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9月
9月

〜わが家のアン・テリ物語(2/6)〜

<今月の本>
ガブリエル・バンサン作 『アンジュール』、フィリッパ・ピアス作 『まぼろしの小さい犬』




◆子どもの心を癒す動物たち◆

 一挙に、話は40年以上も前のことに遡ります。
 私の家には、常に犬がいました。兄弟姉妹がいないということもあり、犬は私にとって大切な存在でした。初代の犬はテリといって、もちろん雑種で茶色と白の中型犬でした。たしか鼻と手足の先が白く、耳は垂れていました。教頭先生の家に生まれたのを自転車の荷台に箱をくくり付けて貰いにいったのを覚えています。
 (もちろん、といったのは、アンもそうだったことと、当時の私の田舎では、血統書つきの子犬をペットショップで買うなんてことは想像もつかなかったからです)

 テリは賢い犬で、わが家の緑の下が寝床でしたが、朝、私が登校するときは決まってついてきて、近くの小川に掛かる土橋の上までくると、そこにきちんとオスワリをして、私が見えなくなるまで見送っています。私が下校して土橋の当たりまで帰ってくると、どこで見ているのか、必ず跳んでくるのでした。
 小児喘息だった私は小学2年生くらいまで、週に一度は発作を起こして休みました。両親は働いていましたから、祖母の目を盗んでは、テリを自分のふとんに入れて寝ていました。私が何かでひとり泣いていたりすると、テリはピタリとそばにすわって、涙をペロペロなめてくれたものです。

 そんなテリが子犬を産みました。子犬たちをかばって緑の下の寝床にいることが多くなりました。ある時、近所の人がやってきて、何気なく緑の下を覗いたとたん、テリはいきなり噛みついたのです。子犬を取られるとでも思ったのでしょう。
 「人さまを噛んだ犬を飼っておくわけにはいかん」。
 どんなにテリを弁護しても、頼んでも、父はガンとして決心を変えませんでした。
 次の日、子どもたちの間で、「犬を食うおじさん」と噂していた人がやってきたのです。父が頼んだのでした。白髪で、日に焼けた顔に大きな黒い目の光る人でした。

 私は泣きながら後を追って、大きな柿の木の下まで行きました。テリはそのおじさんに引かれて、振り返り、振り返り、遠ざかって行きました。おじさんも無言でした。
 一声もあげず、ただ振り返りながら、おとなしく引かれていったテリの悲しそうな目を思い出すと、今でも、テリはすべて分かって、覚悟していたように思われてなりません。


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