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Vol. 20, No. 7, July 2004
1. 幼い子供の自殺について

幼い子供の自殺について

グレゴリー・K・フリッツ医学博士

 1980年に、私は6才未満の子供の自殺未遂についての報告書を初めて発表した。5歳の男の子が裏庭の木で首をつっているのを偶然発見され、すんでのところで一命を取り留めたという内容だった。走行中の車から飛び下りるなどの自己破壊的行為や、あからさまに自殺を題材とした遊びは、この6歳の子供の自殺未遂事件が起きる前まで、真剣に取り上げられることはなかった。相当幼い子供でも自殺を図ることがありうるのだという、当時としては論議を巻き起こすような考え方を例証するために、私はその事件のことを書いた。

 実のところ、事件について書いたのは、このような衝撃的で心をかき乱すような臨床経験に対して自分の気持ちを整理するためでもあった。それまでは当時のほとんどの専門家たち同様、そんなことがあるはずがないと思い込むことで、就学前の子供を自殺に追い込むほどの精神的苦痛や病状と向き合うのを避けていたのだった。そして、そのような誤った考えを取り除いてくれたのが、小児科で1ヶ月間治療をしていくうちによく知ることになったその5歳の男の子の患者だった。その時から私の幼少期についての見方が変わった。

 それから約25年後、我々はもっと現実的になった。今では、大人だけでなく、あらゆる年齢層の子供達の自殺のデータが集められている。幼い子供達が自殺するなどありえない、と現実から目をそらしていた時とは決定的に違う。1999年には5才から14才までの244人の子供が自殺によって命を落とし、2000年には297人になった。この年齢層の人口10万人あたり、それぞれ0.6人と0.7人の自殺率に相当する。幼い子供の自殺に対する考え方、方法、自殺未遂について、未だ信頼のおけるデータはないが、青少年については、このような行為に関するゆるぎない疫学的証拠がある。高校生を対象とした広範囲に渡る入念な人口調査では、(彼らが今までに)自殺を考えたことがある(17〜19%)、自殺の計画を立てたことがある(11〜14%)、もしくは、自殺未遂をしたことがある(5〜8%)ことが明らかになった。1件の自殺の背後には、男子で400件、女子ではその10倍の自殺未遂があるのではないかと推測されている。しかし、過去に自殺未遂の経験があること自体が自殺による死への最大の前ぶれである。このような「自殺をまねく」行為は深刻に受け止めなければならない。

 自殺の危険性を判断するのは決して容易ではないが、幼い子供に関しては特にそれを困難にしている理由がいくつかある。一番はっきりしている事は、幼い子供達は青少年や大人に比べて、認識力や言語力が未熟だということである。思春期前の子供達が持つ意志伝達の内容や方法はあまりに広範囲に渡っている。物事には因果関係があることを知らない子供達は、自分の自殺的行為とそれを引き起こした原因や感情とを結び付けることができない。たとえ年齢の割にうまく意志を伝えることができる子供達であっても、決められた診察の手順にそって評価を施そうとする見知らぬ大人に対して、進んでいろいろ話そうとするだろうか。直接対話ができない場合は、言葉遊びを通して自殺願望を見極めることができる。危険な行為の繰り返しや死にゆく子供をテーマにするのは、自殺への危険信号である。

 自殺には、「死のうとする意志」が必要である。それは、自殺するという行為の背後にある動機、その方法によって確実に死ぬことができるという認識、そして実際にその方法で自殺を図った時の医学的な危険性、順を追ってこれら3つの要素から成り立っている。自分の身体について初歩的な知識しかなく、本当に命を落とすとはどういうことなのかを知らない幼い子供達にとって、彼らの考えた自殺の方法で実際に死に至るのは、偶然以外にありえないだろう。同じような自殺に思えるものでも、幼い子供達の中では様々な動機が存在する。例えば、誰かの注意を引こうとか、家族を変えさせようという動機よりも、亡くなった人のところへ行きたいという動機の方がかなり危険性は高いのである。

 子供の精神医学には、子供の行動は、幼ければ幼いほどその時に直面している状況の影響を強く受ける、という格言がある。これは、問題となっている自殺行動についても、また子供がその自殺行動について心理鑑定の場でどのように伝えるかについても当てはまる。したがって、どうしようもなく悲惨な家庭環境にあって、常に自殺願望のある子供でも、次に何が起こるか予測可能な、安心できる状況下で心理鑑定を受けている際には、普段の様子とは著しく違った印象を与える可能性がある。この様子をもとに、この子の自殺の危険性は極めて低く一時的なものであるとして、家庭環境が全く改善されていない家族のもとに帰しても安全だと結論づけるのは間違いであろう。効果的な介入を行うためには、どんなに幼い子供でも自殺をする可能性があるということ、またその自殺の危険性の評価は本質的に大変複雑なものである、ということに留意することが不可欠である。


The Brown University Child and Adolescent Behavior Letter, July 2004
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