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11月
11月

〜子どもを見つめる眼差し(5/6)〜

<今月の本>エーリヒ・ケストナー作 『小さな男の子の旅』



 結末の、残酷ともいえる現実に直面しても、フリッツをとりまくおとなたちのやさしいまなざしのために、読者は癒されるのです。
 そこまでにいたる旅の様子を、ケストナーは、徹底して客観的な描写を積み重ねることで描いていきます。余計な、そして冗長な説明などは一行もありません。それが却って、おとなたちのまなざしのやさしさ、深さを感じさせるのです。
 その徹底した描写の筆は、母親の症状もあますところなく描き出し、容赦しません。

 「訳者あとがき」にもありますが、ケストナーは、「甘いケーキのような子どもの本は書きたくない」とくり返し主張しています。また、『飛ぶ教室』の前書きでは、「子どもの涙が大人のより小さいということはないし、ずっと重いことだってある」と書いています。また、「作家は子どものころを忘れるな」ということも、しばしば述べています。

 もう一篇の「おかあさんがふたり」は母親を亡くした少女が新しい母親になじめずに、人形を相手に自分の世界を守ろうとします。しかし、まわりのおとなたちにあたたかく見守られて、やがて、新しい母のさびしさや悲しみを知り、理解しあえるようになるまでを描いています。

 この2篇はいずれも、新聞に掲載されており、ケストナーの初期(1926年、1927年)の作品ですが、そのコントロールのきいた描写力の的確さ、登場人物を描き分ける巧みさは、見事というほかはありません。


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