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7月
7月

〜子どもの想像力の深さと広がりを(2/3)〜

<今月の本>フィリッパ・ピアス作 『トムは真夜中の庭で』



◆無意識の世界と風景を見た記憶◆

 それにしても、娘はどうしてこんな絵を描いたのでしょうか。私の故郷の海に立つ灯台へ、幼い日に連れて行ったことがあります。長いラセン階段を昇っててっぺんに着くと、大きなガラスの目玉のような投光機があって、外を見ると、文字通り360度ぐるりと太平洋が見えます。灯台のふもとには、松林が迫り、陸地にはこんもりと茂った林が続いています。そこへ行ったときの記憶が、無意識のヒントになったのでしょうか。

 私はひとりあれこれ考えましたが、もちろん、娘にたずねたりはしませんでした。たとえ、たずねても、やはり、娘はうまく答えられなかったと思います。
 たしかなことは、一枚の絵から、私は子どもの心に広がる世界のはてしない広がりと奥深さを感じたのでした。たしかに、子どもは目には見えないものまで描くのです。

 そのような力が、人生の困難に直面したとき、それを乗り越えて、生き抜く力となるのではないかと思います。目に見えるものしか信じられない人は、人間を、つまり人生を半分しか見ていないような気がします。



《心を育み、楽しむ今月の絵本》

フィリッパ・ピアス作『トムは真夜中の庭で』

(高杉一郎訳/岩波書店)

トムは真夜中の庭で

 以前このコーナーでご紹介した『まよなかのパーティー』(猪熊葉子訳/冨山房)と同じ作者の代表作です。タイム・ファンタジーに属しますが、すでに現代の古典といわれるまでに評価されている名作。子どもからおとなまで楽しめる一冊です。
 表紙にも使われている線画の挿絵が美しく、この不思議な物語の世界に導いてくれます。(私は拡大コピーした一枚を額に入れて書斎に飾っています。)

 弟のピーターがはしかにかかったので、トムは感染を避けるために、叔父さん夫婦の家に預けられます。弟の病気が治るまでの間とはいえ、子どものいない叔父さんの家では、庭もなく、退屈したトムは、遊びたくてうずうずして過ごしています。

 そんなある夜、眠れずにベッドにいたトムは階下の大時計が13時を打つのを耳にします。おかしいと思って起きだしたトムは下りていって、裏木戸を開けてみます。昼間確かに駐車場だったはずのところに、月に照らされた庭園が広がっていました。



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