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11月
11月

〜子どもを見つめる眼差し(4/6)〜

<今月の本>エーリヒ・ケストナー作 『小さな男の子の旅』



「小さな男の子の旅」
 フリッツはおとうさんにはないしょで、学校を休み、電車に乗りました。入院しているおかあさんの手術の費用をおとうさんから郵便で送るようにたのまれたのですが、直接おかあさんの入院する病院まで、持っていこうと決めたのです。もちろん、一目、おかあさんに会いたいからです。

 道中を案じて配慮してくれる駅長さんや、おみまいにりんどうを買った花屋のおばさん、電車に乗り合わせた若い男の人などにおかあさんとの思い出を話したり、太った女の人にチョコレートを勧められたり、車掌さんに注意されたりしながら、フリッツはちょっとした旅を続けます。

 病院につくと、看護婦さんも先生もとてもやさしく迎えてくれます。フリッツが入院費用の一部を来るときの電車賃とおみまいのお花代に使ったことを正直に話しますと、看護婦さんは、コーヒーとケーキをふるまってくれたうえ、帰りの電車賃も出してくれます。
 しかし、お母さんは・・・眠っていました。

 ――まぶたは、まるで皮膚ではないように黒ずんで光っています。こめかみは落ちくぼみ、青白いひたいにはむらさきの血管がいくすじもうき出ています。開いた口もとからもれる息はせわしく、苦しそうです。まぶたは閉じているのに、その奥のつらく、不安な目が見てとれるようでした。――

 フリッツは、「ねむっている顔に力なくほほえみかけると、かけぶとんの上にそっとりんどうをおいて、なでるように手を空中で動かしました。」そして、病室を出ると待合室のドアを閉めてこもります。中からもれてくるすすり泣きを聞きながら、看護婦さんと先生が話します。
 「もう少しここにいさせてあげよう。母親はおそろしく心臓が弱っている。ひょっとしたら・・・」


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