

Susan Altfeld, Ph.D. Clinical Assistant Professor, School of Public Health University of Illinois at Chicago

アメリカにおいて10代で出産する母親の数は最近減ってきたものの(Curtin & Martin, 2000)、思春期である10代での出産は、社会福祉や母子保健の分野で、今もかなりの部分を占めている。1991年には15〜19歳の母親の出産の問題は1,000件あたり62.1件であったが、2000年には48.5件と2割近く減少した。しかし、アメリカの10代の親の数はどの先進国と比べても高く、思春期に母親になることで、母親と子どもの両方にとって社会的、経済的、健康的にネガティブな結果を生みやすいことがこれまでの研究から分かっている (Ventura & Bachrach, 2000; Moore, Morrison & Greene, 1997; Goerge & Lee, 1997; Wolfe & Perozek, 1997)。

シカゴ・ドゥーラ・プロジェクトは10代の親とその子供たちのためにより良いサポートを提供したいと考える人々が集まって始まった。プロジェクトの目的は、地域の女性をドゥーラとして養成し雇用することによって、10代の親を対象とした既存の支援システムに、強力な妊娠期・分娩期・産褥期サポートを統合することであった。それまでの研究によってドゥーラのサポートが出産体験に与えるさまざまな効果が明らかになっており、このプロジェクトへの期待となった。

1995年8月、The Harris Foundation, Chicago Health Connection, The Ounce of Prevention Fundの3組織の代表者が一同に会し、シカゴに住む10代の母親とその赤ちゃんたちにドゥーラサポートを提供する可能性について話し合った。それぞれの組織が、互いに異なる、しかし同時に、互いに補い合う、関心分野と資源を持ち寄った。The Harris Foundationは、かつて病院ベースのドゥーラサポートのプロジェクト研究に関わった経験があり、母子関係にドゥーラサポートが良い影響を与えることに特に可能性を感じていた。今回の参加には、同財団の実業家であり博愛主義者であるIrving Harris氏の肩入れと強い関心によるところも大きかった。氏は小児早期と10代の母親の支援について、長年にわたり資金提供を行ってきた。Chicago Health Connectionは母子の健康促進の分野で豊富な経験があり、地域の健康相談員養成の分野で専門知識を持っていた。The Ounce of Prevention Fundは1982年以来、イリノイ州全土で10代の親のための母子の健全な成長発達を支援するプログラム(家庭訪問やグループサービスなど)を推進・管理してきており、今回の新たなドゥーラ・プロジェクトの事前調査を行うに際し、フィールドを既に持っていた。シカゴ・ドゥーラ・プロジェクトに参加することで、The Ounce of Prevention Fundは従来の活動に加え、出産という若い家族にとって重要な時期の支援サービスを提供することが可能となり、長期的な支援体制をつくることができるようになると考えた。こうして、これらの3つの組織が共同でドゥーラ・プロジェクトの事前調査を行うことが決まった。

コミュニティベースのドゥーラの活動モデルは、Chicago Health Connectionが、ブラジルのPaulo Freireにより提唱されたエンパワーメント教育法に基づいて、長年おこなってきた活動の延長であった。ドゥーラとして慎重に選ばれた非専門職女性たちは、ターゲットとなる地域の人々と人種、民族的背景(言語や習慣など)、社会的経済的背景が近く、養育者、ロールモデル、指導者としての素質や能力を備えた女性たちであった。ドゥーラの養成過程では、妊娠、分娩、思春期、母乳育児についての講義を通して受身的に学ぶだけでなく、ロールプレイや話し合い、指導付き実習などを通して自ら積極的に学ぶ方法が強調された。

1996年7月、Harris FoundationとRobert Wood Johnson Foundationからの資金援助を受け、シカゴ・ドゥーラ・プロジェクトは正式に発足した。このプロジェクトがこれまでのクラウス、ケネルらによる研究やその他の研究と異なる点は、研究対象者を初産婦、正期産、合併症なし妊娠に限定しないことであった。3ヶ所の支援施設のいずれかに通う妊婦なら誰でも、このプロジェクトの支援サービスを受けられた。このプロジェクトは、結果に関与する条件を理想的に制御しておこなわれたこれまでの実験研究とは異なり、現実的な状況で10代の母親にドゥーラサポートを提供しその効果を検証することを優先した。そのため、私たちは既存の研究で検証されたような著しい効果はそれほど期待していなかった。

ドゥーラのサポートは妊娠後期(28週以降)に開始され、産後12週目まで提供された。研究参加者となった10代の妊婦たちは、妊娠後期に入った時点で、ドゥーラを講師とした出産準備クラスに出席した。その後、家庭訪問などを通じて彼女たちは出産まで毎週ドゥーラと連絡をとり合った。ドゥーラは彼女たちの陣痛、分娩に付き添い、出産直後の母乳開始を手助けした。産褥早期が過ぎるとその後は、家庭訪問をしつつ、育児を支援したり、授乳指導をしたり、母子の絆を深めるための手助けをした。

Ounce of Prevention FundとChicago Health Connectionは、このドゥーラ・プロジェクトは10代の親のための既存のサポートシステムにしっかり根付くようなものでなければならないと強く感じていた。そこで、Chicago Health Connectionは“全てのプロジェクト参加者が、自分の所属する組織に影響するあらゆる支援策の意思決定において、最大の自由をもてるような協力関係”を築くことに尽力した(Chicago Health Connection Doula Project, Annual Report to the Robert Wood Johnson Foundation, August, 1997)。このような柔軟な協力システムをとることにより、各組織は自分たちの状況に合わせてこの新しいサービスを取り込むことが可能になり、現場のスタッフや各組織にとって一番良い方法でプログラムを組むことができた。

この柔軟な協力システムはプロジェクトモデルの実施においては強みであったが、ドゥーラサポートの効果を評価する際には難点となった。それぞれの組織がそれぞれ異なる実施条件をもつ結果となったため、無作為化実験研究(ドゥーラありとなしの群をランダムに設定し比較する実験)のような、関与する条件をコントロールし介入の効果を比較判定する方法は不可能であった。しかし、イリノイ州全体やシカゴの10代妊婦の統計結果と比較するなどの方法で当プログラムを評価してみたところ、ドゥーラ・プロジェクトに参加した10代の母親は、母乳育児の実施率が有意に高く、帝王切開率や硬膜外麻酔の使用率が有意に低い傾向が明らかになった。年齢の低い妊婦ほど、その後すぐに妊娠する傾向が低いこともわかった*。これらの結果報告を受け、全米のさまざまな支援プログラムが、このプロジェクトで開発されたドゥーラサポートを自分たちの支援サービスに導入しようと検討し始めた。現在では、10代の妊産婦を対象にしたプログラムだけでなく、ベトナム系やヒスパニック系の移民、薬物依存を治療中の女性、慢性精神疾患をもつ女性などに支援を行っている組織でも、自分たちのサービスにコミュニティベースのドゥーラのモデルを活用しており、社会的に不利な立場にいる人々の支援に役立てている。
*(訳者注)ドゥーラサポートによって妊娠・出産経験がより満足の高いものになるため、その後すぐにまた妊娠を望む女性が増えるのではとの予測もあったが、そうはならなかった。

参考文献
Curtin & Martin. (2000).
Ventura & Bachrach. (2000).
Moore, Morrison & Greene. (1997).
Goerge & Lee. (1997).
Wolfe & Perozek. (1997).
Chicago Health Connection Doula Project. (1997). Annual Report to the Robert Wood Johnson Foundation, August, 1997. Chicago Health Connection.
ZERO TO THREE(http://www.zerotothree.org/)が発行する雑誌『Zero to Three』1998年4/5月号に掲載された内容を翻訳して掲載するにあたり、スーザン・アルトフェルド助教授に当時のプロジェクトの背景を書き下ろして頂いたものです。


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