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III まとめ

これまでの発表を要約させていただきます。子どもにいつから保育を受けさせるか、保育の種類、母親以外による保育を週何時間ぐらい受けさせるか、また保育の質についての決定は、家族が行います。これらの決定を導くのは主に経済的要因ですが、母親の心理的特徴も影響してきます。

表6にわれわれの研究の第一段階の研究成果をまとめました。家族の特徴や親による育児は、乳幼児の母親に対する愛着や母子関係、子どもの社会的能力、問題行動、言語的発達、及び就学レディネスの重要な予知因子となっています。家族の特徴並びに親による育児に関する要因は、研究されてきたすべての発達結果と一貫した対応性がありますが、保育の予知因子は必ずしもすべてとは対応していません。さらに、保育の特徴が予知する結果については、家族の特徴や親による育児による影響の方がより大きくなっています。最後に、家族の人口統計学、心理的、また人間関係といった可変因子による予知は、母親が全面的に世話をしている子どもと、長時間保育を受けている子どもの間に、大きな差異は見られませんでした。

IV 結論

以上の研究結果から、子どもの乳幼児段階においては、母親による全面的育児を受けているか、もしくは保育を受けているかに関わらず、家族の特徴や母親の行動、母性の属性が、子どもの認知的また社会感情の発達に重要であることがわかります。また、保育の経験、特に保育の質は、度合いは小さいものの、子どもの発達に一貫して影響をもたらします。母子間の相互作用の影響を裏付けるものがいくつかみられます。たとえば、母親に子どもの心を読み取る力が十分なく、子どもも質の低い保育を受けている場合、これは愛着の不安定性に関連している可能性が高いといえます。結論としては、母子相互作用に関しては例外的データがひとつはありましたが、母親以外による長時間保育で、家族の影響が減少する(変化する)ことはありません。

V 質疑応答

質問: フリードマン先生、示唆に富んだ発表をどうもありがとうございました。最初の方のチャートで、父親による育児が13%とありました。米国では父親がよく育児をしますが、父親による育児を受けた子どもたちに関する情報や統計がありますか。

フリードマン博士: 大変よいご質問で、この点に関する情報を出せたらと思っています。
ちょうど「家族心理学ジャーナル」6月号で、子育てにおける父親の関わり、また、遊びの中での父親の子どもに対するセンシティビティについて、論文を発表したばかりですが、父親の関わりもしくはセンシティビティと子どもの発達の関係を研究するにはまだいたっておりません。

質問: 発表の中で、母親のセンシティビティが子どもの発達に大きな影響があるということでした。母親のセンシティビティを決定する要因は何でしょう。この点の研究はなさったのでしょうか。

フリードマン博士: ご質問に直接お答えする前に申し上げておきたいのですが、私たちは、母親のセンシティビティをあらゆる子どもの発達結果の予知因子としては見ていません。概念的に理由付けができる場合のみ、母親のセンシティビティと子どもの発達のつながりをみました。具体的には、母親のセンシティビティと乳幼児の母親への愛着、母親のセンシティビティと子どもの依存心、社会的能力、問題行動のつながりを調べたわけです。母親のセンシティビティを認知発達の予知因子としては用いませんでした。母親による認知的刺激の方が、より適切な予知因子と考えたからです。

ご質問への直接的なお答えですが、母親のセンシティビティを定義づける観察システムを、非常に注意しながら使っていきました。発表の中で、15分間のプレイセッションで母子間の相互作用を評価する際にみる、母親の行動を示すスライドをご紹介したかと思います(資料5)。また、コールドウェル・ブラッドレーのH.O.M.E.によるセンシティビティの評価も行いました(資料1)。センシティビティ評価についてさらにご興味がおありでしたら、研究の実施マニュアルが出ていますので、一部お送りさせていただきます。今までのところ、母親のセンシティビティを決定する要因についての研究は行っておりません。思うに、1) 子どもの要求に敏感に反応するかどうかを決める母親の意識、並びに2)子どもの発達における母親のセンシティビティが重要だという母親の認識、この2つの点がともに、女性と幼い子どもたちとの相互作用におけるセンシティビティを決定する上で大切な要素だと思います。

質問: 私は小児科医をしております。フリードマン先生の発表を聞かせていただき、一つ質問です。日本のデータによりますと、愛着は世代から世代へと引き継がれていきます。米国のデータではどの程度、この点を考慮されているのでしょうか。このような世代間の愛着の引継ぎを考えますと、働く母親について、また彼女たちの子どもたちが結婚して子どもを持つとき、どうなるのかと考えるのですが。こうした子どもたちがどんな子育てをするのかが心配です。私の外来患者の中には母親も子どもさんもいます。母親が子どものときに十分な愛情を受けていなければ、自分に子どもが生まれたときに不安を抱くのではないでしょうか。この点は研究でとりあげられたのでしょうか。こうした世代間の愛情の引継ぎについての情報はお持ちですか。

フリードマン博士: ご紹介しました研究(NICHD乳幼児保育研究)では、世代間の引継ぎはとりあげていません。

母親がフルタイム、あるいはパートでさえ仕事に就いた場合、子どもの心を十分に読み取ることができない、もしくはそうしたセンシティビティを表現する十分な機会がないのでは、ということを心配されているのだと思います。したがって、子どもは母親から十分に心を読み取ってもらえない。結果的にこの子が大きくなって子どもが生まれたときに、幼子の心を読み取るという知識なくして親になってしまうのでは、ということですね。私たちの研究では、対象児童のほとんどが保育を受けていました。母親は、その時々において、子どもとのふれあいの中でセンシティビティを示しています。本日お話しましたように、母親のセンシティビティと子どもの発達に関係があることがわかりました。母親のセンシティビティが高いほど、子どもの愛着安定性が高まります。センシティビティが強いほど、子どもの社会的能力は高まり、問題行動を示す可能性が低くなるのです。ですから、保育を受けている子どもたちの母親が子どもたちにセンシティビティを示すことはできるわけです。さまざまな形のセンシティビティが子どもの発達に関係していますが、毎日、これらの母親がどの程度の時間、子どもたちの心を読み取ろうとして関わりをもっているのかはわかりません。また、センシティビティを一つの世代から次の世代に引き継ぐのに、どの程度のセンシティビティによる相互作用が必要なのかもわからないのです。説明するだけのデータはありませんが、母親が就業しており、子どもが保育を受けていても、母親が子どもの心を読み取ろうと行動する機会は十分にあります。また、世代を超えてセンシティビティを引き継ぐのに十分な母子間の相互作用があるとも考えています。


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