子ども学研究会(2002年6月11日) 安藤寿康(慶應義塾大学教授) レクチャー 「子ども学は、行動遺伝学を救えるか?」 |
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(4/6ページ) ということで、一つ目の確認。遺伝だからといって、あなたに似るとは限らないのですよ、遺伝というといつも親がああだから子がああだ、という話になるけれども、そういう風に、蛙の子は蛙、という現象も説明しますが、トンビが鷹を産むという現象もする。むしろ遺伝というとすぐ、親子の類似性しか言わないようなことしか指さないことを考えるとむしろ、逆に考えた方がいい。遺伝というのはむしろ、親子を似なくさせるような要因になっている。基本的に有性生殖というのは、遺伝子をシャッフルさせて、親とは違った遺伝子型を作ってくるためのメカニズムですから、遺伝というのはむしろ違った遺伝的な素質を生むためのメカニズムなんだ、と考えた方がいいのです。それは心の側面にも言える。遺伝というのは親がこうだから子がああだ、という素朴遺伝観というのをちょっと考え直してください、という話ですね。 (スライド6) 二番目に、遺伝だと一生変わらない、という、そういう誤解を払拭しようということで、昔「知能は遺伝だ」、という風に信じられていた時代の遺伝観というのは図で表すと、生まれたとき高かった人というのは死ぬまで高い、最初低い人は一生低いという、救いのない、まさに運命というようなイメージをするような、こういうモデルになりますけれども、本当にこうかどうかというのは、一人の人の発達曲線を取ってみると、本当に一貫しているかどうかということを確かめることができます。今ここで、一卵性の子と二卵性の子の発達曲線を描きました。このように、二人の子を見ても発達曲線はかなりでこぼこしている。場合によっては30点とか40点とか変わるということがあります。 そういう意味では一生、同じということはない。ところが面白いのは、一卵性のその類似性の曲線というのが非常にシンクロしているのに対して、二卵性というのは、ある程度は似ていますけれど、一卵性ほど同じような形はしていないパターンを示すことが多い。 これはどうしてそうなるかというと、いろいろな可能性が考えられますが、一つは、一種の時間的遺伝子みたいなものがあって、ある発達的な水準に達すると発達が加速されたり、あるいは停滞したりさせるような、そういう時間的に効いてくるような、スイッチがオンになったりオフになったりするような感じの遺伝子みたいなものがきっと、脳や精神の発達に関わってきている可能性を示す。別にそういう遺伝子が見つかったわけではないですが、一つの可能性としてそういうものがあって、遺伝というのは決して生まれたばかりのときに出来てしまって変わらないものではない。というのは、例えばある年齢に達すると声変わりするとか、ある年齢に達すると出てくる病気があるということからもわかると思いますが、それは精神的な発達にもそういうことがあるわけで、これは、人間の顔がどう発達していくかというのを考えてみるとおわかりいただけるのではないか。 一卵性の子どもの、これは12、3歳のときの顔。これが結婚をして、40歳ぐらいになったときの顔。子どもの頃とは違いますけれども、二人はある程度似ています。で、これが100歳を超えるとこういう風になりますよ、という話をして、顔の形そのものというのは一人の人の中では結構変わりますけれども、その変わり方っていうのが遺伝的なプログラムによっている、と考えられる。遺伝だからといって一生変わらないというわけではないのですよ、という話で、三つ子の魂百までといいますけれども、そうじゃない場合もあるのですよ、ということです。 じゃあ、遺伝の影響は変わるとすると、生まれたばかりのとき、それから成長して大きくなったとき、とで、どっちが遺伝の影響がより強いと思いますか、という質問をします。ちょっとこれは、聞いてみましょうね。遺伝の影響というのは生まれたばかりのときの方が一番強くて、成長とともにだんだん遺伝の影響というのがちっちゃくなるか、それともその逆、生まれたときはそうでもないのだけれども、成長とともに大きくなるか、どっちだと思いますか?生まれたばかりのときが遺伝の影響が一番大きいと思う方ちょっと手を挙げてくれますか?はい、結構多いですけれど、これも実証的に確かめることが、双子の研究でできます。つまり、発達の段階に応じて一卵性と二卵性の類似性というのがどう変わったか。で、一卵性と二卵性の差が大きければ大きいほど遺伝の影響が強いということになりますから、その類似性の発達的な変化というのを見ればよい。 (スライド7・スライド8) 一卵性のプロットというとこういう風になって、発達とともにまあ増加傾向にあるのに対して、二卵性というのはあるところから下がっていきます。このように、生まれたばっかりのときというのは遺伝の影響はほとんどないのですけれども、成長とともに発達して、遺伝の影響というのは強くなってくる。これは15歳までのやつですけれども、別のもっと大きなサンプルを使った研究では、二十歳ぐらいまでというのはそれほどでもないのですけれども、成人するとがくっとその差が大きくなるということが示されています。 (スライド9) この類似性のデータから、遺伝の影響、それから家庭環境で育った影響、それから一緒に育って、環境が同じだったから似てくるという、それを「共有環境」というのですが、その共有環境の影響と、「非共有環境」といって同じ家庭に育っても一人一人に違った家庭環境の影響の大きさが別々に分離するということが出てきます。近頃はどうしてそれができるかというモデルを説明したりするのですが、ここではちょっと結果だけをお示ししますけれども、遺伝の影響というのは成長するときにわーっと増える。それに対して家庭環境の影響というのは、二十歳くらいまではまあ中程度あるのですけれども、成人するとまったく0になる。で、一人一人に固有な環境要因というのが、まあ一貫して0.2ぐらいの大きさになってくる。二十歳くらいまでは共有環境、家庭環境、一緒に育った環境の影響というのはあるけれども大きくなるとなくなっちゃうのはなぜか。二十歳ぐらいまでは、そもそも双子って、双子に限らずですけれども、割とまあ親元に居たりして、とりわけ双子は一緒に生活している。そういうときにはその影響力というのはあるのですが、成人しておそらく別々になってしまうと、その影響力というのがなくなってしまうということを、おそらく意味するのではないかと考えられる。 |
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