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9月
9月

〜わが家のアン・テリ物語(3/6)〜

<今月の本>
ガブリエル・バンサン作 『アンジュール』、フィリッパ・ピアス作 『まぼろしの小さい犬』




◆生命の歴史と胎内のプロセス◆

 いったい、人はなぜ、犬に限らず動物たちをペットとして飼い、共に暮らすことを求め、それを喜びとするのでしょうか。
 仕事でお目にかかった中川志郎先生が、こんなことをおっしゃいました。
 「女性はすごいですね、生命の歴史を自分の胎内で体験してしまうのですから。」

 つまり、生物が海で生まれて、プランクトンのようなものから、やがて魚類、両生類、毛だもの、と変化していく、その太古からの命の変遷のプロセスを、ほぼ同じように、しかもたった10か月で胎内で行ってしまうのが妊娠期間だというのです。
 私は、子どもを出産する前にその話を伺っておれば、もっと神秘的で荘厳な気持でお産ができたことでしょう、と申し上げて笑ったものです。

 その時に、先生は、だから我々人間は自分たちの遠い昔の姿でもある、毛のある動物や魚たちを身近に飼いたがるのだ、ともおっしゃいました。また、だからこそ、私たちは動物たちの子育ての姿を見て、感動したり、教わったりするのだとも。
 昨今では、大腸菌やキノコですら、私たち人間と同じようなDNAをもっているとまでいわれています。まして・・・・・・と、思うわけです。そんな広大無辺で深い思いはともかくとしても、明らかに動物たち、あえてペットたちといってもいいのですが、彼らが人の心を癒してくれる存在だということは真実です。

 聞くところによると、老人介護施設などでも、心のケアのために犬などに触れる時間をもたれるそうです。わが家の息子も、ずいぶんと自分の憂さのはけ口をアンに向けていたようです。ほんとうに、どんな子どもでも、ミドリガメやザリガニ、ハムスターに始まり、一度や二度は生き物を飼いたいと思うものです。
 わが家の狭い庭には次々と小さな生き物たちのお墓ができていきました。

 もちろん、命を見守り、世話をして共に生きることは、簡単ではありません。それを続けるには、努力も忍耐もいります。まさにドラマとしか言いようのない悲しみにも出会います。ことに、現代の都市の中では、いろいろな物理的困難もつきまといます。
 しかし、困難を乗り越えながら、動物たちとの「共生」を持続することで、私たちはなんと多くの喜びと、生きることの示唆と、心の安らぎを得ることでしょうか。
 この暑い夏は、わが家のアンの死で、改めてそんなことを考えさせられました。


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