学ぶ順序が逆になっている｜特別インタビュー「子ども・メディア・教育」｜ＣＲＮイベント｜図書館

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―特別インタビュー―

子ども・メディア・教育

石井威望×聞き手：河村智洋

3	学ぶ順序が逆になっている

河村　確かに基礎基本の見直しという点では慎重であるべきだと思いますが、一方で教養教育に関してはもっとメディアのよさを取り入れることはできると思います。最近、私は漫画で『三国志』を読んだのですが、そうしたら、それまで漢字だらけで大嫌いだった中国史が急に好きになって、夢中になって勉強してしまいました。最初は『三国志』の時代だけを学んでいたのですが、そのうち中国史全体を知りたくなって、古代からの流れが一目瞭然でわかるものはないかと探し回り、それで行きついたのは学校の教科書でした。
　そのときに思ったのは、私たちがやらされていた学校の勉強は、順序を逆にして学んでいたのではないかということです。まず、関心をもたせるような体験をさせて、いろいろ調べさせて、最後に教科書で整理するという流れでいけば、勉強はすごくおもしろいのだと思います。でも、いまの学校の勉強はそうなっていない。背景も何もわからない知識を、大変な努力をして、とにかく覚える。しかし、もともと背景がわかっていないので、深くは理解されない。そして、それが活かされるべきときには、ほとんどが忘れ去られている。なんて無駄なことをやっているのだろうと思います。
　高校の必修科目の未履修問題が話題になりましたが、ブロードバンド時代の歴史や地理の学習のあり方をもっと検討してほしいと思います。

石井　ブロードバンドが登場するまでは、私たちは他人によって編集されたコンテンツにしか出合っていませんでした。そのように整理されたエッセンスを与えられても、元々どんな背景からその知識が出てきたのかわからないので、理解できないということになります。本来は未整理の情報を与えて、本人に好奇心をもたせ、それを整理させるのが学習なのに、それをやっていません。だから無味乾燥な機械的暗記を強いる学習になってしまうのです。もちろん、暗記は学習の大切な要素だが、偏重の度が過ぎてはよくないと思います。
　先日、私の秘書が仕事でタイに行ったときに、偶然軍事クーデターに遭遇しました。彼女はその様子をタイプU*5を使って映像で日本に送ってきてくれたのですが、それを見ているとニュースでやっている映像とかなり違っています。ニュースでは街中を走る戦車ばかり写すので、さぞかしすごいことが起きているのだろうと思っていたのですが、彼女が空港から送ってくる映像はいたって静かで、空港ロビーでは何も起こっていないように見えます。流す映像によってずいぶんクーデターのイメージも変わってしまうことが、よくわかりました。
　そうやってリアルタイムで自分の知り合いが映像を送ってくると、それはまったくの個人的な体験となり、決して忘れない出来事となります。これは新聞を読んだりテレビを見たりしているのとは違うし、教科書や本を読んでいるのとも違います。ネットワークが生み出した新しい体験の型と言えます。これからの子どもはそういうリアルタイムの体験が当たり前になってきて、自分自身や知り合いの体験を自己編集するようになり、車を自分で操縦するようにメディアを使いこなしていくことになると思います。
　そのような日常の体験は体系化されていないからすぐに知識にはならないけれど、記憶としては確実に残ります。その原材料を基にして学習をすると歴史や地理も実のあるものに変わるのではないでしょうか。

河村　ルソーは『エミール』*6の中で、「大人はいつも最後の結果から教えようとする。だから子どもはわからなくなる。子どもにしっかりとした判断力をつけさせたかったら、まず知識のもととなる体験をさせ、そこで感覚的に事物と出合って、最後に知識に至らしめるべきだ」というようなことを言っています。

石井　そういう意味では教育の原点に戻ることなのかもしれません。また、実はそれは大人でも同じで、記号としての言葉では人間は真の理解に至るのは難しいでしょう。人間は出来事でしか学べないようにできているのです。

*5　タイプU
ソニーが開発した文庫本サイズのモバイルパソコン。ウィンドウズPCとしては世界最小・最軽量。内臓カメラとマイクで無料ビデオ通話(TV電話)もできる。(プリインストールされた「ビデオスカイプ」利用)

*6　『エミール』
18世紀に物語風に書かれたルソーの教育改革論。子どもを社会の悪影響から守り、自然の状態に返すことを本来の教育の役割とした。

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