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7月
7月

〜子どもの想像力の深さと広がりを(1/3)〜

<今月の本>フィリッパ・ピアス作 『トムは真夜中の庭で』



◆一枚の絵をめぐる子どもたちの会話から◆

 娘が小学校2年生の時、何度目かの授業参観は絵の時間でした。娘は画面中央より右よりに、大きな白い塔のようなものを描いていました。下から上に窓もいくつか描いています。森の中に建つその塔に、ひとりの女の子が登っていこうとしているようです。

 そのとき、隣の席の男の子が、娘にいいました。
 「この窓はおかしいよ。きちんとならんでなくて、バラバラだもの」
 たしかに、その窓はたとえば校舎の窓のように、一列に同じ高さの所に並んでいるのではありませんでした。娘は、驚いたような顔で、隣の席の男の子を見ました。何か言いたそうなのですが、うまく説明できないのか、口ごもっていました。

 すると、前の席の男の子が、くるりと振り向いて娘の絵を見ました。
 「ちがうよ。これはね、塔の中に階段があって、それがグルグル回りながら登っていくのに合わせてついている窓なんだよ。そうだろう?」
 娘は、ほっとしたように、うれしそうにうなづいて微笑みました。隣の席の男の子も、なるほど、という顔をして、納得したようです。

◆見えないものを思い描く力の大切さ◆

 3人の子どもたちの目にはそれぞれに、大きな白い塔が見えます。そして、画面では見えない塔の中のラセン階段を、たどっているようです。壁には、染みがあったり、階段には崩れている部分があったりするかもしれません。階段にそって上へと続いている窓から、青い空や白い雲や、緑の木立が見えるかもしれません。

 私は、3人のやりとりを聞きながら、いっしょになって、塔の中を想像し、なんてすてきな子どもたちなんだろうと、思いました。子どもの想像力の豊かさが、見えないものまで見通すのです。あるいは、見えないものまで描いたとも言えるでしょう。

 そして、何よりすばらしいのは、それを共感し、理解しあえる力を持っているということです。そのような力こそが、絵を見たり、物語を読んだりする楽しさを生み出すのでしょう。そしてまた、その楽しさが、そのような力を育むはずです。
 それは、子どものみならず、人間が生きていく上の、喜びであり、生きる力ともなりうるものではないでしょうか。


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