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はじめに

研究目的および研究方法

 学校教育の発展には,教師の量的・質的発展が不可欠である。そのため,優れた資質・能力をもつ教員を養成し,その能力を十分に発揮できる環境・待遇を整備することは,いつの時代においても重要な課題である。
 今回我々は「大学生の教師観調査」を行い,その分析を通じて,教職志望の学生に「教師文化1)の継承」のあり方を見出した。教師のパーソナリティレベルでの特性や,教育活動,教師としての子ども観など,様々なレベルで教師文化の特性が見られ,それが学校の現状と深く関わっていることは容易に想像できよう。またかつての「師範タイプ」を引き継ぐ形での教師のイメージは広く一般に普及していると言える。そのような教師文化の具体的な内容についての実証的な研究はいくつかある。しかしながら教師文化の継承過程に関する論考はほとんど見られない。
 そこで,教職志望の学生の回答傾向から,彼らがもともと教師文化の継承を行いうる素養を持っていることを明らかにする。そして,教育実習の経験等を通して彼らが教師文化に適応していく状況を明らかにすることで教師文化の継承過程を明らかにすることが出来ると考えられる。
 また,今回我々が量的調査として実施した「大学生の教師観調査」を単に教職志望学生の意見として扱うのみでなく,「教職志望の有無」「教育実習経験の有無」という観点から,分析を試みている。教職志望者の中での実習経験の有無,非志望者の中での実習経験の有無という4つのカテゴリーに分割し,その回答傾向を明らかにすることにより,前述した課題の解決が図られると思われる。具体的には,学生が教師となる過程(実習経験なし→実習経験有りへの意見の変化)としての分析や,教職志望の有無による教師文化の捉え方の差,そして教職志望者がもともと学校生活にうまく適応している向学校文化2)的な性格を有しており,教育実習を経験することにより,さらに教師文化に適応的になるという点を明らかにしていく。
 また,教師文化(の一部ではあるだろう)が教師となって初めて獲得されるものではなく,向学校的なそれまでの学校生活によって獲得されるのであれば,教職志望者による教師文化継承は,教師文化の固定化の原因となる可能性もある。学校教育には,価値観が多様化し日々激しい変化の生じる現代社会が反映されている。その現場において,教師の有する固定化された教師文化がどのように作用するのかを検討することも,今日的な視点から教育問題を論じるにあたっては重要なことだと思われる。
 以上のような観点から,教職志望学生にみる教師文化の継承について論じていく。また非教職志望者の実習後の意見を,教育問題に無関心な層が「教師」へ関心を持つことにより生じる教師観の変化の可能性として捉えられると考えることもできるため,教育問題を外から批判的に論じる傾向にある世論が現場の立場からも教育を見ることの重要性をも指摘できるのではないだろうか。
 なお,本レポートの中心的な分析対象である「大学生の教師観調査」は,元々チャイルド・リサーチ・ネット年間研究「教師観研究」の一環として,“理想の教師像”を明らかにするために企画された調査であった。よって「教師文化の継承過程」を明らかにする目的で行ったものではないため,本報告書に使用できるデータが限られており,十分な考察が出来ていない点があることを予めご了承いただきたい。


1) 教師文化とは,教師集団に共有される様々な行動様式ないし思考様式を指す。
2) 詳しくは第一章で述べる。


調査概要

大学生教師観調査(有効回答数405)
性別 男性181人(44.7%),女性224人(55.3%)
学年 1年130人(32.1%),2年60人(14.8%),3年97人(24%),4年113人(27.9%)
学部 教育学部259人(64.3%),その他144人(35.7%)
学科 教育系148人(44.4%),その他185人(55.6%)
実習経験 有163人(40.9%),無236人(59.1%)
教職志望 教職志望140人(36.6%),教職非志望242人(63.4%)
採用試験 受験予定115人(80.4%),予定なし12人(8.4%),未定16人(11.2%)
調査校 国立大学3校,私立大学2校
個別アンケート
実施期間 2000年12月〜2001年2月
協力者 学生11名,教職経験者5名
大学生の座談会
実施日 2000年9月
協力者 国立大学(教員養成系大学)の大学生4名


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