《心を癒す・今月の絵本と物語》
さて今月は、猫好きの人に敬意を払って、「猫」のお話を選んでみます。
ルース・エインズワース作『黒ねこのおきゃくさま』
(山内ふじ江絵、荒このみ訳/福音館書店)
おじいさんは一人暮らしです。
寒い冬だというのに、
「一週間にいちどだけ、土曜のばんは、おいしい肉のごちそうと、ねる前に、ミルクにひたしたパンを食べる日だ。ミルクにひたしたパンは、体をとってもあたたかくしてくれる。それで、ようくねむれるんだ」
というほど、おじいさんは貧しい。そんなおじいさんのところへ、嵐のような晩にびしょ濡れになった、みすぼらしい一匹の黒ねこが迷い込む。
やさしいおじいさんは、この猫をふいてやり、貴重なミルクばかりか、結局パンも、週に一度のごちそうのひつじの肉まで、全部猫にやってします。最後にせめてスープをとって飲もうとしていた骨まで、猫はずうずうしくも、平らげてしまう。
それどころか、貴重な最後の薪まで、おじいさんは、寒さに震える猫のために燃やしてしまうのです。
でも、おじいさんはすこしも後悔なんてしませんでした。おなかがぺこぺこでも、いえそれをすっかり忘れるほど、「なんて心地がいいんだろう。なんてしずかな気持ちだろう。なんて心がいっぱいなんだろう。」と思うのです。
そして一夜明けると、嵐は止み、黒ねこは輝く朝日の中へ出ていきました。まるで、夕べとは見違えるほど毛もつやつやとして、女王さまのようにどうどうと。
目を見張っているおじいさんに、黒ねこは美しい宝石のような緑色の目で振り返りたずねます(このとき、初めて猫は口をききます)。
「・・・どうしてわたしをおいだして、とびらをしめてしまわなかったのですか?」と。
おじいさんは、驚きもせずいうのです。
「おまえとわしは、知らないものどうしだったけど、今じゃあ、ほら、友だちじゃないか」と。
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