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9月
9月

〜わが家のアン・テリ物語(1/6)〜

<今月の本>
ガブリエル・バンサン作 『アンジュール』、フィリッパ・ピアス作 『まぼろしの小さい犬』




◆ともに生きた15年の歳月◆

 わが家の愛犬アンが天寿を全うして、眠るように息をひきとりました。なんとか、今年の猛暑をのりこえたものの、残暑の厳しさが、老体にはこたえたようです(体重20キロある雄の中型犬にとって、15歳は人間の80歳以上とのこと)。歩けなくなってから3日目のことでした。
 9月に入った日の早朝、夫に起こされて、私は階下のリビングに下りていきました。いつも寝ていたピアノの前に、アンは手足をピンと伸ばして、横たわっていました。
 「アンが死んだよ・・・・・・・」

 半分は予想していたものの、どこかでまだ、そんなバカな・・・・・・という思いがします。目を開き、舌を出していたので、瞼を閉じてやり、まだ美しいピンク色の舌を、最後までしっかりしていた歯並びの奥にしまいました。
 夜が明けるころ、オシッコとウンチが少し出てきました。なぜか、赤ちゃんのそれらのように、あまり汚いとは感じません。むしろ、これが、本当にアンの最後の排出物だと思うと、まぎれもなく、生きていた証であり、彼の体の一部のように思えるのでした。大切に、ていねいに拭き取ってやりました。
 ちょうど前日にシャンプーしたところでしたから、ふっさりとした毛並みは光って、いい匂いがしていましたが、もう一度、全身を拭いて清めてやりました。

 ピアノの上に、アンの遺影を飾ろうとして、アルバムをめくっていると、その写真のほとんどが、わが家の子どもたちといっしょに写っていました。すでに社会人の息子が10歳くらいのときに、友人の家に生まれたうちの一匹をもらってきた犬でしたから、ほとんど、子どもたちと共に大きくなり、彼らを追い越して、先に旅立ったわけです。
 「おれの青春をあいつが、一番よく知っているよ」
 仕事から帰ってきた息子が、少々苦笑いをしながらつぶやきました。


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