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8月
8月

〜わが子に願いを持たないなんて!(2/5)〜

<今月の本>ミヒャエル・エンデ作 『オフェリアと影の一座』



◆父と息子 ―― この永遠のライバル?◆

 ところが、息子が高校生になって、夏休みが終わるころだったでしょうか、突然、彼は父親と口をきかなくなりました。父がリビングへ入ってくると、さーっと出ていく。父がリビングに居れば、入ってこない。そのうち、私ともあまり口をきかなくなりました。言うことといったら、「メシ」と「カネ」のふた言くらい。私はなんとなく、「下宿のオバサン」ふうなのです。

 異変に気づいた夫は、しきりと案じて、帰宅するやまっすぐ息子の部屋にいき、ドアを開けて顔をだし、
 「どうだ?」と、できるだけの努力をしてさりげなく言う。すると、息子は、
 「何が?」と、振り向きもせずに、にべもなく応える。夫はあわれにも、すごすごと、引き返してくるといった有り様でした。
 「ちょっと、話さないか?」と、さそってみれば、
 「別に用はないよ。そんなに話したけりゃ、夫婦二人ですれば?」
 といったしまつです。

 さすがの私も、息子がひとり自分の部屋にこもってじっとストーヴの火を見つめていたりすると、日増しに心配になり、先輩のお母さんたちに相談したりしてみました。まだ、〔ひきこもり〕などという奇妙なことばなど耳にしないころのことです。
 「父親は息子にとってはライバル。いつか乗り越えなきゃならない存在なのよ。だから、そういう時がくる。結局、信じて待つしかないの」
 なんて、言われても、私としては、どうにも腑に落ちないのです。

 果ては、息子に最初で最後の真面目な手紙を書いてみたり、担任の先生にも電話で息子の高校での様子を伺ったり、私なりにジタバタしておりました。
 「息子さんが急に暗くなったなんて信じられません。学校ではとても明るいですよ」
 という担任の先生のことばを聞いて、意外でしたが、少しほっともしました。でも。謎は深まるばかり。両親にだからこそ、自分の心をぶつけるのだろうか、とも考えました。


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