子ども学研究会(2002年6月11日) 安藤寿康(慶應義塾大学教授) レクチャー 「子ども学は、行動遺伝学を救えるか?」 |
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(3/6ページ) (スライド2・スライド3) これが基本的なロジックで、まあおそらく多くの人が認める、からだつき、たとえば身長とか体重とか指紋の数とか、あるいは病気ですね、胃潰瘍とか癲癇、リューマチ、高血圧、乳癌。こういったもので遺伝の影響が本当にあるかどうかというのは一卵性と二卵性の類似性、これは一致率とか相関係数を使っていますけれども、完全に一致していれば1、全く似ていなければ0という風になるような数字で、まず一卵性の類似性を示すとこう、二卵性を示すと、ご覧のように、大小の違いは色々ありますけれども、多くの場合、二卵性は一卵性よりもはるかに類似性が低いということから、こういったものには遺伝の影響があります。だけど、たとえば高血圧とか乳癌のような、一見すごく遺伝で決まっているように思われるものというのはむしろ、実はそれほどではない、ということもあります。 これと同じ基準で、今度は知能とかパーソナリティ、あるいは精神病理にあたるようなものというのを見てみると、やはりものによって違いますけれども、基本的に一卵性は二卵性を上回った類似性を示している。ということで、こういったケースにも遺伝の影響というのがあるということがわかる。要するに、体も心も、基本的には遺伝子の産物なのだから、まあ多かれ少なかれ同じように遺伝の影響を受けているというのは、これは当たり前のことであるよ、という話をします。 そうするとみんなはイヤーな気持ちになりかねない。遺伝といわれると、「そうすると、宿命か…」と思う。この遺伝とは宿命だ、という素朴遺伝観(専門家ではないふつうの人が抱く遺伝観のこと)というのをこれからくつがえしていきますよ、という話をします。 この素朴遺伝観というのは、まず言われるのは、「この親にしてこの子あり」という、親から子に形質が伝達するという伝達観、それから、生まれつきだともう一生変わらないという固定観、あとこれとも関連していますけれども、環境をどう変えようともそれは変わらないという「非可変観」、といったものがおそらく素朴遺伝観をつくっている。そこから、「もう遺伝じゃあしょうがない」という宿命的な悲観論というのも生まれてきますが、これをくつがえす鍵になるのが、「遺伝子」と「遺伝子が沢山集まった、複数の遺伝子」の影響力。僕達がよく遺伝、遺伝といって、遺伝で決まっている、たとえば血液型のように遺伝で決まっているなんていうようなものは、多くの場合は一つの遺伝で決まるもので、確かにいくつかの病気には原因遺伝子と呼べるようなものが見つかっていて、悪い遺伝子を一つもつとその病気になってしまうことがありますが、しかしここで問題にするような、心に関わるようなもの、あるいは実は病気というのもそのほとんどは、沢山の遺伝子の複合的な要因なんです。そういった場合、どういう遺伝の仕組みになっているかというのを、ちょっと簡単に説明しましょう。 (スライド4) この沢山の遺伝子というのを、お父さんとお母さんのお財布の中からコインが子どもに半分ずつ伝わる、というそういうモデルで考えてみましょう。いま遺伝子のモデルをなぞらえて、左右にペアになっているのが対立遺伝子。で、そのどちらか一方がランダムに子どもに伝わりますよ、というそういうメカニズムを考えてみましょう、と。で、いまお母さんの遺伝的素質が692円、お父さんの遺伝的素質が175円、このように、どこにいくらあるに関わらず、とにかく全体の合計が遺伝的な効果と考えるのを、相加的遺伝的効果といいます。このうち、運悪く、父親からそれぞれのペアの低い金額ばっかりが子どもに行っちゃった、お母さんからも低い金額、ちっちゃいほうの金額のコインだけが行っちゃったとすると、たったの98円、両親のいずれよりも低い値。逆に、両方のうちのいい方、高いほうの金額だけ行くと2320円という風に、両親のどちらよりも高い金額になって、基本的にはこの親からは、下は98から上は2320円までの、あらゆるその途中の値を色々とりうるという、要するに一組の親からも多様な遺伝的な素質を持った子が生まれるので、親がああだから子がああなったとか、親の性格が明るくて性格が遺伝だと明るい親からは明るい子が、暗い親からは暗い子が生まれるというふうなイメージを持つかもしれないけれど、そうではなくて実際にはシャッフルされるのですよ、みたいな話をします。 (スライド5) ところがそれだけではない、と。今のは全体の合計で、足し算で効いてくるようなものですけれども、足し算で効かないような遺伝もありますよ、ということで、顔の美しさが子どもにどう遺伝するかということでちょっと例えてみます。上の美女美男のカップルが親だとします。で、例えば目は母親から、鼻は父親からなどという形で、パーツ、パーツは親から子へ伝わるんだけど、その組み合わせが変わるとすると、この美男、美女の親からどんな子が生まれるかというと、例えばこんな感じになって、こういう風にイメージが変わってくる。それでもパーツパーツというのは同じであって、こういう遺伝形式というのは、足し算、美しいものが寄ればより美しくなるというのではなくて、組み合わせがどうかという、そのコンビネーションの問題であって、こういうのは足し算的に効いてくるものではなくて、こういうのを非相加的な遺伝という。 こういう風な形式の遺伝様式だと、一卵性双生児というのは全部のセットが同じだから、結構そこそこ類似しますけれども、二卵性とか親子というと組み合わせそのものが変わってくるので、同じ親子、あるいは同じ血を分けた兄弟といえども、類似性というのは、一卵性から予測されるよりもはるかに低い類似性しか示さないということで、実証性に効果があるかないかということも示すことができて、たとえばパーソナリティ、外向性とか内向性、神経質さみたいなものとか、あるいは脳波のパターンとか、色々なところ、とりわけ人間の心理的な形質の中には、いろいろなところでこの非相加的遺伝効果が結構あるんじゃないかと思われる、というような話をしました。 |
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