子ども学研究会(2002年6月11日) 安藤寿康(慶應義塾大学教授) レクチャー 「子ども学は、行動遺伝学を救えるか?」 |
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(スライド1)まず、基本なのですが、人間は遺伝子の産物ですよ、ということで染色体からDNA、DNAがアミノ酸の配列を作ってたんぱく質が出来上がり、それが様々な組織をつくって人間ができる、つまり遺伝子というのはそういうすべてのもととなっているのですよ、という話をします。遺伝子というのはすごく多様なものを生み出すものです。 ちなみに、地球上にこれまであるいはこれから先、いる人間の数というのを概算してみると、たとえば200万年たったとすると、一世代20年として10万世代、10の5乗で、すごく過剰に見積もって一世代に100億人いたと鑑定して、おそらく最大年でも、10の15乗ぐらいの人がおそらく地球上に存在しうる数である、と。それに対して、親、人間の遺伝子が生み出す可能性はどうかということをちょっと概算してみると、 たとえば3万個くらいあるとして、何%の遺伝子に多型(何種類もの遺伝子のタイプがあるもの、これが個人差のもととなる)があるかわかりません。ひとりひとり違いがある遺伝子の数はまだよくわかっていないと思うのですけれども、仮に5%だと見積もってみましょう。多すぎるのかもしれないし少なすぎるのかもしれません。違いがあった場合というのは、最低でも3種類(aa,Aa,AA)の遺伝子があったとすると、3の1500倍というのは10のだいたい700乗ということで、それだけの組み合わせが出てくる。人間というのは存在するのがたったの10の15乗しかないのに、遺伝子の多様性というのはこれだけ桁違いに大きいということから、あなたと同じ遺伝子を持つ人は古今東西、絶対に誰もいないぐらい多様なものなんですよ、ということをまず言います。そして、今その遺伝子がすべて解明されようとしている時代で、これはもう歴史上の大きな変わり目で、キリストが生まれたのと同じぐらい大切なことです。キリストの誕生する前の、BC、AD、Before Christ / Anno Dominiというのと同じように、Before Chromosome / Anno DNAというぐらい、歴史を二分する境目に私達は生きているんだぞ、というような話をします。 しかし、遺伝がいくら大事だといっても、本当に、体とか病気とかが遺伝の影響を受けているというのは、それは認めるかもしれないけれども人間の心とか行動というのはやっぱり遺伝とは別なんじゃないの、と思う人は多分多いと思います。ローマ法王は、進化論を認めて人間も進化の産物だと言った。ところがその彼ですら、人間の精神だけは進化論とは別である、という留保をつけているということがあります。このように、心というのはやはり最後の砦、と思われていると思うので、論より証拠、人間の心というのがこんなに遺伝の影響を受けているんだということを目で見ていただこうと思います。これからビデオを見ていただきたいのですが、一卵性の双子を別々に三泊四日間のキャンプをさせて、そこにずっとビデオカメラに入ってもらい、その類似した行動というのをつなぎあわせたものです。 (〜ビデオの放映〜) 基本的なその子らしさというのは基本的に非常に良く似ている。で、これがまた当然一緒に育ったからそうなるでしょ、ということをおっしゃる方もいるかもしれません。一緒に育ったことが原因なのか、それが遺伝なのかということを確かに弁別することはできないのですけれども、実はここでは一卵性しかやらなかったのですが、その後、別のテレビ番組を作ったときに、大人の一卵性と二卵性で合コンをやったところ、一卵性のペアというのはだいたい同じような雰囲気が進行するのだけれども、二卵性というのは全然雰囲気が違っちゃうというビデオもあります。基本的には、一卵性がすごく良く似た行動を示すというところに、行動とかそこでの心の動かし方みたいなものが遺伝の影響を受けている可能性が非常に強く示唆されているといえます。 ただこれを科学的にいうためには、それだけでは不十分で、基本的には一卵性双生児と二卵性双生児を比較します。一卵性双生児というのは、このように受精卵はひとつだったものが二つに分かれたものですから、遺伝的には全く同じであるのに対して、二卵性双生児というのはもともと違った受精卵から出発しているので、同時に生まれた普通のきょうだいと同じだという話をします。いわゆる双生児法、Twin Methodというのは、この一卵性と二卵性の類似性を、統計的に比較してやる。で、今言いましたように、一卵性は遺伝子を100%共有しているけど二卵性は50%だけを共有している。つまり、遺伝的には類似度が2:1という大きな違いがあるのだけれども、環境というのは確かに一卵性のほうが周りから間違えられやすいとか、同じ服を着させられやすいというようなことが、ないわけではないのですが、たとえばより類似した環境に置かれているからそれだけ強くパーソナリティとかIQとかが似ているかというと、あまり似ていないのですね。 それほど、環境の類似性だけではとても説明できないぐらい、一卵性は二卵性よりもよく似ています(←論理的に?いえ、実際に。心理検査や観察の結果から)。そして環境の影響力というのは一卵性と二卵性というのはそれほど異ならないということが色々なデータから示されています。これは等環境仮説といいます。遺伝というのはこんなに違うけれども環境はほぼ同じで、一卵性と二卵性の類似性を比較してみたときに、一卵性がすごく二卵性よりも類似しているとすれば、そこには遺伝の影響があるということがいえるでしょう。 |
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