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―特別インタビュー―
子ども・メディア・教育

石井威望×聞き手:河村智洋

1  イノベーション教育が重要になる時代

河村 本日は10年前のCRNの設立時から顧問としてアドバイスをいただいている石井先生に、まずメディアの10年後を予想していただき、さらに未来へ向けてどのような教育がなされていくべきか、お話しいただければと思います。

石井 未来を予測するというのは、これがなかなか難しいですね(笑)。現代社会のように技術革新の速度が速くなると、10年経つと世の中はがらっと変わってしまいます。
 私が慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)*1に東京大学から移ったのが1991年。あの頃、SFCは最先端の情報環境を誇る大学で、当時の一流企業よりもシステムはずっと充実していました。あなたはSFCの一期生だからわかるだろうけど、全国の企業や大学から毎日視察が絶えなかったものです。ところが、いまではSFCのような情報環境は、企業はもちろんどこの大学でも日常的なものになっています。
 また、90年代の半ばから、日本は「失われた10年」といって、ずっともがき続けてきました。ところが、米韓に遅れを取ったと言われていたブロードバンドも、2005年には日本中の家庭に入るようになり、その普及率はアメリカを上回るまでに成長しました。そんなふうに10年後というのは常に予測を超えています。
 これからの10年間もどんなことが起こるのかは、確実な予想はつきません。ただ、現代の世界経済のあり方を考えると、これからの10年間には教育のもつ価値がとても高くなるということだけは言えるかもしれません。
 米国競争力評議会が米IBM最高経営責任者(CEO)サミュエル・パルミサーノ氏を委員長として2004年に取りまとめた報告書「イノベート・アメリカ」*2には、グローバル化社会においては人材(イノベーション教育)が最重要視されると記されています。パルミサーノ氏は、アジアのエマージングタイガーズ*3が追い上げてきた理由は、低賃金にあるのではなく、それらの新興国が科学技術教育、とくに情報化を中心としたイノベーション国家戦略を強力に推進した成果だと強調しています。
 報告書がそのような主張を展開した背景には、2001年9.11の同時多発テロを機にアジアを中心とする頭脳労働者の流入を制限した結果、アメリカの産業が立ち行かなくなったことへの危機感があります。つまり、現在のアメリカを支えているのは低賃金の労働者ではなく、アジアを中心とする新興国で高い教育を受けてきた知的労働者であることが認識されたのです。彼らへの依存過度に陥らないためには、国内のイノベーション教育を振興し、イノベーションに最適なバランスで人材を得なければならないと同報告書は結論づけています。
 日本もブロードバンド・インフラが世界のトップクラスになったのだから、その潜在能力を十分発揮させるためには、人材の育成が今後の最重点課題になると思います。そのような観点から日本でも「イノベート・アメリカ」に対抗して、「イノベート・ジャパン」が意識されるようになってきました。


*1 SFC
慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス。1990年に総合政策学部・環境情報学部の2つの学部からスタート。グローバル時代に即応できる人材を開発するために学内をインテリジェント化してIT環境の整備を行い、未来の大学のモデルとして注目を浴びた。
*2 イノベート・アメリカ
イノベートは革新すること。技術だけではなく社会構造も含めた新基軸を打ち出す活動を指す。同報告書では米国が今後も競争上の優位を維持するためには、イノベーションに最適な社会構造をつくるべきだという主張がなされている。委員長の名前をとり「パルミサーノ・レポート」とも呼ばれている。
*3 エマージングタイガーズ
中国、インド、韓国などアジアを中心とする、急速に発展した新興イノベーション地域のことを指す。

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