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第1回CRN子ども学シンポジウム
「中高生のデジタルな友達づくり」

基調報告

−−それでは早速、シンポジウムを進めてまいりたいと思います。第1回CRN子ども学シンポジウムのテーマは「中高生のデジタルな友達づくり−メディアは子どもたちの心をつなげるか」です。
 初めに慶應義塾大学大学院政策メディア研究科石井研究室の河村智洋さんより、実際に今の中高生を取材しての基調報告をしていただきたいと思います。

●中高生に浸透したプリクラとポケベル
河村:  今回は「中高生のデジタルな友達づくり」ということで、プリクラやポケベル、携帯電話、PHSを使う新しいコミュニケーションについて報告したいと思います。
 では最初に、今回の報告をビデオにしてきましたので、それをごらんください。

ビデオサマリーページへ(インタビューの声もリアルオーディオで聞けます)

〔ナレーション〕  今、女子中高生を中心に、プリクラが盛んに行われています。プリント倶楽部の発売は95年末。この1年で全国におよそ1万台が普及しました。1日に100 万枚撮られるというプリクラ−−この新しいメディアを子どもたちはどのように活用しているのでしょうか。
 プリント倶楽部は、顔写真を証明写真のようにその場で撮り、16枚のシールになって出てくるというものです。フレームと呼ばれる模様が選べたり、隠しフレームと呼ばれる裏技もあります。「キョロちゃん」などの人気フレームは、休みの日には3時間待ちというところもあります。
 1回300 円、1枚の平均所要時間、およそ4分。最近では、名刺やスタンプをつくれるものも登場しています。当初、プリクラはゲームセンターの中に置かれていましたが、今では町のあちこちで見かけるようになりました。駅の構内にもプリクラが置かれています。
〔中高生に    
  インタビュー〕
Q これ、何枚ぐらいある?
A 1100ちょっとぐらい。
Q この1年で?
A はい。
Q これはプリクラ専用の手帳なの?
A いや、スケジュールもあるんですけれど。
Q よく撮る? 自分で。
A はい。
Q これはみんな友達と交換してるわけ?
A 友達じゃなくても。
Q 友達じゃなくても交換する? 知らない人とか?
A 友達の友達とか。
〔ナレーション〕  手帳に無数に貼られるプリクラシール。このシールやポケベル、携帯電話、PHSを使って中高生たちはどんな友達づくりをしているのでしょうか。
 今回、その実態を調査するために、アンケート調査やグループインタビューが行われました。
〔中高生に    
  インタビュー〕
Q プリクラ、何枚ぐらい持ってる?
A 180 ぐらい。
A 私、100 ちょっと。
A 私、270 ある。妹なんか、600 ぐらい持ってるよ。
Q 家にもまだある?
A あと20枚ぐらいしかないんですけど。
Q あんまり持つと見られなくなるもんね。
A そう。重いし。
A かばんの中で何が一番重いかっていうと、手帳が重い。
A でも、持ち歩かないと……。
A プリクラは、あったら撮るって感じよね。近頃はその辺とかに結構あるしね。
A かわいいプリクラがあったら、それを撮るために行くけど、じゃなきゃ、普通に出かけたときに、あったら撮る。
A はやりというよりも、写真のちょっと違うバージョンみたいな感じ。だから、やっぱり記念として、初めて会った人とか新しく友達になった人と撮ったりする。「あ、このころは……」っていう思い出話もできるし……。
Q ベル持ってる?
A 持ってる。
A 1週間前から。
A うちの学校は持ってる子がほとんどだよね。
A ほとんど持ってる?
A 持ってない人の方が少ないよ。
A うそー。うちは全然いないよね。
A ほとんどいない。
A 男子が結構持ってる。
A 女子で11人いる。
A じゃあ半分ぐらいか。
A うちのクラスは、女子は四、五人ぐらいだよね。
A 少ないね。
A ポケベルは、あんまり知らない人でも、そういえば入れてみようかなって気になるけど、ピッチ(PHS)はしゃべんなきゃいけないからね。
A しゃべるのは、ちょっと怖いよね。
A ピッチは知らない人だとかけにくいよね。ポケベルだったらやるけどね。
Q ピッチとかは、ふだん学校で会ってる子とか?
A それもあるけど、大体、ほかの学校の子とかベル友とかと話したりするときに、ベルとかが通じなかったりすると、全然連絡とれないから、そういうときはピッチでやる。
A ベルの方が多い。でも、長い文章とかを入れるときは、もう電話した方が早いよね。それに、入れて通じないときは−−込んじゃうしね。夜とか、9時過ぎとはすごい込んじゃって……。
A ずうっと連続して入れてると、プー、プーとかなっちゃう。
A 途中でベルが終わるから、ピッチとか携帯とか、そっちの方が全然楽。
Q じゃあ、両方を使い分けるのかしら。
A ピッチがつながらないときはベルに入れて、今、ピッチがつながらないからテルしてとか、そういうのを入れる。
A 朝起きたら、まずベルを見る。
Q じゃあ、ベルに始まってベルに終わる?
A 終わる。「オハヨウ」から「オヤスミナサイ」まで。
A 中学校のときの友達とかから入ってくると、「あ、私の存在忘れてないんだな」と。入ってこないと、「あ、この人、私のことを忘れているんだな」とか、そういうのを思う。
Q 毎日鳴らないとさびしい?
A さびしいですね。毎日−−少なくても「何でみんな入れてくれないの」とか、こっちからがーっと入れると、返ってくる。
Q 朝起きた途端に入れちゃう? 「オハヨウ」とかって。
A もう、ふとんの中からだって「オハヨウ」とかって。たいがい間違う。だけど入れると、朝から返ってくる。
A ベルが入らないと−−友達がベル入れても、私からの返事がないから、怒っているんですかって。「ずうっと圏外にいたんだよ」とか、「あ、そう」って。ちょっと友達との間で亀裂が入っちゃう、返事が返ってこなかったりすると。
Q じゃあ、もしポケベルとかが今なくなると、すごく困る?
A すごく困る。生きていけないよね。困るよね。
A 泣くほど、困る。いやあ、どうしようって。
〔ナレーション〕  プリクラ、携帯電話、PHSという新しいメディアを使ったコミュニケーションは、新たな広がりも見せ始めています。プリクラを使った掲示板、子どもたちはさまざまなメッセージを発信しています。個人情報誌にもプリクラの顔写真が並んでいます。友達を探したり、ベル友を・蜿Wする子どもたちもいます。


●とまどう教育現場
〔高校の先生に   
 インタビュー〕
 このような現状を学校の先生はどう見ているのでしょうか。
Q 学校ではプリクラは……
A やってますよ。
Q その規制はあんまりしていないんですか。先生とかは……。
A してないですよ、そんな。先生はもらうだけですね。余ったからって、その程度ですよ。まず、朝来て配っているよね。きのう撮ったからって。「あるの? ちょうだい」って。それが悪いことなのか、いいことなのか、私もはっきり言ってわからないんです。一時期、初期のころ、ベル持ってる子は、ちょっと不良系の子でしたよね。で、犯罪絡みがありましたけど、今は普通の子が持ってる。親が持たせるという時代になっちゃって、市民権を得ちゃってますからねえ、どうなんでしょうかね。
A ありますよね。直接それが原因かどうかわからないんですけれども、ポケベルを持つようになってきてから、あるいはプリクラが主流になってきてからは、クラブに入る生徒が少なくなってきていると思います。それが直接の原因ではないかもしれないですけれども。ただ、放課後なんか、みんな見てますからね。どこどこに行くのかなとか。私だけかもしれないんですけれど。
A 生徒なんかを見てても、結構、引っ込み思案とか、人間関係をストレートにうまくできない子が結構多いんじゃないかなあと。
Q そういう印象を受けられますか。逆にいえば人間関係がうまく……
A できないんじゃないかと思う。
Q 以前だと割と簡単にできたことも、二の足を踏んでしまうとか。
A そうですね。ですから逆に私は、電話とかポケベルの方に行ってしまうのかなと。そういう逆の考え方も私はあるんですね。
A おっしゃるとおりで、今の子がそういうのをどういうふうに使っていくのか見守りたいという感じですね。そういう感情の起伏というのか−−本当にポケベルにしても直線ですよね、デジタルですしね。だから、そういうアナログのこういう振幅をどうやってこれからの子は伝えていくのか、感じるのかというのは、単純に興味で見るようになってしまうんじゃないかと、僕、個人的には……。
A 私はまだ結論を出せないんですね。まだどういう方向に向かっていくのかも−−まあ、一つの方向に収束していくと思うんですけど、まだ、どういう方向へ収束していくのか、よくわからないですよね。だから、まだ、いいとも悪いとも結論を出せないんです。まあ、若干不安な目で見てることは確かですね。
A 同じですね。ただ、使い方によっては、本当によくも使えるし悪くも使える。ですから、我々の扱いもすごく難しい。悪く使っているのは、ほんの一握りなんでしょうけども、その一握りが大きくクローズアップされ過ぎていますから、逆に問題なんでしょうけども。それでも・烽オかしたら必要なのかもしれないですよね、今の子どもたちには。
A それともう一つ、学校の中にいて、そんなに外の世界の人たちとコミュニケーションを広げる必要が本当にあるのかどうか。特にポケベルとかね。私はその辺がちょっと疑問なんです。
A そこは本当に難しいですよね。
A 難しいよね。
 今回、中高生に友達の数を聞いてみたところ、20%が101 人以上と答えました。中高生を中心とした新しい友達づくりはこれからどうなっていくのでしょう。
〔中高生の声〕 A ピッチとかベルとかがあるから、100 人以上と保ててるというか。そうじゃなかったら、手紙とかを書いたら……
A もう時間がないし。〔ビデオが終了〕
河村:  このように、子どもたちの間のコミュニケーションというのは、私たちが経験してきたものとは随分変わってきていると感じます。特に100 人以上の友達をコンスタントに持っているという感覚は、そう簡単には理解できないものがあるのではないでしょうか。
 今回、子どもたちに、このビデオに出てきたようなアンケートをとったわけですが、それと同じようなアンケートをCRNのインターネット・ゴングの方でもとってみました。その結果をスクリーンでごらんください。


●誰でもすぐにベル友になれる
河村:  これがチャイルド・リサーチ・ネットのホームページです。この中のフォーラムというところでアンケート調査を行っています。今回、第1回CRN子ども学シンポジウム準備フォーラムというものを作り、その中でもアンケートを実施しました。
 今のところ、最終投票が3月8日の11時11分に入っています。有効投票数は45票。その結果がリアルタイムで出ていますので、ごらんください。
 まずポケベルと携帯電話、PHSに関して、あなたの考えに近いものをお答えくださいという質問なんですが、この6%程の短い部分は、ポケベルだけがあればいいという人です。しかし子どもたち、特に高校生に聞くと、ポケベルの値はもっと高くなり、高校生がポケベルをかなり使っていることがわかります。
 またプリクラに関する質問では、知らないと答えた人は1人もいませんでした。これは子どもたちと同じです。皆さん、かなりプリクラを知っていて、実際に撮っているということが、これでわかります。何回ぐらい撮りましたかという質問では10枚ぐらい撮ったという人がほとん・ヌを占めています。シールを何枚ぐらいお持ちですかという質問では、やはり子どもたちとは全然違っていまして、ほとんどの方が10枚ぐらい、10枚以内を持っているということが、同じようにグラフで表されています。
 次に、携帯電話やポケベル、プリクラがこれからも発展していくでしょうかという質問に関しては、75%もの人が“発展していく”、23%が“発展するかどうかわからない”。“衰退するだろう”という人はわずか2%となっています。これについては子どもたちと同じような結果が出ていて驚きました。意外とそういうことに関する意識は同じなんだなと思います。
 また、友人と呼べる人は何人くらいいますかという質問ですが、ここでは大人と子どもたちとは全然違っています。4人から10人、このあたりを中心に、大体30人以内というのが、今大人が持っている友達感覚のようです。
 このように見ていきましても、子どもたちが持っている100 人以上の友達という感覚には、非常に理解しにくいものがあります。また今回は、「友達」というように、表現自体があいまいな質問をしていますので、どのような友達を想像しているかというのも少しわからない部分が・・るかと思います。しかし彼らはベルやピッチなど、新しいメディアが出てきたからこそ、こういう友達づくりができると言っています。 実は私自身も、今回の取材で新たな経験をしました。先ほどのビデオにも出てきましたが、グループインタビューを終えると、彼らの間では初対面でも当たり前のようにプリクラの交換が行われるんですね。それと一緒に、ポケベルを持っている人は、ベル番の交換も、もちろんします。彼らはちゃんとそういう名刺を持っているわけです。私もちょうどポケベルとプリクラを持っていましたので、一緒に交換したところ、もうすぐに私のポケベルの方にいろんなメッセージが入ってきました。そのメッセージの一部を抜き出してみましたので、ごらんください。
 もう終わるなり、いきなり「チョー タノシカッタ」と入ってきます。私が「ベルハイイネ」と送ると、「ベル ナクナッタラ イキテイケナイ」とか、「コレカラケーキツクル」とか、「イマヤキハジメタトコロダヨーン」とか、入ってきます。そういう言葉で、話している内容は非常にたわいのないものですが、こういう会話がベルを通してずうっと続いていくというのは、私自身、非常に不思議な感じがしました。
 また「アシタモシゴト」とか、ちょっと愚痴を言いますと、「ゴクロウサマ ガンバッテ」と入ってくる。こうして彼女たちから応援してもらうと、私自身も励まされて(笑い)、「いやあ、随分変わったものだな」と自分でも思いました。
 普通なら、ポケベルでこういう会話をずっと続けていきましても相手の顔はわからないんですが、プリクラの交換で相手の顔もわかりますから、ずっと続けていくうちに、今までに経験したことのない形で、相手にすごい親しみがわいてきて、本当に友達になったんじゃないかなと感じています。実際、今日も朝、「ガンバッテ」とベルで言われまして、非常にうれしかったんです(笑い)。
 こうしてみると、やはり彼らの言うように、ポケベルやプリクラがなければ友達づくりができないこともあるというのは、本当にあるのではないかと感じます。それだけに、こうした子どもたちの気持ちを私たちがどう受けとめていったらいいかというのは非常に難しい問題だなとも思います。またこのような子どもたちも、そのうちどんどん成長していきます。その子どもたちが作っていく新しい未来というのはどういうものになるのでしょうか。
 最後に、このような新しいコミュニケーションがこれからの社会にどのような影響を与えていくかについて、慶應義塾大学の石井威望教授に聞いてきましたので、そのビデオをごらんください。

石井先生のお話の議事録へ

河村:  これからも子どもたちの新しいメディアを使ったコミュニケーションについての研究を続けていきたいと思います。これで今回の報告を終わりたいと思います。ありがとうございました。

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