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アメリカの「対立から学ぶ教育」
アメリカの「対立から学ぶ教育」〜誰もがピースメーカーになれる教育実践

第6章、第7章では、日本の平和教育、開発教育、社会教育などを専門とする方々に、アメリカの実践についての分析、CR教育の日本における可能性について寄稿していただいた。

第6章 子どもの未来を子どもの手の中に〜対立から創造へ

帝塚山学院大学教授 岩ア 裕保

 中村氏の報告によれば、全米85000の公立学校の内、その1/5から1/4の学校でCR教育が実施されており、Peer Mediationがアカデミズムで提唱されるようになって、もうかれこれ半世紀になるという。反核グループも法律家グループも、またクエーカーの非暴力のプログラムも、”Conflict Resolution”という「共通の言語」を持っていると見てよい。それは、長期的な視座の下で、conflictの概念を再構築し、問題解決を自らの手で行うことが出来る人を育て、社会を造り変えていくということと理解できる。
 オークランド(ニュージーランド)にPeace Foundationという組織があってCool Schoolsというプログラムを展開している。中村氏の報告はPeace Foundationの活動内容とも共通している点が多い(上條直美「Cool School Peer-Mediation Programme―ニュージーランドの平和教育の現場から」『PRIME 22号』、明治学院大学国際平和研究所、に詳しい)。Cool Schools Programme(CSP)は91年から始まり、現在ではニュージーランドの全学校の半数以上に紹介されている。CSPでは、オークランドだけではなくクライストチャーチ、ウェリントン、ダニーデンといった主要都市以外にも専門のトレーナーを置いて、地域ごとで小・中・高、そして大人向きの活動をしている。CSPはニュージーランド政府の保健教育省のサポートを得ており、各学校は費用の負担なくトレーニングを受けることができる。
 米国でもニュージーランドでもNGO活動が公教育に位置づけられている点が意味深い。CR教育やCSPが「主張」ではなく「解決方法」を探究しているところが、評価されているのであろう。peer mediatorは地位の力を用いて解決を図るのではなく、よく聴き、気持ちを共有し、どうしたらよいかを問う、という協働作業―極めて平和的なプロセスの体験―に係わる若者の数を増やしていくことになる。生徒同士の問題を生徒が解きほぐすことができるということは、自律を育むことである。そしてそれは、未来は自分たちの手の中にあるという実感を分かち合うことでもある。
 CR教育は社会的文脈で他者との関係に不安や不信感を覚えることを「人間の成長や関係作りに必要かつ重要なこと」として意味づけることから出発している。こういう見方は私たちの社会には新しいことかも知れないが、日本でも必要な座標軸として考えていく意味はある。子どもの成長に伴って、環境が変化していくということは、まさにconflictに向かい合っている、いやその真っ只中にいるということで、CR教育はこのような当事者自身が積極的に課題に取り組むことが出来るようになるプログラムとなっている。安心できる平和的な環境をつくり、結果的に「学力向上」にも繋がっている。「平和の文化」「人権の文化」といった普遍的な文化を大切にすることが、「学力向上」と関係があるという事実は、私たちが暮らす社会における「知識注入型」の教育のありように再考を迫っている。
 欧州では、「現状追認型」ではなく「あるべき理念」を描いて、そこに至る筋道を具体化していくことが「持続可能な社会」作りには有効であるとする視座が広く受け入れられている。教育を通して世界平和に貢献をする、民主的な社会をつくるにはCRが教育に組み込まれる必要がある、というトム・ロドリックの指摘もそれと同心円にある。いや、「一世よりも二世が、二世よりも三世が、よりアメリカ的である」だから「本当のアメリカは未来にある」「アメリカは未来に引っ張られて発展していく」というのがアメリカ人の思考パターンだという説からすれば、理念追求の本家はアメリカかもしれない。こうした文脈で「ウィン-ウィン」を捉えるとアメリカに希望が持てるという気もしてくる。CR教育を受けた子どもたちが、争いや戦いではない「対立の解決」の仕方を身につけて、それがアメリカの「子どもの権利条約」や「女子差別撤廃条約」などの批准の力になることを期待する。



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