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子どもや青少年に対する治療法としての催眠

マレーネ・リッチー、理学士/看護学修士、エマ・プランクの最初の助手

 2005年6月、アメリカ・テネシー州、ナッシュビルで開催されたチャイルドライフ学会(http://www.childlife.org/index.htm)のカンファレンスで行われたレオラ・カットナー博士によるワークショップについての評論を翻訳したものです。カットナー博士は、小児臨床心理士であり、カナダ・バンクーバーにあるブリティッシュ・コロンビア小児病院およびブリティッシュ・コロンビア大学で臨床学の教授を務めています。

 「催眠療法は、幼い子どもや10代の若者には理想的な治療法です。」とカットナー博士は言う。彼女は催眠状態について、「常にではないがリラックスしている時によく見られる意識状態であり、暗示にかかることによって集中力が高まり、自分が本来持っている精神的/肉体的能力を最良のレベルまで発揮できるようになること」と定義している。全ての人、特に子どもは、想像力を働かせることで、自分の行動や考え方、感情などを変化さることにより身体の機能障害や痛みなどを自ら和らげる能力を持っている。創造性や想像力、遊びを利用して、論理や分析による考えを回避するのである。

 子どもの知覚や感覚が高められると変化があらわれる。まず緊張がほぐれ、呼吸の仕方や脈拍に変化が起こり、口調は落ち着いてきて、年長の子どもや大人のなかには、瞼が重くなり、時にはよだれさえ出る場合もある。オーストリアのフランツ・アントン・メスマーによる1766年の論文に代表されるように、18世紀にはすでに催眠は研究の対象になっていた。二度の世界大戦中には、負傷兵に対する治療法として自己催眠が効果的であることが証明された。スタンフォード大学のアーネスト・ヒルガード、ジョセフィーン・ヒルガード両博士の研究によると、催眠は1955年に米国医師会により、その効用が認められた。不安や睡眠困難、あるいは急性/再発性/慢性の痛みを抱えている小児患者への治療法として催眠は非常に役立つ。ただし、手術を間近に控えている子どもや、低知能、脳障害、虚弱体質、精神病を抱えている子どもには適さないという。

 辛い経験に身を置く子どもたちは、信頼できる大人に救いを求める。小児科で実践される催眠療法は、お母さんの"痛いの痛いの飛んで行け!"のおまじないのようなものである。親や医者が催眠をかける時は、「〜しなさい。」よりも「〜してみようか?」のように、子どもが自らの意志で自分自身をコントロールできていると感じられるような言葉を使うと、自制心や対処能力が高まる。大人は子どもの目線や興味に合わせて会話をし、子どもの想像の世界に一緒に入っていかなければならない。

 以下は、睡眠障害を和らげるために"移行対象"としてテディー・ベアを使った例である。

 「テディーは寝る時、何をするのかな?」「テディーが気持ち良く眠れるようにだっこしてあげるんだね?」「そんな風にね。」「とっても気持ち良さそうだね。」「撫でてあげてごらん - 眠くなってきたみたいだね。」「頭を楽にしてあげようね。」「腕も楽にしてあげなきゃね。」「目が閉じてきたよ。」「もうすっかり眠くなってきたみたい - すやすや - とっても気持ち良さそう、とっても楽ちん、すごく安心しているよ、ゆっくり眠れそうだ。さあ、眠りについたようだね。」

 また、子どもの好きな話を使って新しい物語を作り出してみるのもよい。

 「むかしむかし、あるところに三匹の小さなねずみがいました。ある日、赤ちゃんねずみが病気になりました。お医者さんは『赤ちゃんねずみを助けるんだ。私の病院に連れておいで』と言いました・・・」

 という風に。

 注射などが必要である場合、3歳から10歳くらいまでの子どもには、「魔法の手袋」という、催眠によって痛みを取り除く治療法を使うと、痛みや不安を大幅に緩和することができる。その方法とは:子どもに、自分の腕を守ってくれる「魔法の手袋」をはめるのだと説明する。「今からする事は、ちっともこわくないよ。少しチクッとするけど、平気だよ。」と言いながら、指の先から手首、ひじ、そして上腕の順に子どもの腕を全体的に強く撫でる。魔法の手袋が腕を守ってくれると暗示をかけながら、強めに優しく何度も撫でる。魔法の手袋をはめていない方の腕には、感覚がしっかりと残っていることを鉛筆の先などを使って調べ、その後、魔法の手袋をはめた腕でも同じように試してみる。子どもが両腕の感覚の違いを感じることを確認できたら、注射を打つ。注射が終わったら、「手袋」の暗示を解き、子どもの両腕に同じ感覚が戻ったことを確認する。

 若者によく見られる偏頭痛の治療薬として使われているプロプラノロールと自己催眠について、偽薬(プラシーボ)を用いた比較実験を行った。1ヶ月に4回以上偏頭痛に悩まされている6歳から12歳までの33名の子どもを調査した結果、3ヶ月間で、偽薬を与えられた子どもは13.3回、プロプラノロールを投与された子どもは14.9回の偏頭痛があったが、自己暗示の治療を受けた子どもは5.8回だったことがわかった。

 かつては、意識的にはコントロールできないと考えられていた夜尿症などの症状についても、子どもたちは自己制御することができた。コーヘンら(1984年)はアメリカ、ミネソタ州のミネアポリス小児医療センターの行動小児科プログラムの一環として、夜尿症を治療していた257名の子どものデータを調査した。その結果、44%の子どもが夜尿症を克服し、31%の子どもに著しい効果が見られた。バナルジー、スリブスタフとパラン(1993年)らは、夜尿症の子どもに催眠治療を行った場合とイミプラミン投与治療を行った場合とを比較している。(それぞれのグループには5歳から16歳までの25名の子どもが参加した)3ヶ月後、治療が成功したのはイミプラミン投与グループが76%、催眠治療グループが72%だった。

 催眠療法の中で使われる言葉は、心の支え、希望、愛情、勇気、活力、好意、そして、苦しみから解放する力を持ち、子どもの不安や痛みを取り除くのに役立つ。それは、子どもの話に一生懸命耳を傾けることによって生み出される。自分が抱えている心配事や辛い経験が少しでも楽になったと子どもが感じた時、克服感は高まる。薬に頼ったり、制約を受けたりすることも少ない。カットナー博士は「副作用を全く心配せずに、不快感を快感に変えるための手段として、これほど効果的な心理療法は他にはありません。」と締めくくった。




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