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2月
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〜子どもの自立、その旅立ち(5/6)〜

<今月の本>ルース・エインズワース作 『ふゆのものがたり』



 こんな時、子どもは父親の説得も母親のなぐさめも必要としません。ただ、理解してもらいたい。わかってもらいたい、信じてもらいたいのです。結局、ダークは、自分で考えて、ひとりで確かめようとします。でもそれが思うようにはいかないために、彼は落ちつかず、心も晴れず、イライラします。そのときの気持を

 ――じぶんがつよくて、ものがわかっていることをしめしたかったのです。夢と現実のことをとりちがえるような、そんなおばかさんの、小さなこどもじゃないっていうことを、わかってもらいたかったのです。――

 そして、とうとうダークは自分で、その奇妙な物音の正体を突き止めます。森の入口にある池のまわりの、カバの木の林で出会うのです。その友だちは、「父さんや母さんだって、しらないことがあるんだよ」といいます。この友だちがだれなのかは、本を読んでのお楽しみにいたしましょう。すでに、おわかりの方もいらっしゃるでしょうが。

◆「行きて帰りし物語」のスプリング・ボード◆

 ダークは、友だちと遠くの山の洞窟で暮らすことになりますが、そんなにも遥かな旅立ちがなぜ必要だったのでしょう。
 少し詳しく引用を交えてご紹介したのは、実はこの前半には、異次元の世界へ「行きて帰りし物語」のスプリング・ボード(助走板)として、そこへいたる子どもの心理が見事に描かれていると思うからです。そして、それをどうすることもできない親の事情も、淡々とですが実にリアルに描写されています。

 物語のスタイルは一見、昔話風ですが、そこで語られている「ことば」は、なんと現代的で、ほとんどいまを生きる子どもの内面のつぶやきのようです。そして、生活の外見は少し昔の北国の村の暮らしのようでありながら、誠実にこつこつと生きる両親の姿には、現代の親の生きる姿が重なります。それは恐らく、いつの時代にも変わらぬ基本的な親の姿であり、心情ではないでしょうか。


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