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―特別インタビュー―
子ども・メディア・教育

石井威望×聞き手:河村智洋

2  とことん遅れたメリットを活かす

河村 そのようにイノベーション教育が世界のビジネスの場で強調され始めていることは、日本の教育現場ではほとんど意識されていないのではないでしょうか。
 私はCRNで子どもとメディアの研究をしてきましたが、この10年間のメディア環境の急激な変化にともない子どもたち自身も進化してきたと感じています。5年ぐらい前までは子どもたちは中高生になって携帯からネット生活に入っていったのですが、いまは小学生の頃からブロードバンドのパソコンに親しんでいます。文章だけではなく、映像や音楽なども自由にやり取りして、ブログなどを使いこなしながら自分で情報を発信することがふつうになってきています。
 そのような子どもたちは学校のコンピュータ教育には何も期待していなくて、あきらめのようなものを感じているのがよくわかります。学校と子どもたちとのギャップは埋めがたいものがあります。
 私がSFCを卒業した1994年頃には、SFCに匹敵するような情報環境は世の中にはありませんでした。その頃から比べると、ビジネスの場もアカデミズムの場も格段に進歩しました。しかし、公教育の場だけは変わりませんでした。むしろ、総合的な学習の時間をどうするべきかという論議が盛んだった5、6年前と比べても、現在は後退している印象です。この落差をどうしていけばいいのでしょうか。

石井 もし、本当にそうであるのなら、決定的に出遅れてしまった現状を認めて、思い切って一からやり直すのも手ではないかと思います。建前論でごまかすことをやめて、子どもの方が進んでしまった実態を素直に認めて、下手に学校でパソコンなど教えない方がいいかもしれない。ただ、私は基本的に公教育に関してはあまり悲観的ではありません。というのは、いままではパソコンをろくに触ったこともない先生たちが付け焼刃で教えていたかもしれないが、これからは子どもの頃からパソコンを使いなれている先生たちが教えることになるだろうから、授業に活かす方法などいくらでも思いつくはずです。そうなれば、ほっておいても時代にふさわしい公教育が実現すると思います。
 それに遅れたことのメリットかもしれないけれど、このところ明らかになってきたコンピュータの弊害から子どもたちが免れたということもあるのではないかと思います。ネット社会の光と闇の問題もありますが、コンピュータそのものが子どもの思考力に影響を与えていることがわかってきています。最近NHKの「クローズアップ現代」でも取り上げられていましたが、キーボードばかりで手書きをおろそかにすると、漢字が書けなくなったり、覚えられなくなったりするらしいのです。だとすると、子どもたちが学校現場でキーボードに浸り切らなかったのは、いまになって思えば正しかったのかもしれません。

河村 それはまったくその通りです。漢字は覚えなくても変換で出てきてしまうので、私もまったく覚えられなくなりました。そしてどんどん忘れていく。大学院の修士の試験の時には、ひらがなとカタカナで解答を書くはめになりましたし、最近は親の名前さえも漢字で書けない自分に気がついて愕然としています。

石井 テクニカルタームはカタカナが多いから、なんとか切り抜けられたということかな(笑)。実は、漢字というのは、手を踊りのように躍動させながら書いて覚えるものであって、出てきたものを目で見て選んでいるだけでは覚えられないものなのです。私は、そのことを知っていたわけではないのですが、入力はすべてペン手書き式入力でやっています。ザウルス*4の画面に手書きで原稿を書くので、漢字を忘れたり、書けなくなることは幸いありません。
 教育現場にコンピュータを持ち込むときには、そのような点も含めて、一から検討し直し、遅れてしまったメリットを活かすようにすればよいのではないでしょうか。とくに国語教育に関しては、将来パソコンで文章を書くことを前提として、子どもの頃に何を徹底して教えておくべきかを考えておく必要があると思います。

*4 ザウルス
シャープが開発した電子手帳。モバイルパソコンの役割を果たし、手書きで電子メモを取ることができる。

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