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10月
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〜白いハティと黒いハティ(2/6)〜

<今月の本>ルース・エインズワース作 『黒ねこのおきゃくさま』



◆夫婦喧嘩も仲裁したハティ◆

 両親は、ハティを室内で飼い、一匹のこれも白い猫と、二人と二匹の生活を14年おくることになります。雄猫の白が、放蕩三昧で耳など噛まれて朝帰りしてくると、ハティは優しく舐めてやっていました。なによりも不思議なのは、たまにしか帰郷しない私なのにちゃんと覚えていて、それは喜んでくれるのです。母の話では、父と母が夫婦喧嘩の口論をすると、必ずハティが一声吠えていさめたそうです。

 その後、母は私の父方の祖母を看取り、やがて、歯が抜け、歩けなくなったハティにおしめをして、とうとうその最後を看取りました(その間に私には二人の子どもが生まれていました)。
 そしてしばらくしたある日、両親の家、つまり私の実家が火事で全焼しました。古い木造家屋が燃え尽きるのは15分もかからなかったそうです。
 父と母がとにかく火傷ひとつ負わずに逃げだせた幸運を、私はどれほど感謝したかしれません。

 東京の狭い私たちの家に両親を引き取ったある日、母がぼそりといいました。
 「ハティを見送ってからで、ほんとによかった。お父さんと私では、ハティを連れては逃げられなかった。私は一生後悔することになったろう」
 (当時、父は80歳近い年齢で、脳血栓で入退院をくりかえしていました)。
 白いハティは、土に還って、わがなつかしの家の最後を看取ってくれたに違いありません。そして、東京にきて3年ほどして、父はハティのもとに旅立ちました。

 さて、この夏わが家の愛犬アンが亡くなって、彼を見送った私たち夫婦は、お骨になったアンをいまだにピアノの上に飾って、娘や友人たちから送られた花束の中のアンの遺影を眺めては、ため息をついてました。アンを失った生活は、やはり、何かが足りないのです。

 夫は、会社から帰宅するたびに、犬に関する本を買ってくるようになりました。
 図鑑的なものから、しつけ(犬育て!)に関するもの、飼い方のハウツウものから、人生論的エッセイ風のもの。私は横目で見ながら、やれやれ、と、半ば呆れ、「いくら子育てに失敗したからって、犬もいないのに、いまさら犬の飼い方なんて、ナンセンス!」


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