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10月
10月

〜白いハティと黒いハティ(6/6)〜

<今月の本>ルース・エインズワース作 『黒ねこのおきゃくさま』



 不思議なことに、夜のうちに降り積もった雪の上に、黒ねこの足跡はひとつも残ってないのでした。不思議はもっと続きますが、それは読んでのお楽しみ。
 黒ねこは二度と戻ってはきませんでしたが・・・。

 この手の、不思議な結末は、洋の東西を問わず、民話や昔話にはよくあります。
 しかし、この本の新鮮さ、美しさは、山内ふじえの絵と相まって、さすがというしかありません。エインズワースの描写力が、老人と猫の心理の流れを心地よいテンポで、的確に表現していくからです。

 いつのまにか、私たち読者は、黒ねこと毛布にくるまって眠るおじいさんといっしょに、身も心も、温まってすっかり心地よい気分になっていることに気づきます。
 まるで、パチパチと燃える暖かい火の音まで聞こえてくるようです。

 それにしても、人間はなぜ、動物に託して、何かを、あるいは真実を語ろうとするのでしょうか。
 古くはペローの『長靴をはいた猫』にせよ、猫ではないけれど、ライナー・チムニクの『熊とにんげん』(偕成社版、福武書店版、共に絶版。図書館で)でも、そしてわれらが宮沢賢治の『セロひきのゴーシュ』にせよ、動物たちの姿なくしては語られません。
 そうそう、『我輩は猫である』という偉そうなものもありましたね。

 前回も書きましたが、やはり、同じ哺乳類という仲間の、少し原始に近い生きものへの安心感、憧れ、なつかしさが、無意識のうちに、私たちの体のどこかによみがえるのでしょうか。
 ちょうど、小さな生きものたちと共に暮らしたくなる心理と通じるのかもしれません。
 思わず、彼らを撫でたくなるのと、似たような気持ちでしょうか。
 (夏目漱石さま、失礼いたしました)。


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