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7月
7月

〜子どもの想像力の深さと広がりを(3/3)〜

<今月の本>フィリッパ・ピアス作 『トムは真夜中の庭で』



☆永遠の庭園で過ごす時間☆

 その不思議な庭園で、トムはハティーという少女に出合います。しだいに、少女の過去が描きだされ、トムの物語の中で、同時に、みなし子だった少女ハリエット・メルバンの物語が背後に描かれていきます。
 毎夜のように、さまざまな季節の庭園で遊ぶようになったふたりは、時に庭園を出て、凍結した川をスケートで、大聖堂のある町まで滑っていったりもします。その帰り道で、トムはハティを見失います。やがて、ふたりの時間に終わりが訪れるのです。

 はたして、この少女はだれなのか?この魅力あふれる庭園とはいったい……?
 物語の最後に、トムは、叔父さんのアパートの最上階に住む家主のバーソロミュー老 夫人に呼ばれます。その時、「トムはまるで小さな女の子を抱きしめるように」……時 の隔たりを越えて結ばれた少年と少女の心が、物語を締めくくります。

 この物語のもうひとつの主役は「時間」だと、作者は語っています。
 「絵を描いている人を描いた、もう一枚の絵」という表現もしています。


☆長い物語を少しずつ読んでいく楽しみ☆

 30年前、この作品に出会った私は、自分の世界がひと回りも、ふた回りも大きく開かれたような実感を持ちました。毎回、少しずつ読み進めていくのも楽しみな一冊になります。読みでのある一冊の不思議な物語ですが、読んであげるなら、6、7歳からでも十分楽しめます。

 実際、私は学生時代に、家庭教師として週に2日行くたびに、小学校1年生と2年生の兄妹に、毎回少しずつ読んでやり、とうとう最後まで読み通しました。妹はもちろん、勉強にはあまり気乗りのしなかった腕白なお兄ちゃんも、この本を読むときは、眼を輝かせて聞きいってくれました。

 その後、結婚した私はわが家の長女と長男にも、やはり、その年齢の頃に読んでやりました。ふたりとも、息を殺して聴いており、なかなか寝つかなくて困ったほどです。
 彼らもすでに、40代と20代のおとなになっているわけです。歩む道はそれぞれですが、心のどこかに、あの時の興奮が残っていることを、私は密かに信じています。



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