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6月
6月

〜絵本の楽しさを共有する時間とは?(2/4)〜

<今月の本>
ヨーレン作 『月夜のみみずく』、アーノルド・ローベル作 『ふくろうくん』、『ぼくのおじさん』




◆一冊の絵本を手渡す心と、それを受け止める心◆

 「まずは、じっくり、ひたすら彼女の話に耳を傾けたの。それから、恐らく、そういう悩みは、あなたひとりのものではない、と告げました。そして、自分の悩みをきちんと見つめていること、なんとか解決しようとしていること、その2つだけ見ても、あなたはすてきなお母さんだと、心からの敬愛をこめて伝えたんです。そんなことしか、私には言えなかったから。」

 ひたすら相手の話を聞く以上に、優れたカウンセリングはないといわれます。最後に、Aさんは、ほとんど無意識のうちに、そのお母さんに一冊の絵本を手渡したそうです。
 「一日のどこかお好きな時間に、たとえば、ベッドに入ったときなどに、ゆったりとした気持ちで、すなおに、この絵本をお子さんに読んであげてみて。問題の解決にはならないでしょうけれど、きっと、あなた自身が心安らぐ時間をすごせると思うわ」

 それが、Aさんにできる精一杯のことだったということです。Aさんは、願いをこめて、絵本を選び、お渡ししたのでしょう。

◆お母さんが本を読んでくれた◆

 それから、2、3日して、その若いお母さんがやってきました。とにかく、ワラをもつかむ思いだったらしく、あまり、むずかしいことは考えずに、一日の終わりに、その子に絵本を読んであげたということです。(この場合、何を読んでやったかということは問題ではありません。基本的に、お母さんがおもしろいと思った本ならそれでいいのです)。

 「最初は、めんどうなような、照れくさいような気がして……。最後まで読めるかどうか心配でした」
 でも、なんとか読みはじめてみると、意外にお子さんは静かに聞いていてくれて、読み終わると、満ち足りたような、安らかな寝顔をみせて、静かな眠りについたということです。お母さん自身も、なんだか、心がおちついたそうです。

 「自分のために、お母さんが一生懸命に本を読んでくれた。――そのことを、子どもが心の深いところで喜んでくれたのが、私にも、よくわかりました。また、少しずつ、やってみようと思います」

◆子どもとすごす黄金の時間の共有◆

 少し、ほっとしたような表情で、Aさんに語ったというそのお母さん。いくらか、背負っていた荷が、軽くなったのではないでしょうか。ひとの心のために、何か力になりたいと思っても、なかなかむずかしいのが現実です。でも、その思いが、〔絵本〕というものを通して、直接、間接に働きかけ、思わぬ力となることも、ままあるようです。

 一冊の絵本にこめられた〔思い〕や、物語は、それを読む人と聞く人の間に、あるイメージの世界を創り、それを共有する楽しさ、喜びが、おたがいを満たします。そのとき、たがいの信頼や愛情を無意識のうちに感じ、また、育むのでしょう。〔絵本を読む〕というのは、そういう時間を過ごすということのようです。

 子どもと楽しい時間を過ごせるのも、そう長い期間ではないことも事実。過ごせる間は、少しでも多く楽しく心温まる時間を共有したいものですね。そのような毎日の積み重ねが、思い出となります。なんといっても、子育ては楽しいことうけあいです。子どもとはじつにおもしろい、ふしぎな生きものです。そして、それは誰の心のなかにも、おとなになったいまでも、実は生き続けているのです。


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