V 質疑応答
質問: フリードマン先生、示唆に富んだ発表をどうもありがとうございました。最初の方のチャートで、父親による育児が13%とありました。米国では父親がよく育児をしますが、父親による育児を受けた子どもたちに関する情報や統計がありますか。
フリードマン博士: 大変よいご質問で、この点に関する情報を出せたらと思っています。
ちょうど「家族心理学ジャーナル」6月号で、子育てにおける父親の関わり、また、遊びの中での父親の子どもに対するセンシティビティについて、論文を発表したばかりですが、父親の関わりもしくはセンシティビティと子どもの発達の関係を研究するにはまだいたっておりません。
質問: 発表の中で、母親のセンシティビティが子どもの発達に大きな影響があるということでした。母親のセンシティビティを決定する要因は何でしょう。この点の研究はなさったのでしょうか。
フリードマン博士: ご質問に直接お答えする前に申し上げておきたいのですが、私たちは、母親のセンシティビティをあらゆる子どもの発達結果の予知因子としては見ていません。概念的に理由付けができる場合のみ、母親のセンシティビティと子どもの発達のつながりをみました。具体的には、母親のセンシティビティと乳幼児の母親への愛着、母親のセンシティビティと子どもの依存心、社会的能力、問題行動のつながりを調べたわけです。母親のセンシティビティを認知発達の予知因子としては用いませんでした。母親による認知的刺激の方が、より適切な予知因子と考えたからです。
ご質問への直接的なお答えですが、母親のセンシティビティを定義づける観察システムを、非常に注意しながら使っていきました。発表の中で、15分間のプレイセッションで母子間の相互作用を評価する際にみる、母親の行動を示すスライドをご紹介したかと思います(資料5)。また、コールドウェル・ブラッドレーのH.O.M.E.によるセンシティビティの評価も行いました(資料1)。センシティビティ評価についてさらにご興味がおありでしたら、研究の実施マニュアルが出ていますので、一部お送りさせていただきます。今までのところ、母親のセンシティビティを決定する要因についての研究は行っておりません。思うに、1) 子どもの要求に敏感に反応するかどうかを決める母親の意識、並びに2)子どもの発達における母親のセンシティビティが重要だという母親の認識、この2つの点がともに、女性と幼い子どもたちとの相互作用におけるセンシティビティを決定する上で大切な要素だと思います。
質問: 私は小児科医をしております。フリードマン先生の発表を聞かせていただき、一つ質問です。日本のデータによりますと、愛着は世代から世代へと引き継がれていきます。米国のデータではどの程度、この点を考慮されているのでしょうか。このような世代間の愛着の引継ぎを考えますと、働く母親について、また彼女たちの子どもたちが結婚して子どもを持つとき、どうなるのかと考えるのですが。こうした子どもたちがどんな子育てをするのかが心配です。私の外来患者の中には母親も子どもさんもいます。母親が子どものときに十分な愛情を受けていなければ、自分に子どもが生まれたときに不安を抱くのではないでしょうか。この点は研究でとりあげられたのでしょうか。こうした世代間の愛情の引継ぎについての情報はお持ちですか。
フリードマン博士: ご紹介しました研究(NICHD乳幼児保育研究)では、世代間の引継ぎはとりあげていません。
母親がフルタイム、あるいはパートでさえ仕事に就いた場合、子どもの心を十分に読み取ることができない、もしくはそうしたセンシティビティを表現する十分な機会がないのでは、ということを心配されているのだと思います。したがって、子どもは母親から十分に心を読み取ってもらえない。結果的にこの子が大きくなって子どもが生まれたときに、幼子の心を読み取るという知識なくして親になってしまうのでは、ということですね。私たちの研究では、対象児童のほとんどが保育を受けていました。母親は、その時々において、子どもとのふれあいの中でセンシティビティを示しています。本日お話しましたように、母親のセンシティビティと子どもの発達に関係があることがわかりました。母親のセンシティビティが高いほど、子どもの愛着安定性が高まります。センシティビティが強いほど、子どもの社会的能力は高まり、問題行動を示す可能性が低くなるのです。ですから、保育を受けている子どもたちの母親が子どもたちにセンシティビティを示すことはできるわけです。さまざまな形のセンシティビティが子どもの発達に関係していますが、毎日、これらの母親がどの程度の時間、子どもたちの心を読み取ろうとして関わりをもっているのかはわかりません。また、センシティビティを一つの世代から次の世代に引き継ぐのに、どの程度のセンシティビティによる相互作用が必要なのかもわからないのです。説明するだけのデータはありませんが、母親が就業しており、子どもが保育を受けていても、母親が子どもの心を読み取ろうと行動する機会は十分にあります。また、世代を超えてセンシティビティを引き継ぐのに十分な母子間の相互作用があるとも考えています。 |