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4月
4月

〜子どもの心が見えていますか?(4/5)〜

<今月の本>フィリッパ・ピアス作 『まよなかのパーティー』



まよなかのパーティー

《子どもの心を照らしだす今月の絵本》

フィリッパ・ピアス作『まよなかのパーティー』(猪熊葉子訳/富山房)

 表題ほか次の通り全部で8篇からなる短編集。いずれも、イギリスのケンブリッジにほど近い故郷にもどった作者、ピアスが、自分のよく知っているその地に生きる子どもたちをモデルに描いています。現代のタイム・ファンタジーの古典といわれる『トムは真夜中の庭で』(高杉一郎訳/岩波書店)を書いた作者が、リアルなタッチをつらぬいて書いた世界。

球 「よごれディック」

 近所の嫌われ者でひとり暮らしの浮浪者ディックのお金が盗まれたらしい。それをわざわざ少年に知らせたのは、隣に住むメイシーじいさんだった。メイシーさんは、奥さんから、かなりひどい扱いを受けていた。ある朝少年を呼び止めて…… 。
 見すぼらしく、きたないといわれているディックが、いかに気高い精神の持ち主であるかを知った少年は、彼をとりまく大人たちの嫉妬、欺瞞や偏見、残酷さをも知ることになります。少年の共感と親しみをよそに、黙って町を去るディック。「ぼくはほんとうにディックがうらやましかった」少年は哀しみを隠してつぶやきます。

球

「牧場のニレの木」

 幼いころから遊んできた牧場の大きなニレの木が、農家の納屋の庇にぶつかり、伐られることになった。友だちのような存在だった一本の大木が、ただ切り倒されるまでを描いている作品。少年たちの人間関係をベースに、共通の心のよりどころだったニレの木を失うことで結ばれていく友情の微妙さ。倒れたニレの木を窓越しに見る少年の悲しみが吹き出してくるラストが不思議な感動を与えます。

球

「川のおくりもの」

従兄弟同士のふたりの少年が夏休みに田舎の祖父母の家ですごすことになります。川底にすむイシガイをめぐってくりひろげられる葛藤。年上の少年ダンは、一度はそれを自分のものにしようとするが……。
心理ドラマの展開の中で、互いの少年の複雑な心のひだが描かれて見事です。ひとのやさしさこそが、人間のエゴを乗り越えるすべであることを、物語が静かに示してくれます。流れる川の水の感触や音がほんとうに伝わってくるような作品です。


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